第19話 【根性】スキル
「師匠、それでは私のことはガッツとお呼びください。私も元は平民ですから遠慮は無用です」
「そ、そうですか? ではガッツさんとお呼びしますね」
ガッツさんは、本気なのか冗談のつもりなのかわからないけど、僕のことを師匠と呼び始めた。
「ところで、ガッツさんは何のスキルを授かっているのですか?」
「私のスキルですか? 【根性】ですよ」
あんまり聞いたことないなぁ。
この国で五指に入る実力者なんだからすごいスキルを持ってるのかなと思ったけど。どうなんだろう?
「何か不思議そうな顔をしてますね」
「はい、失礼とは思いますが、その、あまり強そうなスキルではない気がして……。まぁ、僕も【商い】ですから人のこと言えませんけど」
「ははは、そうですね。名前だけ聞くと微妙なスキルですし、小さい頃は周りからバカにされました。スキルの効果も『根性がある』でしたし」
うっ、何か通じるものを感じる。
「でも、私はこのスキルが気に入っています。私は天性の素質には恵まれませんでしたが、根性があるおかげで厳しい訓練にも人一倍耐えられますからね。お陰で体だけは丈夫になりましたし、天才と言われるような人たちにも何とかくらいつけるくらいには強くなることができました」
えっ、めちゃくちゃ努力の人だ。
努力だけで国の五指に入るって、どれだけ努力したのか想像がつかない。
「強化系のスキルとか、何か他のスキルは修得されているのですか?」
「いえ、そういったのはさっぱりで。諦めずに訓練は続けているんですが……。なので師匠との特訓はすごく楽しみにしています!」
「じゃあ、なるべく早く敵を捕らえないとですね」
おおう、そういうことか。
この人、本気だ。本気で8歳の子供に弟子入りしてる。
これは期待を裏切れないなぁ。
っていうか、他のスキルを修得してないってことは実質スキル無しで戦闘系のスキル持ちと渡り合えるってことだよね?
ちょっと信じられないんだけど。
「しかし、明らかに敵は僕らから逃げるように動いてますね。感知系のスキル持ちなのは分かるのですが、街中にはこんなに人が居るのに僕らを追手として認識しているのが不思議です」
「そうですか? 私との模擬戦の時に放たれた師匠の魔力は【感知】持ちでなくても感じ取れたでしょうし、敵がそれ以降師匠を警戒していたのであれば特に不思議ではないかと」
「それだ! さすがガッツさん」
成程ね。追跡前から警戒されていたなら納得かも。
そうだね。きっとそうだ。
さて、そうと分かればどうしようか。
◇ゴウケツ◇
ん? 奴らが離れていく?
単なる巡回だったのか?
偶々進路が重なっていただけなのかもしれん。
追跡されていると思ったのは気のせいだったか……。
どうやら神経質になりすぎていたようだ。
奴等はこのまま城壁の外へ出るのか……。
しかし、あの化物と戦わずに済んてほっとした。
安心したら、今更ながら手が震えてくる。
この俺がここまで怯えさせられるとはな。
はっ、いかん。いかん。安心している場合じゃない。
このまま外に行かれたら【感知】の範囲を越えてしまう。
やつを見失うのはマズい。
一度見失えば奴がまた魔力を解放しない限り特定することが出来ない。
どうする。
城壁の出入りは問題ないが……。
くそっ、外に出たら速度を上げやがった。
馬に乗ってやがるな。
もしこのまま奴が街を離れて別の土地へ向かうならよし。
その時は再度ドラゴンを召喚すればいい。
しかし、奴が再び街に戻ってくるなら召喚は出来ない。
阻止されると分かっているのに無駄に命を削ることは出来ない。
ならば今は危険を承知でやつを追い、動向を見極める必要がある。
よりによって昨日ドラゴンが暴れた森の方に行くのか。
そっちは元々人通りが少ない。
昨日の今日なら余計にだ。
くそっ。
ここで走るのは不自然すぎるし……ああ、感知の範囲を越えちまった。
無駄骨だったか。
かと言ってここで直ぐに引き返すのは不自然だ。
ドラゴンの暴れた跡を見に行った野次馬冒険者の振りして引き返すか。
先へ進むと森に入るのは騎士団によって禁止されていた。
と言っても口頭で注意されてるだけで封鎖はされていない。
見張りも2名しかおらずその気になればいくらでも入りこめる。実際【感知】すると何名か森の中にいる。命知らずの冒険者か騎士団かはわからんが色々と調査しているようだ。
しかし、凄まじい破壊の跡だ。
木々が吹き飛び、大地が抉れている。
これがドラゴンの力なのか?
あの角笛で呼び寄せるのはこんな化物なのか?
ドラゴンの逸話は数あれど、それはどこか遠い話だった。実際に大地に刻まれた痕跡を目にするとその恐ろしさが身を襲う。
俺に与えられた任務は熱血騎士団を無力化すること。
しかし、そのためにドラゴンを召喚したらバーナーの街ごと消えてしまうかも知れない。
少し考えれば分かることだが、深く考えないようにしていた。それを気にしたところで任務は放棄できないのだから。
しかし、もう遅い。既に自分のやろうとしていることに躊躇いが生じてしまった。
ふと、抉られた大地の上からこちらを見据える男がいるのに気付いた。
俺は運がいい。
あれはガッツ・アルゼン。
抹殺優先順位第一位の男が馬にまたがっていた。
情報によると、戦闘系のスキルは有しておらずレベルも52。単独ならば問題なく処理できる。
奴さえ殺せば任務の大半は完遂したようなものだ。
ただ、気になるのは奴は明らかに俺に敵意を向けてきている。
間者だと気づかれたのか?
だが、応援を呼ぼうという素振りも見せない。
単に冒険者風の男に警戒しているだけなのかもしれない。
もしくは一人もで対応出来ると思っているかだ。
奴が馬を進めてこちらに近づいてきた。
明らかに俺を意識しているが、剣を抜いているわけでもない。
これは絶好の機会だ。
このまま近づいてくるなら先手で仕掛けられる。
覚悟しろガッツ・アルゼン!




