第21話 それ僕のことですから
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ありがとうございます。
まさか、ガッツさんが正面から打ち勝つとは思っていなかった。スキルの効果なのかわからないけど、根性はすごかったな。すごいもん見たよ。
「師匠、ありがとうございます。師匠のお陰で格上相手に勝つことが出来ました」
「いやいや、僕なんて【意思疎通】で少し手助けしただけですから。ガッツさんの日頃の努力が実を結んだんだと思いますよ」
「いえ、魔力に目覚めたばかりの私では剣を砕く程の【魔装】を纏うのは不可能というもの。二度師匠のお手を煩わせました」
あららぁ。バレないようにやったと思ったけど、バレてたか。剣で攻撃されたときに契約の鎖を通じて【魔装】を発動させてたんだよね。
「すいません。真剣勝負に水をさしてしまいました」
「いえ、この男は私一人では到底倒し得ない相手でした。寧ろ、あの速度の戦闘に割り込める師匠の技に感服しました」
当の男はガッツさんの一撃で気を失っている。
『アルバ、【星の記憶】でこの男を調べて』
『承知』
頭の中に情報が流れ込んでくる。
『ゴウケツ レベル107 248才(鬼人と森人の混血)
スキル 【操気術】
体力 ランク10
魔力 ランク8
筋力 ランク11
知力 ランク7
頑強 ランク9
敏捷 ランク12
感覚 ランク8
鬼人族の族長
アークドイン帝国の間者
一族を人質にされている』
すごいな。レベル100を超える人って本当にいるんだ。
ガッツさん、よく勝てたな。
あれ?
この人、魔力がランク10を超えてないぞ。
これだと竜の角笛を使えないはずだよね。
「師匠? どうされました?」
「いや、ちょっとね……あ、あった」
アルバにお願いして同じく【星の記憶】で調べてもらった。
『竜の角笛
アークドイン帝国の国宝(危険物指定)
白竜アルバ・グランディーヌレクスを呼び出すことができる(喧嘩を売っているとも言う)。
使用するにはランク10以上の魔力を要する』
アツィーノ様が言ってた情報に間違いはない。
竜の角笛を使うのに必要な魔力のランクは10。
でも、このゴウケツの魔力はランク8しかない。
どういうことだ?
『アルバ、これしまっといて』
『承知』
アルバの【亜空の間】に収納してもらう。
お、丁度目が覚めたみたいだし本人に聞くか。
――ガバっ。
背後から首を締められた。
「はぁ、はぁ、ガッツ・アルゼン。貴様が強化系のスキルを使えるとは知らなかった。しかし、油断したな。この子供を殺されたくなければ大人しくしていろ(安心しろ、お前に危害を加えるつもりはない。騒がないでくれ)」
「師匠っ!?」
「そうか、シショウというのか。貴様の従僕か? 狼狽え具合からして人質としての価値はあるようだな」
『あ、ガッツさん。大丈夫だから気にしないで。この人も僕に危害は加えないってボソッと言ってたし。丁度話もしたかったから』
『し、承知しました』
ガッツさんは僕が捕まったことを驚いていたので【意思疎通】で問題ないことを伝えておく。
うーん。このゴウケツって人……敵だけど悪い人には見えないんだよなぁ。力づくで取引しちゃってもいいんだけど……まぁ、それは最後の手段にしよう。
「あの〜、ゴウケツさんはなんでここに来たんですか?」
「――っ!! お前【鑑定】持ちか!?」
「いえ、【鑑定】は持っていませんが、似たようなことが出来ますね。まぁ、それはいいとして腑に落ちない点がいくつかあってですね。お聞きしたかったんです。追手から逃げてたゴウケツさんが、どうして逆に僕等を追ってきたんですか?」
「は? 何を言っている? 俺は化物みたいな魔力を持ったやつの動向を確認しに来ただけだ。そいつがいるとドラゴンが呼べないんだよ」
「ああ、なるほど。そういうことですか。1つ納得しました」
本当は一旦ゴウケツさんの【感知】の範囲外に出て、特定されてたのを振り切ろうとしたのに、逆に追ってきたからどういうこと? って思ってたんだよね。
「あと、竜の角笛を使えたのは何でですか? ゴウケツさんの魔力じゃ使えないはずですよね?」
「それは俺のスキルで解決した。寿命を削る代わりに一時的に魔力を上げたんだよ」
「へぇ、そんなことが出来るんですね。納得できました。それでこれからゴウケツさんはどうするんですか?」
(おかしい。明らかにおかしい。ゴウケツは軍事機密をさらりと話している。普通なら有りえないことだ。……師匠は尋問系のスキルも持っているのか?)
