77・地雷です!
今日は隣国の旅行に出発する日だ。とりあえずユレイナス公爵家に集まってうちから出発する予定だ。
すると、集合時間より2時間早くミラが来た。
「シャウラたんと旅行だと思ったら楽しみで…早く会いたくて来ちゃいました」
「いやシャウラもまだ来てないから」
しかも2時間は気が早すぎる。とりあえずミラを応接室に通してお茶を出した。
ユピテルはヴェラの準備の手伝いに行ったので二人きりだから誤解されないよう少し離れて座った。
「まあ、せっかくだから相談したいこともあったしいいか…」
「相談…ですか?」
お茶をふーふーしていたミラが首を傾げる。
「というかまず最近のことについて話すね」
最近は忙しいのもあってタイミングが作れなくて、温室でミラに会うことも無かった。だから聖女周りのことが報告できていなかったのだ。
「待っっ…ちょ…情報が多いです…」
エルナトに呼び出されたことから聖女に出された条件とやら、浄化スキルに関してや王太子の現状について話せることは細かに話したらミラが頭を抱えた。
まあ僕でも頭パンクする情報量だとは思う。
「もっと細かく報告できれば良かったね…、纏めてになってごめん」
「まあそこは仕方ないのですが…」
婚約してから浮気と取られかねない行動は控えておかないとというのもあったので仕方ないといえば仕方ない。
リスクは減らしておかないと誰に足を掬われるか分からない。
「まずエルナト・メンカリナンに関してですが…」
「あれ、何か知ってる?」
エルナトはただのクラスメイトだと思っていたのでそこに意見が出るとは思わなかった。
「あの、レグルス様の兄弟…、つまり、悪魔族の末裔です…」
「えっ」
ミラの話によるとエルナトは本編では名前が出てこなかったが本編で必ず話に絡んできた悪魔の末裔の子供たちのうちの一人…というか、リーダー格のキャラの名前らしい。迷いのあるレグルスと違い狡猾で人間を嫌っていて、積極的。
エルナトという名前しか攻略本には乗ってなかったけど珍しい名前だしヒロインと同じ学年だったから間違いなかったとか。
年齢はなんとなく知っていたがまさか学園に入学してるとは思ってなかったらしい。
「何故もう聖女様と絡んでいるのかはわかりませんが……、まあ、あの人が節操なくいろんな男子と仲良くするから利用するなら好機と捉えたのかもしれません」
「…そうかもしれない」
あの時に感じた違和感に納得した。僕に触っても魅了が解けなかったのは別に元からかかって無かったんだろうか。
魔族に魅了がかかるか否かはまだ微妙に分からない。
「…それでえーと…、聖女様はリギル様に婚約?を申し込んで…?ちょっと意味わからないです…、何考えてるんですかね…?」
「僕も分かんない」
ミラがうーんと唸る。まあ転生者だから行動が意味不明なのはどうしようもない。
知ってるならある程度対策はとれるんだけどな。
「手に入らないものほど欲しくなる心理でしょうか?生前やたら彼女持ちにちょっかいかけたがる知り合いがいましたし……」
「うへえ…」
確かにそういうタイプはいるっちゃいる。略奪自体が目的というか、そういうやつ。
僕の周りには居なかったけど聞いたことくらいはある。
「エルナト様に関してはこれからは注意してください。…、それからギフトとかはおまけ程度にしか語られてなかったので魔族に効かないのかとかは私にも分からないのです。でも話を聞く限り効かないのかもしれませんね…」
「レグルスに関してはどう?なんか分かった?」
「注視はしてますが変わった様子はないですね」
レグルスだと思っていたあれもエルナトの仕業かもしれない。そうなると疑いをかけて申し訳ないけど。まあエルナトの存在をあまり知らなかったからなあ。
「まあ、でも聖女を気にしてる様子はあるので彼女が好きなのかもしれません。…正直魅了はなくてもゲーム知識があればキャラクターのことは知り尽くしているわけですから、欲しい言葉あげられますし、好かれることはそう難しくありません」
「…まあ確かに」
彼女が行動に気をつけていればの話だけど。シリウスもカペラも魅了が解けたあとは嫌悪感を抱いてたし、どうなんだろう。
割とやらかしているんじゃない感はある。
とりあえずだいたいの情報交換を終えたので違う話でもしようと思って、聞いてみたいことを思わず口にした。
「ところでミラはアトリアが好きなの?」
「へえ!!???」
素っ頓狂な声を上げたミラの顔が鯛みたいに赤くなった。これ図星では。
「やめてくださいっ、自分×推しは地雷なんでっっ」
「じゃあなんで乙女ゲームをやってたの…?」
「デフォルトネームで少女漫画感覚でやってたんです!自己投影はしてませんっ」
なるほど僕と似たようなものだったのか。
でもムキになるミラも見てやっぱり満更でもないのでは?と思う。
二人が上手くいけばアトリアも救われるのではないだろうか。
コンコンとノックが聞こえる。ヴェラの荷物の準備をしていたユピテルがティーカートにお茶菓子を乗せて持って帰ってきた。
「リギル様浮気してません?」
中に入るなり失礼なことを言ってくる。するわけないだろ。
まあユピテルの軽口はいつものことなので軽口で返そう。
「してないよ。ミラ嬢はアトリアが好きだから」
「だ、だ、だから違うんです!」
ミラが真っ赤な顔をぶんぶん横に振る。その必死な様子をユピテルがおやおやと見つめる。
こんなの肯定してるようなもんじゃんね。嫌ならもっと冷静になるよ。
「そうなの?残念だな」
聞き慣れた声が聞こえたかと思うと、ユピテルの後ろからひょこっとアトリアが顔を出した。
後ろからちょっと気まずそうにシャウラも顔を出す。
「あ、アトリア様とシャウラ様がいらしたのを忘れていました」
ユピテルのてへっとでも効果音がつきそうな言葉と突然現れたアトリアにミラが固まってしまった。
やっべ。もう来たとは思わなかったので悪い事をしたな。反省はしてないけど。
ミラをちらっと見ると、恨みの篭った目でじとっと見られた。