93・いよいよ本命
「ヴェラの番ですか!?」
シャウラと僕が戻るとヴェラがウキウキした様子で駆け寄ってきた。
スキルとか魔法にヴェラは憧れがあるらしく、そういったことで楽しみだったのかもしれない。
きらきら瞳を輝かせてるヴェラを見てシャウラ微笑ましそうにしている。
「うん、ヴェラの番だよ。お兄様と行こうか」
「はい!頑張ります!」
ヴェラが頑張ることなど少しもないのだけれど、まあ張り切っているヴェラは可愛いからいいか。頑張るのハダルだ。
シャウラに見送られてヴェラと部屋を出る。
この廊下を往復するのは三回目だな、と思った。
「さっきぶりだな」
「それ、さっきも聞いた」
部屋に入るとハダルが冗談めいたように言葉を発したので思わず突っ込んだ。
ヴェラはハダルを見て、きれい、と呟くと目をぱちぱちさせている。
前世での妹はアイドルオタクだった。つまり、面食いだったのだ。
そのせいかヴェラも男女構わず、綺麗な人が好きなようで、ハダルに見惚れている。
「ヴェラをたぶらかさないで欲しい…」
「理不尽だな…」
思わず漏れた僕の本音にハダルが呆れたように呟いた。
椅子はさっきのままなのでシャウラの座った椅子にヴェラを座らせると、僕もさっきの場所に座った。
「ヴェラ嬢は隠したいことはないですか?」
さっきシャウラに聞いたように、ハダルは形式的にヴェラにそう尋ねた。どのステータスは開示しません、と指定すれば伏せることは可能らしい。
ヴェラは大丈夫です、真摯にハダルを見つめながら返事をした。
「…、では、“鑑定”」
「は、はい、ステータスを全て開示することを許可します」
この時、光が出て、目の前にステータスが表示されたように見えた…と、なればいいのになあ、と僕は思っていた。実際には結構地味だ。
僕らには見えないので表示されてる様子がよく分からないのが残念だ。
「これ、出てるんですか?」
ヴェラが不可解そうに首を傾げて僕に聞いてきた。
見えてるみたいだよ、とハダルに目を遣ると、相変わらず見えないウィンドウをスクロールしている。
紙にステータスを書き写す手は速い。慣れたものだ。
書き終えると、ハダルはヴェラにその紙を渡した。
「わ、すごい、いっぱい書いてあります」
「お兄様にも見せて」
「はい!」
僕の言葉に正直に紙を見やすいように動かしてくれるヴェラ。元気な返事も相まって愛らしい。
ヴェラの可愛さに感動していると、視界の隅にこっちに向かって拝んでるハダルが見えた。いや、怖。
「てぇてぇ…」
何か聞こえたけど無視する。とりあえずそっとしておいてあげておこう。
とりあえず僕はそっとヴェラの職業欄を確認した。公爵令嬢、の隣に漢字で“転生者”とある。漢字なのはハダルの気遣いだろう。
それに僕はひどくほっとした。ヴェラがもし前世の妹じゃなくても大事な妹には変わらない。
でも、そしたら前世の妹がどうなったのか、気が気じゃないだろう。助かったんだろうなんて前向きに捉えることもできるけど、でも…。
こんなことでほっとする僕は本当に自分勝手だけれど、この“転生者”の表示がヴェラが前世の妹である裏付けのようで、堪らない気持ちになった。
「あの、スキルが大事なんですよね?」
ヴェラの言葉にハッとした。そうだ、今はスキルだ。目的はそっちなんだから。
僕は慌ててスキルの欄に目を移す。
「ヴェラのスキルは…、ああ、やっぱり…」
ヴェラのスキルには“完全浄化”と書かれている。間違いなく、浄化の上位スキル、ギフトだ。
といってもギフトの表示はよく分からないのでハダルに尋ねることにする。
「これ、完全浄化って」
「ギフトだ」
ハダルはきっぱりとそう言った。ハダルが言うならもう確定だろう。
ヴェラのギフトが確定したことに心配もあるけど少し希望が見えてほっとした。
「ギフト…上位スキルは表示される文字の色が違う。書き写したものでは再現できなくて申し訳ないが、普通の文章は黒で、上位スキルは黄色で表示される」
と言っても、ギフト持ちはそんなに居ないからついさっき確定したようなものだが、とハダルは付け足した。
ハダルもギフト持ちは自分しか居なかったから確信が無かったのだろう。
「わ、お兄様、お兄様、収納スキル!お兄様とお揃いですっ」
ヴェラが嬉しそうに指さす先には“収納C”と書かれている。僕のよりランクは低いが確かにお揃いだ。
ヴェラにとって僕とお揃いのほうがギフトより価値があるらしく、嬉しそうにしている。
「この対話スキルというのは?」
「対話、は動物の意思が何となく分かるスキルです」
ヴェラの質問にハダルが答える。なんかモゴモゴしている。
まさか推しに話しかけられて緊張している?
しかし、動物と意思疎通だって?ヴェラこそ聖女じゃない???
「こちらのは?」
「それは精霊親和です。お兄様に説明しました」
それを聞いてヴェラはお兄様に後で聞きます!と笑顔で言った。ヴェラは天使すぎるけどハダルは僕にいちいち丸投げするな。
「あとは…、庇護…?」
「庇護スキルは庇護欲を掻き立てられて護りたいと思わせるスキルですね」
そ、そんなのもあるのか。魅了とはまた違うけど方向性が違う似たようなものだろうか。
まさかヴェラがこんなに愛しくて堪らないのはスキルのせい?なんて言ったらハダルにそれは貴方の性格だと言われた。まあ、そうだよね。
「完全浄化は精神異常も身体異常も解けるんだよね?」
「うん、まあその解釈で合ってる」
ハダルが頷いた。浄化についてはシリウスから聞いたので何となく分かってはいる。
「浄化スキルは正常に戻すスキルだ。だから精神も身体も正常に戻せる。風邪や病気は自然のものだから正常判定なのか、対象外だ。ギフトならば水に含まれた毒なども取り除けるだろう…」
「僕のスキルで使えるかな?」
「多少威力は落ちるが不可能ではない。意識して使えば効果は高まるだろう」
僕のスキルで僕を通してこの完全浄化が使えるのなら王太子の魅了も僕が解けるだろう。
ヴェラを矢面に立たせなくて済む。スキル借用【妹】はくくりはスキルだったけど僕にとってはギフトと同価値だ。
ハダルと僕が会話している間、ヴェラはじっと一生懸命紙を読んでいた。
「お兄様」
会話が途切れたところでヴェラが声をかけてきた。
何か気になることでもあったのか、とヴェラの方を見る。
ヴェラは何か困ったような顔をしていた。
「どうしたの、ヴェラ?」
僕がそう聞いて、次の瞬間ヴェラから飛び出してきた台詞に僕は絶句することになる。
「お兄様、転生者って何ですか?」
え、ヴェラ、漢字、読めるの…?




