第15話 アツィーノ辺境伯
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皆さん読んで下さってありがとうございます。
『アーサー、あの竜鱗はどうしたんだい?』
『はい、あれは僕がドラゴンを殴り飛ばして何度も地面に叩きつけられた際に剥がれたやつで、僕らが寝てる間にドラゴンが集めて置いといたみたいです。それなりに価値があるはずだからと』
竜鱗が集められていたことについては知らなかったので今さっき僕もドラゴンに確認した。【意思疎通】でね。
ドラゴンの鱗は魚の鱗の様に一枚一枚独立しているわけではない。人間の皮膚のように繋がっているため、何かの拍子に鱗が一枚落ちるということはない。
ドラゴンは脱皮を繰り返して成長していくが、脱皮した皮はドラゴン自身が直ぐに食べてしまう。そのため自然に落ちた竜鱗なんてものはまず存在しないのだ。
ドラゴンが攻撃を受けて表面が削れた。といった場合に少しだけ落ちる。しかしドラゴンに攻撃を加える存在などまずいないし、いたとしても傷つけられる存在はもっといない。
鱗が剥がれる可能性があるとしたらドラゴン同士が戦う場合だろうが、ドラゴン同士の戦いは神竜マザードラゴンにより禁止されているのと、縄張りが定められているためドラゴン同士が出会うことすらない。
最後にドラゴンが死ぬとマザードラゴンが死体を回収し吸収する。その力を糧に新たなるドラゴンを産み落とすらしい。
つまり、竜鱗に限るものではないが、ドラゴンの素材というのは超超希少素材なのだ。ドラゴン自身が気まぐれで提供しない限り人が手にすることはまずない。そして当然ながら希少価値だけでなく、素材そのものにドラゴンの力が宿っているため値が付けられない程に高い。
ちなみに、剥がれた鱗は自然と再生するから問題ないとのこと。
ただ、竜鱗を手にした時点で商人としては超一流なのに、マイルドさんはしきりに四流を強調する。それが僕には不思議だった。
『マイルドさん。竜鱗があれば商人としては超一流なのではないですか?』
『それは違うよアーサー。思いがけないところで手にしたお金というものは、不思議と直ぐに無くなってしまうものさ。だからお金のあるうちに自分の商才をどれだけ磨けるかが大事なんだよ。僕は五流から精々四流になったくらいだと思って行動すれば堅実な商いができるはずさ。一流の実力もないのにお金を持ったことで勘違いして身の丈に合わない商いをするといずれ大コケする。知らずしらずのうちに敵を作ってしまうこともあるだろう』
『でも、その気になれば竜鱗はいくらでも仕入れることが出来ると思いますけど……』
『そうだね。でも、それは売れないよ』
『どうしてですか?』
『まぁ、正確に言えば売れるけど、売ると色んな人から目をつけられるだろうね。間違いなく面倒を呼び寄せる』
『ああ、なるほど。そういうことですか』
『だから今回手に入れた分は売ってもいい。僕らが運良く竜鱗を手にすることが出来たと証言してくれる人は沢山いるからね。でも、定期的に仕入れることがてきるとバレるのはまずい。だからお金のあるうちに継続的に商いができる何かを見出さないといけないんだよ』
馬車に揺られながら【意思疎通】でそんな話をしていた。万が一騎士団の人に聞かれたらまずいからね。
それにしてもじいちゃんがマイルドさんは信頼できると言っていたけど、それがよく分かった。
………
……
…
「この度はアツィーノ閣下に拝謁を賜り光栄の極みに存じます。商人のマイルドにございます」
マイルドさんが恭しく挨拶する。
何故か僕までアツィーノ辺境伯との面会の場に呼ばれた。
こういうのって、丁稚扱いの僕は呼ばれないもんだと思うんだけど。
「ああ、いいよいいよ。そういうお堅いのは無しにしようぜ。願って呼んだのは俺で、あんたは応じてくれた客だ。その客にへりくだらせるような無粋な真似はできねぇよ」
あ、なんだろう。
この人話せる人だ。
マイルドさんが言ってた通りだ。
アツィーノ辺境伯は根っからの武人で礼儀作法とか細かいことは気にしないらしい。
「貴族っつってもこんな田舎で命張ってバチバチやるのが仕事だ。気品なんざかけらもねぇよ。あんたも、そっちの小僧も適当に座って楽にしてくれ」
「ありがたいです。何ぶんこんなボロを着てる五流の商人ですからね。私も堅苦しいのは性に合いません」
マイルドさんが素に戻りイスに腰掛けた。
「あ〜よかった。作法とかよくわかんないから緊張してたんですよね」
僕も近くのイスに腰掛ける。
「お、兄さんも小僧もなかなか話せる奴じゃねぇか。俺がこう言ってもよ。頭のかてぇのが多くてよ。取り敢えず飯でも食ってくれ。何も食ってねぇんだろ?」
アツィーノ辺境伯がそういうとメイドさんが食事を運んで来てくれた。
遠慮なく食べてくれというので、遠慮なく頂きました。
食べながら辺境伯と話をした。
勿論、聞かれたのはドラゴンのことだった。
「そうか。そいつはすまなかったな」
「えっ、それはどういうことですか?」
「昨日の夜、竜の角笛が使用されたのはこの街だ。見張りの感知持ちが異質な魔力を感知したと報告が上がっている。恐らく狙われたのは俺だな」
そうだったんですね。
「狙われた? 誰からですか?」
「まず間違いなくアークドイン帝国の差し金だろう。盗賊に紛れて兵も投入してきている。完全に戦争を起こす気だな」
あ、うん。
それどこかで聞いたことある。
しかし、ここでもアークドイン帝国か。
「竜の角笛のような国宝級のアイテムまで持ち出しやがって、ドラゴンに街を破壊されたら占領する意味も無いだろうに。オーク並に低能な奴らだ」
「ドラゴンを戦争に利用しようなんて洒落になってませんな」
「だろ? ただひとつ疑問なんだが、竜の角笛が使われたのに、何でドラゴンはこの街じゃなく森に行ったのかが分かんねぇんだ。小僧、何かドラゴンから聞いてねぇか?」
この人鋭いなあ。
『うっ。マイルドさん、これどう答えましょう?』
『どうもこうもない。辺境伯は裏表のない方だ。正直に話すのが得策でしょう』
『分かりました』
「う~ん。正直、少し話しづらい事ではあるのですが僕に惹かれて来ちゃったと言ってました」
アツィーノ辺境伯の目つきが鋭くなる。
「竜の角笛ってのは、ある程度の魔力がねぇと使えないと言われている。使ったやつは相当の実力者だったはずだ。そして、ドラゴンは闘いを求めて興奮状態だったと言っていたな」
「はい」
「そのドラゴンが竜の角笛の使用者よりも小僧に惹かれたってことは小僧の方が強えってことになるが間違いねぇか?」
「はい、そういうことです」




