第13話 囲まれる五流
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ドラゴンが【意思疎通】を使えるなんて……。
でも、よく考えたら僕でも使えたんだから、あの魔力量で使えないわけないよね。
だけど、『本当に人間か!?』ってどういうことよ?
「人間ですけど、何か?」
――ズンッ――
更に圧をかけてやった。
ドラゴンの体が地面にめり込む。
何だろう。あれ程圧倒的な魔力を纏っていたドラゴンが抵抗すらできない。
もう全然怖くない。
多分、このまま押しつぶしてドラゴンを殺すことも出来ると思う。
よく分からないけど僕の魔力がとんでもないことになってる。
『ぐはっ。すまぬ! 他意はない。人の身には有りえぬほどの魔力を有しておる故、驚いただけじゃ。すまんが【威圧】を解いてくれぬか?』
ムカ。
「何勝手なこと言ってるの? 自分から仕掛けてきたのに。さっき、同じことされてマイルドさんは息もできなくて死にかけてたんだけど? 僕だって死ぬかと思ったし」
――ズンッ――
更にドラゴンの体を地面にめり込ませる。
『すまん。しかしそれは竜の性というもの。強者との戦いを求めてしまうものなのじゃ』
「ああそう。でもハイそうですかと許すわけにはいかないよ。口だけなら何とでも言えるし、僕らは商人だからね。謝罪は形あるもので示してもらわないと」
『確かに、確かにお主の言うとおりじゃ。しかし我には何を見返りにしてよいか分からぬ。この命を見逃してくれるなら何なりと見返りを求めてくれて良い』
へぇ、それを言っちゃいますか。
いいんですか。
と言ってもこっち死ぬかと思ったからね。手心を加えるつもりは全く無い。
でも、ドラゴン相手に【商い】出来るのかな?
まぁ、取り敢えずやってみるか。
「仕方ない。じゃあ、それで『取引成立』だ!」
ドラゴンにかけていた【威圧】を解く。
同時にカッと光り、ドラゴンに白い鎖が巻き付いた。
『なっ、契約の鎖だと!?』
あ、白い鎖にそんな名前があるんだね。
知らなかったよ。
「じゃあ、取り敢えず僕は疲れたからもう寝たい。朝まで僕とマイルドさんと馬のシルバーをしっかり守ってね」
『しょ、承知した』
マイルドさんは気絶したのかよくわからないけど、既に寝ていた。
問題はシルバーだった。ドラゴンが怖くてブルブル震えてたからね。休むどころじゃない。
『シルバー、落ち着いて』
『こ、この声はまさかアーサーさんっスカ?』
ものは試しで、【意思疎通】を使ってみたらシルバーとも話せた。動物相手にもいけちゃうんですね。
『そうだよ。ドラゴンは僕に従ってるから安心して。危害を加えることはないから』
『本当っスカ? 流石アーサーさん。一生ついて行くっスよ!』
カッと光り、シルバーにも白い鎖が巻き付いた。
えっ、今ので取引成立しちゃったの?
いやまぁ、便利だから出来ればとシルバーとも繋がってはいたいと思ってはいたけども。
まぁ、いいや。結果良しなら全ては良しだ。
『じゃあ、シルバーも怯えないでゆっくり休んで。見張りはドラゴンがしてくれるから安心していいよ』
『ありがとうっス。もうヘトヘトだったんスよ』
そう言ってシルバーも眠りについた。
これでよし。
僕も寝よっと。
………
……
…
翌朝、気持ちよく目を覚ました。
地面の上に寝たのに思いの外疲れが取れている。
よく見たら、僕とマイルドさんとシルバーを囲むようにドラゴンが寝そべり、更にその周りに結界のようなものが張られていた。
この結界。何だか暖かい。何か癒やされているような気がする。これのお陰でぐっすり寝れたのかな?
『起きたか主殿』
「主殿!? 僕のこと?」
『敗れた上に情を頂いた。それに加え契約まで交わしている。主と仰ぐに相応しい。それとも他に呼ぶべき名があるなら教えて頂きたいのじゃ』
えっ、このドラゴンこんな性格だったっけ?
「名前はアーサーだけど……」
『いや、御名を呼ぶのは憚られる』
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあ主殿でいいや……」
『承知した』
「それにしても昨日と性格変わってない?」
『そ、それは……昨夜は我も興奮しすぎていたのじゃ。竜の性とは言え申し訳ないことをした。我も深く反省しておる』
そうか、ドラゴンは戦闘狂とも言うしね。
普段の性格はもっと落ち着いた感じなのかな?
今目の前にいるドラゴンからは狂気じみたものを感じない。寧ろ、威厳に満ちて知性と気高さを感じる。
全身が白く、朝日に照らされて輝いていて、昨日のドラゴンとはまるで印象が違う。
「でも、何で僕らを襲ったの?」
『それは、竜の角笛で呼ばれたからじゃ。我はてっきり主殿が呼んだのかと思っておった』
「竜の角笛?」
『竜の角笛はその昔我が戯れで人に授けたものでの。我の角の先っちょなんじゃが、使うと我を呼び出せるのじゃ。ただ、意味合いとしては「俺強いからよ、ちょっと面かせや」的な呼び出しじゃがのう。しかし、その反応からして使ったのは主殿ではないようじゃの』
何て迷惑なものを授けたんだ。
「うん。そんなものがあるなんて初めて聞いたよ」
『確かに、思い返せば呼び出し先はもっと先だったような……げふんっ、げふんっ』
「えっ?」
『う〜ん。あのときは興奮しておっての、途中で見かけた主殿に惹かれてついつい寄ってしもうたのじゃ。本当に申し訳ない』
「はぁ、まあいいや」
『かたじけないのじゃ。それで主殿はこの後どうなさる?』
「どうって? 今日は街に行く予定だけど………」
『いや、結界の周りを人族が取り囲んでおる故、どうしたものかと思っての』
言われて気づいたけど、というかドラゴンの巨体に隠れて見えなかったんだけど、感知したらぐるっと囲まれてる。……これは騎士団かな?
そりゃあ、昨日あれだけのドンガン騒げば「何事だ!?」ってなるよね。
『ただ、街に入るのであれば我が邪魔であるのは明白。呼べはすぐ飛んでこれるところにおる故、何かあれば呼び出して下され。それでは失礼』
「あ、1つだけいい? もし次に角笛で呼び出されても応じないで」
呼ばれた先で暴れられたら大変なことになるからね。
『承知』
そう言ってドラゴンは飛び去っていった。
それで、これはどうしよう。
めっちゃ囲まれてるんですけど……。
うん。取り敢えずここは保護者に任せよう。
「マイルドさーん、起きてくださーい。大変ですよ〜」
「はぇ?」




