第16話 ステータスは異常です
「ほぉ、堂々と言うねぇ。小僧のレベルとスキルを教えてくれねぇか?」
「すいません。レベルは分かりません。スキルは【商い】です」
更に辺境伯の目つきが鋭くなる。
「アーサー、あなたの今のレベルは18ですよ。今【鑑定】しました」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「その【商い】ってスキルは明らかに戦闘用じゃねぇな。竜の角笛を使用するにはランク10以上の魔力が必要だと聞いている。魔法特化の魔法使いでも最低でもレベル100は必要だ。つまり、実質使用するのは不可能だと言われていた。その歳でレベル18は驚きだがドラゴンを惹きつける程のレベルじゃねぇなぁ」
あ、そうなんですか。それは知らなかったなぁ。
「僕のおじいちゃんが言うには、レベル1のときでさえ僕の魔力は誰よりも多いと言ってました。魔力が溢れすぎて獲物が逃げるから狩りにならないって」
「ほう、小僧、俺は堅苦しい礼儀だのなんだの細いことは気にしねぇ。だが嘘は許さねぇぞ」
「はい、嘘ではありません」
「マイルド、お前えの【鑑定】はステータスは見れねぇのか?」
「それが、昨日までは見れなかったのですが……今は見れるようになっています」
――!!
マイルドさんの【鑑定】、成長したんだ。
おめでとうございます!
「なら、小僧の魔力のランクを教えてくれ」
「そ、それが初めて見たもので、これが本当なのか定かではないのですが……」
マイルドさんが明らかに動揺している。
【鑑定】だけは信頼してるって言ってたのに。
「いいから教えろ。悪いようにはしねぇ」
「で、では。魔力のランクは――12845です」
「「は?」」
思わず出た声が辺境伯と声が重なってしまった。
ちょっと待って、ランクってのは確か大きい程すごいんだよね。ランク1つ上げるのにも相当な訓練とレベルアップが必要で――
「すまねぇ。もう一度言ってくれ。聞き間違えたのかもしれん」
「魔力のランクは12845です」
辺境伯は頭を抱えた。
「ちなみに他のステータスを教えてもらってもいいか?」
「はい――」
マイルドさんが話た僕のステータスはこうだった。
アーサー レベル18
体力 ランク6
魔力 ランク12845
筋力 ランク6
知力 ランク8
頑強 ランク5
敏捷 ランク7
感覚 ランク34
神授スキル【商い】
修得スキル【感知】【身体強化】【魔装】【魔弾】【怪力】【瞬脚】【意思疎通】【威圧】
どうやら僕のステータスは全体的に高い傾向にあって、魔力は明らかにおかしいんだけど、感覚のランクも十分おかしいらしく、色々追求されて修得スキルにまで話が及んだ。僕の情報はダダ漏れもいいとこだ。
「アーサーのステータスは以上です」
「ああ、異常だな」
いや、「うまいこと言っただろ?」みたいな目で見られても反応に困りますよ。
「はい、ステータスは異常です」
気まずい雰囲気になる前にマイルドさんは辺境伯の小ボケを拾いに行った。辺境伯も満足顔だ。
そうか、これが商人らしい対応というものか。くっ、僕はまだまだだな。
「まぁ冗談は置いとこう。小僧、招いておきながら失礼なのは重々承知しているんだがガッツと戦ってみてくれねぇか?」
「えええっ!?」
「い、いや、構いませんけど手加減出来るかどうか分かりませんよ」
「構わねぇよ。ガッツのレベルは50を超える。国内でも5本の指に入る実力者だ」
「あ、そうじゃなくて筋力面では勝てそうにないので、魔力頼みの戦いになってしまうと思うのですが……」
ドラゴンと戦った後、魔力が飛躍的に増えたから人相手にどう戦っていいのか感覚がわかんないんですよ!
「お前の強さがどれほどなのかを確かめるための模擬戦だ。そこは遠慮しなくていいぞ」
えええ……いいのかな?
でも、ガッツさんはレベル的には圧倒的に格上だし。いいのかな?
………
……
…
「すまないな、少年。あんな人でも貴族だからな。命令には従わねばならん。だが悪い人ではないのだ。それだけは理解してくれ」
「おい、ガッツ聞こえてんぞ!」
「聞こえるように言ったんですよ」
もしかしてアルゼン様はこんな事ばかりなのかな?
苦労人ですね。
「では、まずは君の実力を見せてくれないか? 私からは仕掛けないから遠慮なく攻撃してくれ」
「分かりました」
でも、どうしようか?
遠慮なくっていってたけど、いきなり攻撃するのは控えよう。
あ、魔力制御を解いて様子を見ようかな。
うん、そうだな。それがいい。
――ドズン――
「ぐっ!!!!」
アルゼン様は目を見開く。
流石レベル50超え。僕の魔力に多少驚いたのかも知れないけど平然としている。
でも良かった。この程度なら問題なさそうだ。
この後はどうしようかな。
実力を見せると言っても怪我をさせないようにするのは難しいなぁ。
あ、【威圧】はどうかな?
怪我はしないよね。
『アーサー……止めてくれ……』
ん?
マイルドさん?
一体どうしたんだろ?
止めるって魔力の開放のことかな?
一先ず、魔力が漏れないように制御する。
「お…おい、小僧。い、今…な、何を…した?」
「何って、普段抑えてる魔力を開放しただけですよ? アルゼン様も平然としてますし――」
――バタンッ――
突然アルゼン様が倒れた。
「バカ野郎…どうみても…気絶…してんだろが」
どうやらアルゼン様は立ったまま気絶してたらしい。
「あれ? じゃあ模擬戦は?」
「終いだ…終い!」
あれ? もしかして辺境伯震えてる?
………
……
…
「じゃあ、何か? 小僧はドラゴンに勝ったってのか?」
「はい、まぁ、そういうことです」
模擬戦? の後、落ち着くまで半刻ほどかかった。
レベルの低い使用人さん達が何人も倒れたり吐いたりしたらしい。
辺境伯自身も震えが収まるまでしばらくかかった。
僕の魔力を一番間近で受けたアルゼン様の意識はまだ戻っていない。
模擬戦の甲斐あって僕の実力がステータス通りだと辺境伯も納得したのだけど、そうなると別の疑問が出てきたわけだ。
ドラゴンは単に暴れたんじゃなくて、僕と闘ったのではないかという疑問だ。
まぁ、その点は否定できなかった。というか、正直に倒したことを話した。【商い】スキルのことは隠してね。
「ははは、何だそりゃ。じゃあ小僧は俺を含めた街の皆の恩人じゃねえか。とんでもないガキがいたもんだ。一先ず礼を言わせてくれ。ありがとう」
辺境伯が頭を下げる。
辺境伯だけじゃない。護衛の人や部屋にいた使用人全てが頭を下げている。
貴族に頭を下げられて慌てないわけがない。
「いえ、単に自分の身を守っただけですから。頭を上げてください」
「それでもお前が成し遂げたことは称えられるべきことだ。胸を張って礼を受け取ってくれ」
「はい。礼は受け取りますから頭を上げてください」
そこまで言って、ようやく辺境伯は頭を上げてくれた。
「それにしても商人にしておくのは勿体ねぇ。騎士にならねぇか?」
「あ、それはお断りします」
どんどん商人から離れていく自覚があるけど、これだけは譲れないからね。




