第14話 招待される五流
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◇マイルド◇
「はぇ?」
アーサーに起こされた。
急に起こされて頭がぼーっとしている。
もう少し寝ていたい気持ちもあるが、疲れはない。
天気もよく実に清々しい朝だ。
野営してこんな気持ちの良い朝を迎えるのは初めてかもしれないなぁ。
ドラゴンに襲われるという悪夢を見た割には素晴らしい目覚めだ。今日はきっといいことがあるぞ。
「う〜〜〜ん…………はぁ」
思い切り伸び、深呼吸する。
これで目が覚めたぞ。
「はぁ?」
思わず間抜けな声を発してしまった。
でも、私達は街道沿いで野営してたはずだよな?
何か森がすごいことになっているというか吹き飛んでいるというか……。
それに何か騎士団ぽい連中に遠巻きに囲まれているんだが……これは一体どういうことだろうか?
「マイルドさん、何か騎士団の人達に囲まれてるんですが、どうしましょうか?」
「そ、そうだねぇ。と、と、取り敢えず落ち着きたまえ」
全然理解が及ばない。何がどうなってるんだ?
「今日は街へ行って仕入れたものを売り払わないといけないからね。急いで出発しよう」
「はい。騎士団は見なかったことにする感じですね」
「そうとも言うけど、そういうことを口に出さないのが商人というものだよ。気を付けてね。ね!」
ダメでしょ。聞こえちゃうでしょ。
「はい。失礼しました。それで、昨日倒した魔物や獣はどうしますか? 全部は馬車に乗り切らないのですが……」
魔物? 獣?
馬車に目を向けると、魔物と獣の死体が山のように積まれていた。
そこでふと昨日の夜のことがフラッシュバックしてきた。
常軌を逸した訓練……ではないな。訓練でもなんでもない。単なる狂気の沙汰。ひたすらに実戦に放り込まれ続けただけだ。それを思い出した。
そして。
「あああああああ」
ドラゴンと遭遇したことを思い出した。
息もできないくらい魔力で押しつぶされた。
あの恐怖と絶望を思い出した。
あれは夢なんかではなかった。
いや、まて。
それなら何故私は生きているんだ!?
この森の凄まじい有様は間違いなくドラゴンによるものだろう。
それなのに何故生きている?
「あ、あのさ、ドラゴンてどうなったのかな? 何で私は生きているんだろうか?」
「あ〜、そうですね。まぁ、簡単には言うと【商い】で取引をしました」
「う、嘘だろ……ドラゴン相手に【商い】が通じた?」
「はい、今は舎弟みたいな感じですね」
「ドラゴンが、舎弟? はは、ははは……」
信じられないが、アーサーが嘘を言っていないことはわかる。私達が生きていることがその証拠だ。
一体どうやったのか分からないが、凄いことを成し遂げたな。
「マイルドさんが起きる少し前までここにいて、僕らを守ってくれてたんですよ」
「ははは、スゴイ! スゴいぞアーサー! 私達は間違いなく商人として上に登ることができる! 四流商人もすぐそこだ!」
「いや、そこはせめて一流とか目指しませんか!?」
「ふっふっふ、そうやって調子にのってはイケないのだよ。高慢になった輩が転落するのは世の常だ。真面目にコツコツ成長していかないとね」
「なるほどですね。肝に命じます。」
「それとだ。アーサー。君は私の命の恩人だ。礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
「いや、僕の方こそ。マイルドさんがいなかったら恐怖でドラゴンに立ち向かうことなんて出来ませんでした。こちらこそありがとうございます」
そうか、単に情けない姿を晒しただけだが、僅かに役に立てたのならよかった。
「ははは」
「ははは」
互いに笑い合う。
本当に生きてて良かった。
そうだな。私達は持ちつ持たれつだ。
「アーサー、これからも宜しくな」
「はい! こちらこそ」
「でだ。問題はあの山だな」
一目で馬車に乗り切らないのは明らだ。
幸い、街はすぐそこだからまた戻ってくるという選択肢もある。
さてどうするか?
「少し宜しいか?」
背後から声をかけられた。
振り向くと、大きな馬に跨る全身鎧の騎士がいた。
「私は熱血騎士団団長のガッツ・アルゼンと申します」
言わずとしれたアツィーノ辺境伯ご自慢の熱血騎士団の団長様だ。知らないはずがない。
「勿論存じております。私はしがない商人のマイルドと申します」
終わった〜。
騎士団を見ないふりする作戦は強制終了しました〜。
「マイルド氏はドラゴンに庇護を受けていたようにお見受けしましたが、少し話を伺っても宜しいでしょうか?」
「アルゼン様。私めはしがない平民です。そのような畏まった言葉遣いは無用です。それにお恥ずかしい話ですが、私はドラゴンに遭遇するや気を失ってしまい今の今まで眠っておりました。目を覚ましたらドラゴンも飛び立っており、お話しようにも何もお話出来ないのです」
アルゼン様も遠目に見ていたなら私がずっと寝ていたことは把握しているだろう。
「では、そこの少年に話を伺っても良いでしょうか? 少年がドラゴンと話しているようだったと言う者もいるのです」
うっ、そう来ましたか。これはまずいですよ。
あああああああ……。
突然頭の中にアーサーの記憶が……。
なるほど【意思疎通】……便利なスキルですね。
「勿論です。この子はアーサーと言いまして丁稚でございます。アーサーお話しなさい」
『マイルドさん、どう話しましょうか?』
『アーサー、私に確認したのは良い判断です。私が伝えた言葉をそのまま話してください』
『分かりました』
「アルゼン様。アーサーと申します」
「昨日の夜中に私達はドラゴンと遭遇しました」
「ドラゴンは興奮しており、ここで暴れたのです」
「それはもう死を覚悟しました」
「暴れた後、落ち着いたドラゴンは迷惑をかけたということで私達を守ってくれました」
嘘は言っていない。
後々、真偽官に虚偽を確かめられても問題ないはずだ。
「ふむ、つまりドラゴンが人間を気にかけたと。では、そこに積んである竜鱗を始めとした素材たちはドラゴンからの詫びということかな?」
竜鱗っ!! そんな超超希少素材が!?
ある! 本当にある!!
「はい、そうらしいです」
「分かりました。アツィーノ辺境伯からは丁重にお迎えするようにと言付かっております。運びきれない素材は我々でお運びしますので辺境伯の元へお越し頂けませんか? 素材に関しては、差支えなければ相応の金額で買取させて頂きたいとのことです」
「しょ、承知致しました。このような身なりで申し訳ありませんが、ご無礼でなければお招きに与らせて頂きます」
これは、来てますね。早速機会が巡ってきました!
四流へ向けての追い風が吹いてる!




