91・イチャイチャ自警団
「次の子はリギル様が呼んできてくれるかい」
と、ハダルが言うので僕はとりあえずミラを呼びに行くことにした。
ミラが転生者だとは彼には話してないのでまずミラをハダルが次の人って呼んでるよ、と呼び出してさりげなくミラがどうするか確認するつもりだ。
「ミラ嬢、鑑定次良いかい?」
僕はみんなのいる大部屋に戻るとリオと女の子三人で大きなテーブルを使って人生ゲームをやっているところに声をかけた。
アトリアはどうやらユピテルと雑談している。
「あ、はい、私ですか?」
「うん、僕が案内するよ」
僕がそう言ってミラにニッコリ笑いかけると、ミラは分かりましたと立ち上がる。何か察してくれたみたいだった。
「オレの順番いつー?」
リオがテーブルに顎を乗せながら僕を見た。行儀がなかなかに悪い。
僕がリオにデコピンすると、リオはひえんっと情け無く声をあげた。
「決めるのはハダル…、エウダイモニア殿だから後でね、あとあんまりだらけないの」
「はぁい」
僕の言葉にリオがおでこをさすさすしながらやる気のない返事をした。
その様子を見てシャウラとヴェラはくすくすと笑っている。
一息ついてミラに目配せをした。ミラは頷くと部屋を出ようと歩き出す僕に黙って付いてくる。
部屋を出て少しだけ歩くと後ろを気にしてからミラが口を開いた。
「何かありましたか?」
「ん、転生者だってバレた」
「えっ」
ミラは目を丸くしている。こっからどう説明するべきか。
今のところハダルにはミラが転生者だと話していないし、逆にミラにもハダルが転生者だとは僕から言うつもりはない。
ハダルには記憶持ち精霊眼の転生者二人に会ったとしか話していないし。
「とりあえずバレたくないなら鑑定はやめといた方がいい。どうする?」
「あの、リギルさんは大丈夫なんですか?」
ミラが心配そうに僕を見上げた。まず僕の心配をしてくれるのは友人だと思ってくれているからか、それともシャウラの婚約者だから…?
まあ、どちらにせよやはりミラは優しい。
「彼はそんなに悪い人では無さそうだよ。相談にも乗ってくれそうだし、話しても大丈夫だと思っている。でもミラがどうしたいかが一番大事だから」
「…、リギルさん…」
ミラはシャウラやヴェラを幸せにする為色々協力してくれている。
でも彼女が出すのはいつも情報だけで、自分から動いたり、目立つのは苦手なんじゃないかと感じていた。精霊眼を隠しているし。
「…、エウダイモニア様に鑑定して貰って、しっかり話してきます。私も何か役に立ちたいんです」
少し考えてからミラは僕に向かってそう言葉を発した。
ミラが僕を見る目は真剣そのもので、僕はミラの目を見つめ返しながら黙って頷いた。
「心配ありがとうございます」
「いや、気にしないで。ここをまっすぐだよ。一応何かあったらすぐ逃げてきてね」
まあハダルの中身は女子高生だから大丈夫だとは思う。
だけどまあ未婚の男女が二人きりで会話するのだから気をつけるに越したことはない。
付き添ってもいいけど、ヴェラやシャウラはともかくミラに付き添うのはさすがに変だろうし、ミラも僕に全部知られるのは嫌だろう。
「はい、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
ミラを見送ると僕は待機部屋に戻った。
ミラが抜けたので人生ゲームをやめた三人は雑談をしている。
僕は空いているリオの隣に座った。
「リギル、スキルどうだったん?収穫あった?」
「うーん…、まあまあかな」
リオの質問に少しだけ曖昧に返事をする。
ふーん?と返すとリオはすっかり冷えた紅茶を一気飲みした。
そして、僕がヴェラの方を見るとヴェラと目が合った。
「…ヴェラの鑑定の時は付き添うからね」
「はい!」
僕が付き添うと言うとヴェラが嬉しそうに答えた。
その様子をシャウラが微笑ましそうに見ている。
「私もリギルに付き添って欲しいですわ、大変でしょうか?」
「え?」
シャウラの思わず言葉に間抜けな声が出た。
まさか付き添って欲しいと言われるとは…全く思わなかった…。
「嫌じゃないけど、いいの?」
「はい。リギルには私の全てを知って欲しいです」
「シャウラ…」
感動したけど全てを知って欲しいとかなんか…響きがやらしいな…と思ってしまった。
こんな純粋で優しい子にそんな邪念抱くなんて良くない。まだ十五歳だぞ。
シャウラはにこっと微笑むと僕を見つめている。
「…分かった。付き添うよ」
シャウラの表情がぱあっと一瞬で輝いた。
そんな喜ばれるとは全く思ってもなかった僕は目をぱちくりさせる。
シャウラは気にせず僕の両手を取った。
「リギル、ありがとうございます」
そう言いながら喜ぶシャウラを見て、シャウラの為なら地の果てまで付き添えるな…と思った。
いや、ハダルの鑑定部屋はすぐそこですけどね。
まあ、付き添うこと自体はそんなに大変ではない。
それにミラは送り出しといてなんだけどハダルとシャウラを二人きりにするには抵抗がある。
うん、まあ、つまりちょっと嫌、というか、嫉妬です。
「僕のスキルについてはできる範囲で後で話すよ」
「いいのですか?」
「僕もシャウラに全部知って欲しいから…」
僕がそう言うとシャウラの頬が淡くピンク色に染まった。
そんな様子が可愛らしくて笑みが溢れる。
僕とシャウラの様子を見て、ヴェラまで赤くなっていて、リオはちょっとムッとしていた。
「ピピーッ!!!イチャイチャ自警団です!!イチャイチャするのはやめてください!!!」
するとリオが僕とシャウラの会話に急に割って入ってきた。シャウラがびっくりしている。
いや、イチャイチャ自警団って何だよ。
「甘い空気を出すのは法律違反です!」
「何の?」
まあ要はリオは自分に構って貰えなくて寂しかったようだ。
リオの寂しがり屋は手が焼けるけど、まあみんながいる場で甘い空気出した僕も悪いしなとちょっとだけ反省する。
僕はむくれるリオを見てクスッと笑うと、ミラが戻るまで四人で何かして遊ぼうかと提案した。
リオは結構単純なのでそれですぐに機嫌を直してくれたのだった。
余談だけれど、後で「お兄様のスキル、ヴェラにも話してくれます?」とヴェラまで寂しそうにして確認してきたのはめちゃくちゃ可愛かったのをここに報告しておく。