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第10話 成長するスキル

「マイルドさん。本当に僕を連れてっていいんですか? また襲われるかも知れないんですよ」

「ああ、【商い】スキルの件ね。勿論承知の上だよ。気にしなくていい。逆に僕は上に登るための絶好の機会だと思ってるよ。帝国から狙われるくらい君のスキルに価値があるってことだからね」


 マイルドさんは若い商人で、じいちゃんは「若いながらも中々信頼できるやつだ」って言ってた。


「怖くないんですか?」

「怖い? いやぁ、逆だね。君がいるから僕は寧ろ安心してるよ」


 あと、じいちゃんに言わせると、商人としては少し変わってるらしい。

 確かにそうだよね。僕を連れてくのって危険しかないと思うけど。安心とか言い切っちゃうし。


「よく分かんないって顔してるね」

「あ、……はい」


「そうだなぁ。僕はうだつの上がらない五流の商人だ。それは自覚してる。商才はないし、何の人脈もない。正直、自分一人でやっていくのが精一杯の人間だ。本当は君を養う余裕もない。そんな人間だ。そんな僕が唯一自信を持っているものがある。それは僕のスキルだ」


 マイルドさんは【鑑定】のスキル持ち。

 商人としては当たりのスキルを持っている。


「僕は【鑑定】だけは信頼している。そしてその【鑑定】が言ってるんだよね。アーサー、君のスキルがあれば怖いものなしだってね」

「僕のスキル? 【商い】ですか?」


 【商い】は『商いができる』としか鑑定で出なかったと思うけど……何でそれで「怖いものなし」って言えるんだろう?


「はは、余計分からないって顔になったね。君はもっと自分のスキルのことを知るべきだね」

「以前鑑定で調べてもらったときは『商いができる』スキルとしか言われなかったんですよ」


 そう言うとマイルドさんは少し驚いた顔をした。


「おや? ということはスキルが成長したのかも知れない」

「成長……」

 確かに白い鎖の件はどう考えても『商いができる』じゃ説明することができないもんね。


「聞いたことあるだろ? スキルは成長することがあるって」

「はい、あります」


「いま、僕の目にはこう出てるよ『()()()()商いができる』ってね」


「誰とでも?」


「僕の想像通りなら、君は誰とでも商いを成立させることができてしまうんじゃないかな? 大商人や貴族や王様であっても――」


 もしかして……それってかなりすごいことなんじゃ……


「――そして、自分を襲ってきた敵でさえも」

「はっ!」


 確かに敵とも取引を成立出来るなら、危険はかなり小さくなる。


「それって商人としては最強のスキルなんじゃないかな? それにその歳でスキルが成長したってことは、今後さらに成長するかもしれない」


 さらに成長?

 えっ、ここからさらに成長したらどうなっちゃうの?


 あ、いや、でもその可能性もあるかもなぁ。

 だって白い鎖って、発動してても大して魔力を使わないんだよね。あくまで僕基準では。


 そう考えると僕の魔力って何のためにあるの? ってことになるから、魔力を必要とする別の能力がまだ眠ってる可能性はあるのかも知れない。


 いやぁ、でも更に成長しちゃったらどうなっちゃうんだろ?


「でも、君のスキルがいくらすごくてもそれで万全ってことではないってのは理解してるよ。極端な話、寝込みを襲われたら【商い】は使えないし、耳が聞こえなくて話が通じない相手には【商い】が通じないかもしれない。それこそ魔物に襲われたら【商い】は出来ないだろうしね」


 確かにそういう弱点はあるのか。

 あ、でも耳が聞こえない人には【意思疎通】で何とか出来るかも。


「そんなわけで危険を減らすには信頼できる護衛を雇ったり、僕たち自身がある程度強くなる必要があると思ってる。まぁ、商人向きのスキル持ちはレベルアップしても大して強くならない傾向にあるから僕は戦力として期待出来ないかも知れないけどね」

「ははは、でも商人にも強さは必要だって父さんは言ってました。取引を成立した直後に武力で根こそぎ奪われることもあるって。だから強くなる必要があるって点にはすごく同意します」


「そうだねぇ。その強さを金で補うのが商人なんだけど、残念ながら僕にはその余裕が無いからね。自分を鍛えることから始めないとだね」


 そんなこんなで、行商をしながら自分も鍛えるってのが僕達の当面の目標になった。


 でも、マイルドさんのお陰で一つ納得できた。

 白い鎖は『()()()()商いができる』ために必要な能力だったんだ。

 相手の意志に関係なく取引を成立させるために。


………

……

 

「じゃあ、少し早いけど、ここで野営の準備をしましょう」

「あれ? 野営ですか? もう少し行けば街に着くんじゃないですか?」

「まぁ、着くんだけどね。宿代の節約のためだね」


 聞けばマイルドさんは街に着く前にわざと野営して宿代を節約しているらしい。流石五流商人だ。

 マイルドさんが農村――カネル村で仕入れるのは村人が作った籠とか木彫りの椀とか皿とか、あとは薪。余っていない限り食料を商品として仕入れることはないらしい。つまり、村人が飢えないように配慮しているのだ。

 こういうところは父さんと似ているなと思う。

 ちなみに薪以外はあまり需要がないため利益は殆ど無いらしい。


「じゃぁ、丁度いいので肉獲ってきますね!」

「そいつはありがたい。宜しく頼むよ」

 

 感知に反応があったホーンラビットをサクッと射貫く。


「獲れましたよ〜」

「おお、早いね! さすがアーサー! ……って、何してるの?」


「何って血抜きですよ。血抜きを兼ねて周りに血を撒いてます」

「そ、そんなことしたら獣や魔物が寄ってきて野営どころじゃ……」


「そうですね。でも、僕らは強くならないと。それに仕入れですよ、仕入れ。ガッツリ仕入れて、しっかり稼いで、明日街の宿でグッスリ休みましょう。だから今夜は夜通し仕事ですよ!」

「ははは、こりゃ参ったな。どっちが保護者なんだか……」

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