88・君は………なんだな?
「鑑定士の方は一日貸し切りなのでごゆっくりお話しできますよ」
「え、そうなの?」
鑑定士のところに向かう馬車でユピテルが発した言葉に驚いた。
「ヴェラ様のこともありますからユレイナス公爵様からの計らいです」
お金出してもらうの、ただでさえ申し訳ないのに…。でも親なら普通なんだろうか?よく分からない。
前世の時の感覚がなかなか抜けないからどうも親の金を使うのに抵抗がある。
自分で出来ることは自分でなんとかしたい。
「ハダル・エウダイモニア氏はエウダイモニア伯爵の別荘を仕事場としています」
「じゃあ、そこに向かうんだね」
「はい」
今日は最低限の護衛と使用人と馬車二つで移動をしている。グループ分けは単純に男女だ。だからユピテルもこっちに乗っている。
「貸し切りって響きが最高」
リオが呑気にそう言った。聖女の件から立ち直ったらしい。
「あはは…まあとりあえず最初は僕が鑑定してもらうよ。話したいこともあるし…」
スキルについての口止めとかその他諸々ね。確認できる事項は先に確認しておかないと。
なんだかんだ会話しているうちに1時間くらいでエウダイモニアの別荘についた。外観は本当にただの別荘だ。
ただ小ぢんまりして見えるのはうちが公爵家なせいだろう。
馬車を降りてみんながいるのを確認してからドアベルを鳴らすと老齢の執事が一人出てきた。
「ご予約のユレイナス様でしょうか」
「はい」
僕が頷くと執事はドアを開けて招き入れてくれる。
「どうぞ中へ」
まずは広い休憩スペースに通された。ソファや机、本棚にボードゲームやテーブルでできるゲームの置かれた棚がある。
チェス、リバーシ、トランプ…、ボードゲームもこちらの世界にしかないのもある為見たことないのが並んでいる。
「お待ちの方にはお茶をお淹れします。ボードゲーム等もありますのでご自由に」
執事がそう言うとすぐにメイドがティーカートを持って部屋に入ってきた。
なるほど普段から待ち時間に使われてるみたいだ。
「どなたから鑑定なされるのでしょうか?」
「あ、僕です」
執事の言葉に思わずそう言って手を挙げた。
みんなに行ってくるねと声をかける。
「こちらへ。ご案内します」
執事に案内され部屋を出ると部屋からそのまま真っ直ぐに廊下に進んでいく。長い廊下を歩くと突き当たりに扉があった。
使用人が軽くノックするとそっけない返事が聞こえる。
「ハダル様、リギル・ユレイナス様がいらっしゃいました」
執事がドアを開けてからそう言うと、男性の後ろ姿が見えた。
書類を手に机の方に向いている。
まるで診察室のような、カウンセリング室のような、薬棚ではなく本棚に囲まれた空間だ。
机に向かう男性の近くに椅子がぽつんと置かれている。
執事は礼をするとドアを閉めて去って行った。
「ハダル・エウダイモニア様、本日はよろしくお願い致します」
「いえ、この度はご予約いただきありがとうございます。プラネテス王国のユレイナス公子様ですか」
「あ、はい」
僕の返事の後すぐにハダルはコチラを向いた。
ハダルは金色の髪をしていてなかなかのイケメンだ。でも特筆すべきというか、特に気になったのは、桃色の淡いピンク色の瞳だった。
それに驚くと同時に、ピンク色の瞳に目を奪われた僕は思わず呟いた。
「精霊眼…?」
「は?」
ハダルのは?に我に返る。なんでもないと誤魔化すけどハダルは僕をじっと見ていた。
僕は気まずさを感じながら目を伏せた。
「……、何か知ってるのか?」
「え?何か…?」
僕が聞くと、慌てたようにハダルはコホンと咳払いをした。
「すみません。ユレイナス公子様、そこにおかけ下さい」
ハダルが指差したのはハダルの前にぽつんと置かれた椅子だ。
まあ座るところはそこしか無いんだけど。
本当に必要最低限のもの(資料や本以外)しかないといった感じがする。
「丁寧な言葉遣いが苦手で、失礼があったら申し訳ありません」
「ああ、じゃあ、崩して貰っても…」
「…、そうか、心遣い、感謝する」
僕の言葉にハダルは即言葉遣いを崩した。まあいいんだけど、そんなに苦手なのか。
「ユレイナス公子様も敬語はいらない」
「うん、リギルでいいよ。二人だけだし」
「じゃあ、リギル…様」
さすがに呼び捨てはまずいと思ったのかハダルは取ってつけたように敬称を付けた。
ハダルは目をぱちぱちさせながら僕を見つめる。
薄い桃色の瞳はヴェラとも聖女ともミラとも若干違っているけれど綺麗だ。
「精霊眼、というのはピンクアイの古代の呼び方だろう?リギル様は何故知っている?」
「ん?んー?そういうのに詳しい友人に聞いて…?ハダル様こそ…」
「私は自分を鑑定した時に知って調べた」
自分を鑑定って出来るんだ、と思わず感心した。
ハダルは僕を見ながら何か考えているようだ。
なんか様子を伺っているというか、出方を考えているというか。
「すまない、雑談ではなく、スキルを調べに来たんだったな」
「…まあ鑑定だからね。ええと、実は本命は妹で…先に僕が来たのは貴方の人柄とかを確認したくて…」
「…警戒をするに越した事はない。賢い選択だ。妹が心配なのだな」
ハダルの言葉に僕が頷くと、ハダルは少しだけ表情を崩してフッと笑った。
あまり疑うのも申し訳ないとは思ってたので肯定してくれるのはなんだか助かる。
「秘密についてはどんな結果であれ守る。契約書もちゃんと書くから安心して欲しい」
「助かるよ、ありがとう」
契約書については鑑定士でも真面目な人しか交わさない。そもそも情報を漏らすのが大罪だから必要ないと考えているからだ。
でも真面目な人はこうやって相手に安心を与えるためキッチリ契約書を用意している。
この数分でハダルの真面目さがしっかり伝わってきた。
「ハダル様なら安心だね。早速僕の鑑定をお願いしても……」
「その前に確認したいことがある」
ハダルが僕の言葉を遮った。
確認したいこと?鑑定についての注意事項とかそんなところだろうか?
「なんだい?」
僕が首を傾げると、ハダルはピンク色の瞳でしっかり僕の目を見つめていた。
真剣な様子に目を離せなくなってしまいそうになる。
そして、次にハダルから飛び出した言葉は衝撃的だった。
「君は転生者なんだな?」