92・スキルってめんどくさい
ミラが終わるとリオ、それからアトリアが呼び出された。
今はアトリアの番なのでヴェラが最後だと考えると次はシャウラだろう。
ミラは戻ってきてから一人で考え込んでいる様子なのでそっとしておく。
「大したスキルなかったなー、ま、色々知れたから良かったけどぉ」
リオが残念そうに呟いた。攻略対象だからってチートスキルを持っているという訳ではないらしい。
「まあ、そんなものだよ」
僕も事前に分かっていた収納スキル以外にはスキル借用【妹】くらいしか珍しいのは無かったわけだし。
ハダルの口ぶりから魅了や精霊親和(融和)はリオやアトリアも持っているだろう。
「ミラちゃんなんかあったー?」
リオに話しかけられてミラがびくりと肩を震わせた。そっとしといてやれよ。
リオは空気読まないな…。
「わ、私も特には…」
そう言う割にはミラの鑑定の時間は長かったのだけれど、スキルが凄かったか転生者同士でオタク談義に花でも咲かせたのだろうか。
どっちもかもしれないけど、どちらかと言えば後者だろうな…。
ミラは帰ってきた時はちょっと嬉しそうだったし。
「そっかあ」
リオがふーと息をつくとお茶を飲んだ。
ちょうどその時、鑑定からアトリアが戻ってきた。
「ただいま。次はシャウラだよ」
「あ、は、はい」
シャウラがピシッと立ち上がる。緊張した面持ちだ。
僕も付き添うのですっと立ち上がった。
「シャウラを宜しくね」
「うん」
アトリアに微笑みかけられて頷いた。僕はシャウラの手を取るとエスコートするようにそのまま一緒に部屋を出て、ハダルの元に向かった。
☆
「…、さっきぶりだな」
部屋に入ると僕を見てハダルが開口一番にそう言った。
「婚約者だから付き添いに来たんだ」
「そうか。そっちにもう一つ椅子がある」
ハダルがそう言って目を遣った報告を見ると確かに部屋の隅に椅子があった。
それを持ち上げてハダルの近くに持っていく。
「シャウラはこっちね」
ハダルの目の前の椅子を少しだけ引いた。
シャウラがハダルを見ると、ハダルがどうぞと言うのでシャウラは座る。
シャウラが座ってから、僕も座った。
「隠したいこととかは無いですか?」
「あ、はい、大丈夫ですわ」
ハダルの言葉にシャウラが頷きながら返事をする。
「では、“鑑定”」
「ステータスを全て開示することをここに許可します」
シャウラがそう言うとシャウラのステータスがハダルの前に開示されたらしく、僕の時と同じようにハダルは自分にしか見えないソレを紙に書き写していった。
書いている途中のハダルの手が急にピタッと止まる。
「……“精霊に愛されし者”」
「はい?そうです…?」
シャウラが不思議そうに首を傾げた。
確かに今の言い方だとシャウラは精霊に愛されし者なんだけど、ハダルの言ってるのはシャウラのもつ解釈とは違う本来のものだ。うん、ややこしい。
「精霊眼…、ではないな…」
ハダルがじっとシャウラを見つめた。確かに普通に見ればシャウラの瞳は山吹色だ。
しっかり見ると下の方が少しピンクだけどね。
「せいれいがん…?なんですの?」
「いや……、リギル様に聞いてください」
丸投げしおったわい。
シャウラも素直に分かりましたとか言っている。
まあ、いいんだけど…いいんだけどさ…。
ハダルは紙に書き写しを再開する。
書き終わるとシャウラにそれを渡した。
「目立った珍しいスキルはないですかね…?」
シャウラは僕に紙を見せながらそう問いかけてくる。
シャウラのスキルは精霊親和、少し他人の魔法にバフをかける魔力強化、軽い怪我を癒す治療C、毒や麻痺など状態異常を回復できる状態回復、そして威圧というものだった。
なんか、補助や回復系の優しいスキルばっかなのに威圧が異常というか。
「この威圧ってスキルは…」
「周りを威圧して恐れを抱かせるスキルだな。感情のない魔物でも怯ませる。恐らく闇の精霊の影響だろう」
なんか、悪役令嬢向きのスキルってこと…?
ハダルによると特定の精霊の加護を受けている人はスキルも影響を受けたものが発現するらしい。
固有スキルの発現方法はまちまちで遺伝だったり精霊の影響だったりと色々あるらしい。
というかシャウラめちゃくちゃ可愛いのに魅了が無いのが予想外だった。
「状態回復ってのは…浄化スキルと何が違うの…?」
「状態回復の方が対象が限られてくる。身体的なものしか効かない。浄化は精神異常にも効くし水や食料などのものにも効く。しかし浄化では効かない菌やウイルス、つまり風邪や病気もある程度直したり軽減できる。ただこれは自分限定だ。浄化のように他人には使えない」
「な、なんか、複雑だね」
「私もそう思う。本人のみのものだから無意識に使うものだし、憶えなくていい」
僕がゲンナリしているとハダルがそう言った。
シャウラは隣で、だから私風邪引いたことないんですのね…と呟きながら何か納得しているようだった。
スキルというのは結構無限にあるらしい。
ハダルも全部憶えているわけはなく、鑑定の際に説明が出るのでそれを見ているとか。
こうして質問されたスキルだけ説明している。聞いてこないなら知ってるとみなすらしい。
それにしても、シャウラも分かりにくいけど一応精霊眼のはず。
ギフトが転生者だからでないのなら、精霊眼が条件かもと思ったけど、それも違ったんだろうか。シャウラにはギフトらしいスキルは無かった。
何かほかに条件があるのかもしれない。ミラにも一応聞いてみた方がいいんだろうか。
「ふふ、リギル様が気になるところを質問して下さるから助かりますわ」
僕を見てシャウラが嬉しそうにそう言った。
はっきり言ってやっぱりめちゃくちゃ可愛い。
「あの、エウダイモニア様、コレは?」
シャウラが指差したのは職業の欄だった。
僕には読めたので完全にスルーしてしまったのだが、公爵令嬢の隣に漢字で“悪役令嬢”と書いてあった。わざと僕しか読めないようにしたな?
「特に気にする項目ではない。書損じみたいなものです」
ハダルはしれっとそう言った。知らない言語が書いてあったらそりゃあ気になるでしょ…。
シャウラが困ったように僕を見るけど、悪役と書いてあるなんて言えない。
「僕にも分からないな…」
「なら仕方ないですわね」
シャウラはあっさりと諦めた。気にしても仕方ないということなのだろう。
ハダルも気にするなと言ってるし。
後でハダルに聞いたところ開示されたステータスは伝える際に漏らさず書かないといけないらしく、さすがに悪役令嬢と書くのは気が引けたのでシャウラには分からないように漢字で書いたらしい。
鑑定士というのもなかなか大変なんだな、と思うと同時にバレるわけでもないのにしっかり書いたハダルはやっぱり真面目だと感じた。




