89・文通から宜しくお願いします
「えっ…」
ハダルの発言に思わず僕は固まっていた。
なんて答えたら良い?というか、なんでわかったの?
下手な答えをしたらまずいかもしれない。
「なんでわかった、という顔をしている」
ハダルが思考を読むようにそう言うので僕は思わず手を顔に当てた。
そんなに分かりやすい顔をしていただろうか?
「私の鑑定は特別だ。普通の鑑定士だと名前しか見えないが、名前、職業、性別、年齢がぱっとわかる。そして君は職業、公爵令息…の、隣に、転生者と書いてある」
「マッジで?」
思わずそんな台詞が飛び出してきた。
いやだってひけらかすように転生者ですって書いてあると思わないじゃん!しかも職業に!?
そんで転生者って職業なんだぁ…!?
それに、特別な鑑定って…もしかして………
「私はこのことを口外しないし、悩みがあるなら場合によっては協力できるだろう」
ハダルは僕の目をじっと見つめた。ここまで来たらもう誤魔化せはしないだろう。
「…、うん、僕はその、転生者…つまり、前世の記憶があって、元は異世界の人間で…」
「やはり。私もだ」
ぬ?今、あっさり私もだって言いました???
驚きに満ちた顔でハダルを見ると彼は再び無表情が崩れてくすりと笑った。
「…、昏き星の救世主、それから、明けし星の輪舞曲……」
これは転生者の合言葉みたいなものだ。こんな珍しいゲームタイトル知っていなければ口に出せるはずもなかった。
なのにソレをハダルが知っていることがハダルが嘘を言ってないことを証明している。
ただ転生者だからって無条件に信用は出来ないんだけど、ほら、聖女の例があるし。
「私は前世、女子高の生徒だったのだが」
……、前世女子高生だったん?????
「事故に遭って気付いたらこの世界に生まれ変わっていた。ゲームとは関係ない隣国のしがない伯爵家の三男だったが、うっすらクラメシとアケロンの世界ではないかと疑っていた」
クラメシ、アケロンは一部の人が使う略称だ。
僕は昏き星とか明し星とか言うけれど、本当はそっちの略称の方が使ってる人が多い。
「そして、私のスキル、精密鑑定は正確にはゲームでは没ネタだったスキルの上位版、ギフトだ」
「ギフト……!」
「やはり何か知ってるな」
ハダルのセリフにうっとなる。というかハダルの方はこんなこと話して大丈夫なのだろうか。
逆になんだか心配になってきてハダルを見つめた。
「…、ギフトについて調べにきたから…」
「それなら力になれる。私の精密鑑定ならギフトを調べられるだろう」
ぶっちゃけそれはめちゃくちゃ助かる。正直それに関しては賭けだったから。
ヴェラの能力がギフトか否か、ギフトを持っているのか……ハダルなら調べられるのか。
「君は君で知りたいことがあるの?」
どうして力になれると言ってくれるのか、僕にはそれが気になっていた。
僕の言葉にハダルは少しの間考えていた。
隣国の鑑定士の鑑定がギフトだとは誰も知らない。ハダルがあえて隠していたからだろう。
つまり知られたくないことなのに僕にわざわざ話したのだからハダルに対してメリットがそこにあるんじゃないだろうか。
「私はアルビノ萌えなんだ」
「アルビノ萌え」
思わぬ言葉につい復唱してしまった。
「白髪、または銀髪に赤い目が好きなんだ。前世ではヴェラ推しだった。ヴェラは正確にはピンクだけど。まあだからアルビノっぽい見た目が好きが正しいな…」
「へっ、へえ…??」
アルビノとは確かに違う。白銀髪は遺伝的なものだし、ピンクの瞳は精霊眼だし。
ヴェラの瞳は濃いめのピンクだ。聖女のほうが濃いピンクだけど、あれはまあマゼンタって感じ。
「ヴェラの見た目…、つまりまあ顔が好きで」
「うん。ヴェラは可愛い。でも呼び捨てにするのはやめて欲しいな…」
「すまない」
ハダルが即謝った。非はすぐ認めるタイプらしい。
今のヴェラはキャラクターじゃなくて一個人であって一人の令嬢だからね。
前世が女の子でも伯爵令息に呼び捨てされるのはちょっとね。
「乙女ゲームは友人の勧めでやっていたのだがあまりピンとくるキャラは居なくて…、続編が出たとき主人公が可愛らしくて始めたのだけど結末が全部酷くて絶望した。ひとつくらいはハッピーエンドがあるだろうと思ったが全く無くて泣いた」
ハダルの言葉に僕は黙って頷いた。
僕もハピエン、せめてトゥルーエンドを求めてゲームを隅々までやったけど幸せになることはなくて切なかった。
だからこそ、ヴェラの不幸の原因であるリギルに生まれ変わったのはある意味運が良かった。僕がどうするかで話は変わってくるからだ。
「だから…、私はこの世界では幸せに暮らして欲しいと思う。シナリオ前の出来事だからどうなってるのか分からなかったけれど、君が転生者で驚いたし、安心した」
驚いたようには全く見えなかったんだけどすごいポーカーフェイスだ。表情筋半分死んでる?
「ついでに言うと君の方が好みだ。攻略対象じゃなかったのが悔やまれる」
「…、目、赤いもんねぇ…」
そのついでいる?思わず変な返事をしてしまった。でもハダルは黙って頷いた。
好みだと言われたことに実に複雑な気持ちになる。
「ちなみに前世女子高生でいま男性だけどその辺は大丈夫なの…?」
「まあ、ハダルの記憶も持ってるし、特に気にはならない」
「そっか…」
まあ不便じゃないならいいんだ。魂と身体が乖離しているなんて辛いだろうし。
「…、正直その、転生者に会えたことが嬉しいんだ。シナリオにも関われないような隣国のモブですらない伯爵令息で、無駄に能力だけあって…。前世のことを誰にも話せないのが寂しかった。世界に一人で取り残されたような気分だ」
僕にはヴェラが居たからそんなことは考えたことも無かった。でも“彼女”は普通の女子高生だったのだろう。
僕よりもしかして前世が恋しかったとか?
「その、だから…と、友達になってほしい……少し年齢は離れてるし国も離れているが……文通から…」
ハダルは指をもじもじさせていた。表情はあまり変わっていないけど、緊張しているような様子は伝わってきた。
「それが君のメリット?」
「…、前世の話ができる友人なんて、メリットでしかない」
こっちとしても特に損はないどころかこっちにもメリットがあるような話だ。
裏があるかどうかは心配ではあるけど、あまりそんな器用そうな人物にも見えない。
自分が転生者とあっさり明かしたのも嬉しかったからか。
「友達になるくらいなら全然構わないよ」
だから、僕はそう言ってハダルに微笑んだ。
「天使か…」
「天使ではない」
うーん、この語彙力の感じ、間違いなく同族だ。