「どうもこうもない。一旦引いて態勢を整え任務を全うするだけだ」
「任務って、ドラゴンを呼ぶってことですよね? 寿命を削ってまで?」
「ああ、そうだ」
「それは人質になっている鬼人族のためにですか?」
「ああ、そうだ。俺の多少の寿命など皆の命には代えられん」
やっぱりこの人悪い人じゃないなぁ。
出来れば助けてあげたいけど、アツィーノ様は許さないだろうしなぁ。
『ねぇ、アルバ、こういうときはどうしたらいい?』
【意思疎通】で事情を説明する。
『簡単なこと。主殿を止められるものは誰もおらぬ。主殿が正しいと思うことをなさればよい』
『そっか。参考になったよ。ありがとね』
まぁ、だからといって何でも好き放題するのは間違ってるってことくらいは分かる。でも、今回はいいよね。
「あれ? ちょっと待て。俺は今何を話した?」
「ねぇ、ゴウケツさん。僕と取引しませんか?」
「取引だと?」
「ゴウケツさんが任務を達成することは出来ません(竜の角笛は没収しちゃったしね)。それどころかこのままだと騎士団に捕まって命を落とすのは明白です。ですが僕の家来になるのなら、今回の件でゴウケツさんを無罪にするように取り図ります。どうですか?」
「おい、小僧。危害を加えられぬと高を括って調子に乗るなよ。言っただろう。俺一人の命と一族皆の命では比較にならんのだ。あまり巫山戯たことをぬかすなら縊り殺すぞ」
あれ?
取引に失敗しちゃったぞ?
どういうことだ?
あ、もしかして任務失敗は一族皆殺しとか?
そんな脅しをされてるのかな?
家来になって命を長らえても、一族が死ぬなら取引する意味がないってことかな?
これは取引の材料を間違えたか。
でも、そうだとしたらこの人相当な傑物なんじゃないかな? 一族のために自分の命を投げ出せるってことでしょ。
「ああ、でしたら条件を変更しましょう。あなたが僕の家来になってくれるなら、鬼人族をアークドイン帝国の支配から解放します――もしくはそのお手伝いをします」
「小僧、それ以上口を開くな。貴様ごときに何が――」
――ズン――
【威圧】でゴウケツさんを押しつぶす。
同時に僕は解放された。
「さっき『化物みたいな魔力を持ったやつ』のこと話してましたよね。……それ僕のことですから」
「ああ、あ、あ」
ゴウケツさんは驚きと恐怖で引きつった顔で地面にめり込んでいる。
「アルバ、こっちに来て」
『承知』
「ああ、アルバってのはドラゴンのことです」
「えええっ!?」
後ろでガッツさんがえらくビックリしてる。
「大丈夫ですよ。危害は加えませんから」
――バサァ、バサァ、バサァ――
暴風を伴ってアルバが降臨した。
本当にすぐに来た。
そして着地するなりアルバは僕に頭を垂れる。
中々の演出だ。アルバの行為の意味するところは十分伝わっただろう。
ここで【威圧】を解く。
「そうですね。アルバがその気になれば国とか支配するのは簡単みたいなんですが……取引しますか?」
ゴウケツさんは僕に向かって頭を垂れた。
「我は今よりそなたを主と仰ぐ! どうか一族のために力を貸して下され。お頼み申す!」
ゴウケツさんの声は震えていた。
顔を伏せていたけど、ポタポタと涙が地面に溢れていた。
「じゃあ、取引成立ですね」
カッと光が放たれ取引は成立したのだった。




