90・シスコンが強みってなんだよ
「鑑定」
「…ステータスを全て開示することをここに許可する」
鑑定スキルにおいて、スキルを相手が発動した際にこうして許可することで相手がステータスを見ることができるようになる。
ギフトの精密鑑定でも最初に見える情報は普通の鑑定より若干多いけど後は変わらないらしい。
ここでステータスを全て開示してもスキルレベルが足りなければ見れない項目(一人一人違う)があるが、ハダルのはギフトなので全て見えるとのこと。
空中にウィンドウのようなものが出現するらしく、ハダルは僕に見えないソレを見ながら紙に内容を書き写している。
「そういえば、なんで自分の能力がギフトだって黙ってるの?」
「今でさえ忙しいのにギフトだと分かれば面倒が増えるからな」
確かに。ハダルの言う通り面倒かもしれない。
聖女の次に稀だと言う話だし、現在は確認されてないとされていた。
普通に生きていくならギフトだとは黙っていた方がいいだろう。
「精密鑑定は隅々まで色々分かるが、普通の鑑定では絶対分からないようなことをこうして書き写す際に書かなければ特にギフトだとバレることもない」
「確かに黙っていれば分からないかもね」
ヴェラの能力もギフトであれば両親や仲間内には報告するけど、公表する気はさらさらない。
相当な野心でも無ければわざわざバラす必要性が感じられない。
「しかし今まで鑑定してギフトを持ってる人間はいなかった。妹君が持っているなら、君も慎重になった方が良い」
書き写した資料をハダルは確認しながら言った。
空中をスワイプするような動作をしているのでなんだか面白そうだ。僕もステータスウィンドウ見てみたかった。
「分かってる。危険に晒したくないからね」
「…そうだな」
書き終えたものをハダルは僕に差し出した。
名前、年齢、性別から魔力量やHPなんかも書いてある。なんか急にRPG感が出てきた。
僕は資料を上から確認した。
「称号…、妹を庇護する者…?」
「…、称号というのは神から与えられた役目のようなものらしい。因みに俺は〝精霊に愛されし者〟、恐らくピンクアイ、精霊眼の人間の称号だ」
「…ええと、今精霊に愛されし者って呼ばれているような人たちは何て出るの?」
「…“精霊の被加護者”だ」
なるほど、精霊に加護を受けている人って意味なのか…。
この場合の加護は精霊が与えている力のことだろう。
本当に今精霊に愛されし者と言われている人たちは精霊に愛されている訳では無いんだなぁ。
しかし、僕、称号までシスコンなの草生える。
「称号はない人間もいる。魔力がない一般人にはまずないし、加護がない人間にもほぼない。君に称号があるのは転生者故か特殊な例だ」
「特殊……」
そういえば、僕の出会った転生者は今いるハダルを含めてヴェラ以外で三人、みんな前世の記憶を持って、それからあの乙女ゲームシリーズをやっている。
でもヴェラは違う。乙女ゲームをしていないし、前世の記憶を持ち合わせてもない。
ヴェラの記憶がないことなどを話すと、ハダルはそれかもな、と呟いた。
「君は妹君のおまけ転生かもな」
「おまけ転生」
「二人で一つの扱いなのかもしれん。精霊眼は妹君が、知識は君が。他の転生者はだいたい両方持ち合わせているようだし…。だから“妹を庇護する者”。知識不足を補う存在」
つまり僕はヴェラのためにこの世に生を受けたってこと???
