第18話 追跡
アツィーノ辺境伯とマイルドさんは結構長く話し込んでいて、その間に【星の記憶】を色々と試してみた。
面白いのは、魔力さえ注げば調べる対象の過去のことも知ることが出来ることだ。まぁ、魔力を注ぐのはアルバなんだけどね。
何を調べてみようかなと思ったときにふと頭に竜の角笛のことが浮かんできた。アルバによると目の前に調べる対象のものがなくても【星の記憶】を辿れば調べられるらしい、ただその場合はかなり魔力を消費して大変らしい。調べる範囲が広すぎて調べられないこともあるとか。
それで思い出したのは、竜の角笛を使用するには最低でもレベル100以上が必要だというアツィーノ辺境伯の言葉だ。
この国で五指に入アルゼン様でさえレベルは50を超えた程度。その倍以上のレベルの強者が昨日この街にいたことになる。
帝国はそんな実力者を使い捨てに出来る位強大だということなんだろうか……。
『アルバ、竜の角笛の場所って探れる?』
『うむ、分かる。一度使用されたらば、しばらくは繋がりが残る故、追うことは可能じゃな』
『僕の場所からだとどのくらい離れてる?』
『そう離れてはおらん。この感じだと街中じゃな』
そうなんだ。
『ねぇ、マイルドさん』
『どうしたアーサー?』
『アルバが、ああ、アルバってドラゴンのことね。竜の角笛の場所が分かるって言うから追ってもいいかな? 暇だし。ちなみに場所はこのバーナー市の中だって』
『大丈夫か? 相手はレベル100以上なんだぞ?』
『うん。レベルでは僕が下だろうけど、ステータスでは負けてないと思うから』
正直、楽勝だと思っている。
だって、レベル100でもランク10とかなんでしょ?
『道案内を兼ねて大人の護衛を一人つけること。それなら行っていいとアツィーノ様が言っている』
『いや、【感知】で道に迷うことはないですよ?』
『まぁ、そうだろうけどこれは面子の問題でもある。騎士団も解決しようと動いているんだから子供に解決されたとなったら面目丸潰れだろう? アツィーノ様と騎士団の顔を立てて護衛を受け入れなさい』
そういうもんか。まぁ、仕方ない。正直足手まといになりそうな気もするけど、暇してるよりはいいか。
『分かりました。あと、追跡のためにシルバーを借りてもいいですか?』
『いいよ。ただ、シルバー君はビビリだけどいいの?』
『それは大丈夫です。ありがとうございます。助かります』
………
……
…
「――って、護衛ってアルゼン様ですか!」
「あぁ、私では護衛にならないかも知れないが宜しく頼む」
「いやいや、そんなことはないですが、お体の方は大丈夫ですか?」
「ああ、これでも根性だけはある方でね。身体は鍛えてあるから問題ない」
まぁ、全然知らない人よりはいいか。
アルゼン様はいい人そうだし。
「魔力の感じからして、相手は人族ではないですよ」
「何と! 君の【感知】ではそんなことも分かるんだな」
ちなみにアルゼン様は僕が複数のスキルを使えることを知っている。
「もしかしたら街なかで戦闘になるかも知れません。恐縮なのですが、この先は僕の指示に従ってもらえますか?」
「ああ、構わない。君は僕では足元にも及ばない実力者だ。本当なら君に弟子入りしたいくらいだからね。身分のことは気にせず遠慮なく指示してくれ」
この人真面目で謙虚な人だなぁ。
凄い努力してそう。
でもこれは都合がいい。この機会に繋がりを持っておこう。
「ははは、分かりました。その代わりアルゼン様を僕の弟子にしてあげましょう」
「本当かい? ありがとう。これは嬉しいなぁ。ははは」
――カッ――
「あれ? 目の前が一瞬白くなったような?」
「目眩ですか? やはりまだ体調が良くないのでは?」
「いや、大丈夫だ。気のせいかな?」
よし。「アイゼン様を弟子にする」ことの対価として「この先指示に従う」という取引が成立した。
何か子供の冗談みたいな感じで取引しちゃったけど、悪いようにはしませんから許して下さい。
「では、行きましょう!」
心の中でアイゼン様に謝って追跡を開始した。
◇ゴウケツ◇
マズイな。あの化物が動いた。
先程感じた有り得ない程の魔力の持ち主がこっちに向かっている。
偶然か、それとも俺を狙っているのか……。
いや、他のやつならどうとでもなるが、あの化物だけは近づけるのは危険だ。ここは距離を取ることにしよう。
くっ!
やはり俺を狙ってるのか。
移動しても確実に距離を詰めて来やがる。
どうする?
信じ難いことに、昨夜ドラゴンを止めたのは奴だろう。
ドラゴンと渡り合える実力者……戦えば勝ち目はない。
このまま市民を盾に街なかで戦闘を仕掛けるか。
それとも任務を放棄し逃亡を図るか。
それとも死を覚悟して再度竜の角笛を使うか。
どうする?
兎に角、アツィーノの元にこんな化物がいるなんて聞いてない。




