第12話 門
評価といいね頂きました。
ありがとうございます。
ド……ドラゴン。
【鑑定】スキルなんかなくても、目の前にいる生物が一体何なのか本能で理解できた。
思い描いていたよりも大きな巨体、世界の王者たる圧倒的な存在感、そして体の芯から鷲掴みにされたような殺意。
全てが絶対的。
本能が対峙することを全力で拒否している。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ……
――っ!!
突然白い鎖を通じてマイルドさんが苦しんでるのが伝わってきた。
そんなことも伝わってくるのか。
驚いて、マイルドさんの方を見るとドラゴンのあまりの魔力に押しつぶされてる。まさか、息してない⁉
マズい。早く何とかしないとマイルドさんが死んじゃう。
このままじゃいけない!
マイルドさんを死なせちゃいけない!
恐怖で麻痺していた心に力が戻る。
何とかしてドラゴンをここから移動させないと。
どうする?
どうやって移動させる?
何も浮かんでこない。
でも考えてる暇はない。
こういう時は、取り敢えず全力でぶん殴る!!!
「はあああああああああああああああああああああああああああああ……」
とにかく拳を、体を、ありったけの魔力を注いで強化しまくる。
拳に凝縮した魔力が宿り、そこに無理やり魔力を注ぐ。ただひたすらに注ぐ。
拳から溢れた魔力はドラゴンの巨体に迫る巨大な拳を作り上げていた。
それが【魔弾】なのか【魔装】なのか【身体強化】なのか良く分かっていなかった。
ただひたすらに――
マイルドさんを助けるんだ!!!
その一念しかなかった。
空中に現れた巨大な拳にドラゴンは目を見開いていた。
――GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――
それが歓喜なのか、怒りなのかは分からない。
その雄叫びは大気を震わした。
「どぉけぇええええええええええ!!!」
繰り出す渾身の一撃に対し、ドラゴンは咆哮と共に超高密度の魔力――ブレスを放つ。
それは街一つを吹き飛ばすとされる絶望の咆哮だった。
しかし、ブレスをものともせず巨大な拳は突き進む。
そして巨大な拳はドラゴンの胸を捉え、遥か後方へと吹き飛ばした。
それと共にあたりを支配していた重圧も吹き飛んだ。
「かはっ、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、マイルドさん……息をしている。……良かった」
吹き飛んだドラゴンは回転しながら何度も地面に叩きつけられる。
森の木々はなぎ倒され、小枝のように折れては舞う。
大地は揺れ、轟音が鳴り響いた。
その後、静寂が訪れたのも束の間、再度大気が割れんばかりに鳴り響いた。
――GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――
「まさか……笑ってるのか?」
不思議とそう思えた。
――バウ!!――
その直後突風に飛ばされそうになる。
ドラゴンの体は強大な魔力――【魔装】で覆われていた。
その魔力により生じた爆風で立っていられない。
『これからが本番だ』
まるでそう言っているかのようだった。
「こっちはもう限界なんだけどな……」
一撃に全魔力を注ぎ込んだからか、意識を繋ぎ止めるのがやっとで今にも倒れそうだってのに。
ドラゴンはむしろ元気になっているかのようだった。
問答無用と言った感じでドラゴンの口に魔力が凝縮していく。
先ほどの咄嗟のブレスとは違う、正真正銘本気のブレスが来る。
頭ではそう分かってはいたものの、体は動かない。
死。
明確な死がもうじき訪れる。
どこか自惚れていたのかもしれない。
自分は強くなったと。
無茶な仕入れ(狩り)をしても自分なら対処出来ると思ってた。
そんな高慢な鼻っ柱をへし折るかのようにドラゴンが現れた。
自分の身勝手な行動によって自分にツケが回ってくるのは商売なら当たり前のこと。それは自分が負うべき負債だ。でもそれにマイルドさんを巻き込んでしまった。
「ごめんなさい、マイルドさん……」
後悔で心が張り裂けそうだった。
「母さん……」
そして最期に浮かんで来たのは家族の顔、そして母さんの顔だった。
――GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――
人の力では抗いようのない圧倒的な魔力。
先ほどとは比べようのないほどの威力のブレスが地面を抉りながら迫って来ていた。
不思議と世界がゆっくりと流れて見える。
凄まじい速度で迫っているはずのブレスが止まって見えた。
『なんだ、諦めるのか?』
残念がるドラゴンの声が聞こえたような気がした。
しかし、魔力は尽き既に打つ手はない。
――門を開け――
突然、声にならない声が聞こえた。
いや、正確には何も聞こえてはいない。
何かがそう言っているように感じた。
心に何かが訴えているような、そんな気がした。
――門を開け――
心に意識を向けると今度はその声がはっきりと聞こえてきた。
門?
――あれは餌だ――
餌?
――門を開け――
その声ならぬ声は一体何なのか。
直感で理解していた。
【商い】スキルが訴えている。
自然とブレスに向かって手を伸ばしていた。
そして、ブレスが全てを破壊し掻き消そうとした瞬間――
ブレスは消え失せていた。
気が付くと僕の全身は魔力で満ち溢れていた。
いや、満ち溢れていたどころじゃない。
あれ程絶対的に思えたドラゴンの魔力が今はちっぽけに感じる。
何が起きたのか分からない。
ただ、一つ分かることがある。
門が開いた。何故かそれは理解できた。
ドラゴンは呆然と僕を見ていたように思う。
でも直ぐに我に返り、再度雄叫びを上げようとした――
――ドシィィィィン――
「それ近所迷惑だから!」
ドラゴンを魔力で強引に地面に押しつぶした。
まあ、近所と言っても森の中だから近所に人がいるわけもなく、森の住人の動物たちは我先にと逃げ出しているだろう。
つまり、迷惑してるのは僕とマイルドさんだね。
まぁ、それはさて置き間違いない。
今の僕ならドラゴンを圧倒できる!
『き、貴様、本当に人間か!?』
また気のせい……かと思ったけど違う。
間違いなくドラゴンの声が頭に響いていた。
えっ、話せたの?