やっぱりヴェラは僕の生きる意味じゃん知ってた。
ええと、とりあえず称号についてはこれで一旦置いといて、スキルも見てみるか。
「あ、やっぱり収納スキルあるや。収納スキルA…ん?Bとかがあるの?」
「収納スキルはABCDあるな。収納出来る量が違う。君の収納スキルは一番多い」
つまりいっぱい何でも入るってこと。収納スキルは地味に便利なのですごく助かる。
他のスキルも見てみる。なんか使えそうなのがほしい。
「スキル借用【妹】ってのは……」
「借用…、は、人から一時借りる事だな。妹のスキルを借りられるってことか?」
心当たりがある。
僕を通してヴェラの浄化が作用した時のことだ。
つまり、あれは僕がスキルで無意識にヴェラのスキルを借りていたってことなのか。
これ、把握して上手く使えばヴェラを直接危険に晒さずに済むのでは?めちゃくちゃ良スキルだ。
妹限定なのはウケるけど。スキルもシスコンじゃん。
その下に書いてあるスキルも見てみる。
「この、精霊融和って言うのは…?」
「ああ、貴族がよく持つスキルで……、まあ血筋が精霊に好かれることの証で精霊から魔力を借りるためのものだ」
貴族なら持ってるから珍しくないけど魔法を使う上であるのが前提のスキルってことか。
ハダルに聞いたところ精霊眼であるハダルは“精霊親和”らしく、精霊融和のちょっと上位版なんじゃないかとのこと。
「なるほど……、それと…ハッ…み、魅了がある……!?」
「安心しろ。顔が良い人間ならだいたいある」
ハダルがきっぱりとそう言った。だいたいあるのか。
だいたいあるならいいか、いいのか?
無意識に使ったりしていないか心配になってきたが、魅了とは普通無意識だと周りに良い印象を与えるくらいのもので、魅了するぞ!使うぞ!と意識しながら使わなければ相手を夢中にさせたりは出来ないし、持続時間も長くて二日とそんなにないそう。
改めて聖女の魅了が常軌を逸していると分かる。
僕のスキルはそんなものだった。
あとはステータスについて僕が他の人より良かったところは魔力量が多いとか、そんなものだ。
魔力量については精霊が身近にいると勝手に恩恵を受けて増えるらしく、確実にヴェラのせいだろうと言われた。僕自身にはシスコンくらいしか強みがないのか。
…シスコンが強みって何だ?
ハダルは僕がステータスの内容をだいたい把握して覚えたのを確認すると魔法で資料を燃やして消した。
情報漏洩を防ぐために資料の持ち出し等はできないし、資料を残してもいけないらしい。
「しかし、私はギフトというのは転生者が持っているものだと思ってたが、違ったんだな」
僕にギフトはなかった。だからハダルはそう言っている。
ギフトに関しては違う条件があるのかもしれない。
「…それと、妹君の鑑定だけれど、最後にして貰えるか?ついでにリギル様には付き添って欲しい」
「あ、分かった。付き添いの方はするつもりだったから大丈夫」
本当は本人以外に教えるもんじゃ無いんだけど、ヴェラは僕なら良いって言っているし、僕がしっかり確認したほうが良いと父様にも言われた。
ヴェラのスキルやギフトをしっかり確認すれば僕のスキル借用【妹】も生きてくるかもだしね。
「ありがとう。ユレイナス兄妹が揃っているところを見れるなんてオタク冥利に尽きる」
気を遣ってくれているのかと思ったら完全にただの私欲だった。自分に正直すぎる。
「君たちは本当に仲が良いんだな」
「…、前世でも兄妹だったから」
妹も恐らく転生者で僕の前世の妹だっただろうという話はハダルにも鑑定前にした。
だからヴェラは君が知ってるキャラのヴェラでは無いだろうということも話している。
それでも彼は僕たちが推しなんだそう。
というか、僕がシスコンになってるのが逆にエモいらしい。よく分からん。
「兄妹で転生か。羨ましい限りだ」
彼は一人きりで転生してきた。知り合いもいないし前世を知っている人もいない。だから僕たちが羨ましく感じるのだろう。
僕はヴェラがいたから救われたけど、転生したのは前世で死んだってことで、妹に生きていて欲しかった気持ちもあった。
だからハダルの言葉にほんの少し複雑な気持ちになった。