第11話 想定外の事態
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◇マイルド◇
『次、正面から猪3です。』
「はぁ、はぁ、ま、また? 多すぎじゃないか?」
正直ちょっと夜の森を舐めてた。
街も近いし、そんなに沢山襲っては来ないだろうと高を括っていた。
しかし、蓋を開けてみれば仕入れは順調。いや過剰に供給され連戦に継ぐ連戦だった。
そして今もアーサーの言った通り猪が3匹現れた。
――ドサッ――
小さ目の猪が突然倒れる。
いつの間にか矢に貫かれていた。
――ドサッ――
そしてもう一匹も静かに蹲る。
2匹とも即死だ。
そして、恐らく二匹の母親だろう。
一番大きい猪は怒りの目でこちらを睨みつける。
「おいおい、勘弁してくれよ。やったのは私じゃないよ!」
そう言ったところで母親の怒りが静まるわけもない。
――グサッ――
猪の肩に矢が突き刺さる。
肩甲骨を砕き肺にまで矢は達しているだろう。
致命傷ではあるがご丁寧に即死ではない。
「いやいや、そういう気遣いはいいんだけどね」
母猪は力を振り絞りこちらに向かってくる。
「君も大人しく逃げればいいものを」
最早満足に呼吸もできないだろう。
肩が砕かれ歩くこともままならない。
ここまでしてもらえば疲れ果てた私でも負けることはない。
崩れ落ちそうな猪の胸に剣を突き刺しとどめを刺した――と油断したのが拙かった。
最後の最後、猪は私を頭でかち上げ、豪快に吹き飛ばされた。
「ぐはっ――」
その直後、猪は怨嗟の声を上げ絶命した。
『マイルドさん! 大丈夫ですか!?』
「はぁ、はぁ、何とか……ね。はぁ、はぁ、生きてはいるよ」
今夜はずっとこんな調子だ。
流石にもう限界だ。
『無事で良かったです。しばらく獲物は来ないので一端戻りますね』
頭に響くアーサーの声にホッと一息つく。
ようやく休める。
『あ、矢の回収と血抜きをお願いしますね』
「オーガか、君はオーガなのか!?」
『冗談ですよ。それだけ元気なら大丈夫そうですね。お疲れ様です』
「はぁ、はぁ」
地面で大の字になる。
「とんでもない子を預かってしまったなぁ」
アーサーを預かったことを後悔しているわけではない。
今は疲れ果てているが、今夜だけで一体どれほどの仕入れが出来たことか?
熟練の冒険者パーティーでもこんな真似はしない。
いや、出来ないだろう。
私よりも動き回って、私よりも多くの魔物と獣を仕留めておきながら疲れた様子も見せない。
まぁ、元々私よりもレベルが高かったが、それも含めて8歳の子供とは思えない。
アーサーのレベルは10。私はレベル6だった。
商人であればレベル5辺りが平均ではないだろうか?
商人希望の学生は勉強が主とはいえ、学校で4年間訓練を経てレベル5に達する。
それなのに今年スキルを授かったばかりの子が既にレベル10なんて異常だ。
どれだけ格上の相手を倒してきたというのか。
いずれにしろあの子は大物になる。
せめてあの子が真っ直ぐに成長出来るように、人を思いやれる人になれるように、力を正しいことに使えるように導く責任がある。
何とも責任重大だな。
しばらくするとアーサーは戻ってきた。
「アーサー、申し訳ないが私はしばらく動けんよ」
「ええ、大丈夫ですよ。しばらくは落ち着いてそうなんで、休んでてください」
そう言ってテキパキと矢の回収、血抜きの作業を行っていく。
先程倒した大きな母猪さえ軽々と木に吊るす。
あの猪……正確には魔猪か、レベル15もあったんだよな。
かなりの巨体なんだが物ともしない。
凄まじい膂力だ。
っていうか、うちのシルバー君(馬)は倒した獲物を全部運べるんだろうか?
かなり心配になってきた。
――ゾワッ――
突然体が動かなくなる。
何だ……これ。
ろくに魔力が感じ取れない私でもわかる。
荒れ狂う嵐のような圧倒的魔力。
それに押しつぶされ呼吸もままならない。
これはアーサーの仕業か。
一体何故……。
「だめだ。追い払えない」
察するに魔力を開放し、何かを威嚇したということだろうか?
そしてこの魔力にも怯まない何かが来ると?
「マイルドさん! 今すぐシルバーに乗って街に逃げて下さい!」
これはもしかしなくてもヤバイね。
「無理だ! 私はヘトヘトで動けないし、シルバー君はビビリすぎて動けない!」
「そんなこと言ってる場合じゃないんですよ! ここにいたら死にますよ!」
「だから無理なものは無理だ! 私は動けん!」
「偉そうに情けないこと言わないで下さい! 一刻を争うんです! 僕が少しでも足留めしますから逃げてください!」
「馬鹿者! だから無理を押し付けるな! 君の保護者は私だ! 私が囮になるから君が逃げなさい!」
保護者の私が保護すべき子をおいて逃げていいはずがない。体は動かなくても私を食べている間にアーサーなら逃げられるだろう。
それに動かない新鮮な肉がここには沢山ある。
上手く行けば腹一杯になって見逃してくれるかも知れない。
――ズシン――
「かはっ」
アーサーの魔力を遥かに上回る圧力で体が押しつぶされた。
息が出来ない。
――ドシィィィィィィン――
森全体が揺れたかと思える振動が、その重量、その巨体を物語っていた。
バカなっ!
こんな所に居るはずがない!!
何故こんなところに!!!
それは生態系の頂点に君臨する生物。
――GRRUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOONN――
人類であれば出逢うことそのものが死を意味する。
上空からドラゴンが舞い降りたのだった。




