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73・アトリアの心配事

「やあ、リギル」


「あれ、アトリア…」


談話室から荷物を取りに戻るとアトリアが教室に一人残って本を読んでいた。アトリアは僕を見つけると本を閉じて仕舞う。

僕の方に身体を向けると優しくにっこりとした。


「おかえり。お疲れ様」


「もしかして待ってたの?」


「まあ、少し気にかかってね」


くすりとアトリアは笑う。一応エルナトに相談があると呼び出された事とかはアトリアにも話した。

メンカリナン子爵家に関しては一応知ってはいるらしい。元々は商家だったとか。


「何の相談だったんだい?」


「いや、相談も何も行ったら聖女が待ち構えてた」


「新手の罠かい?」


まあ罠と言えば罠である。

ヴェラのおかげ(重要)で魅了耐性のある僕だったから良かったものの…リオとかだったらコロッと魅了されて帰ってきただろうな。

彼も魅了されていたのか、とアトリアが呟いた。

誰も居ないのでどうせだしアトリアとちょっと話そうと思ってアトリアの近くに座る。


「彼女は僕に文句とか色々あったみたい」


「ああ、ケレス公子たちの件だね」


シリウスの魅了も上手く解けたという話はさりげなくはアトリアに伝えていた。

昨日のことなのでまだ詳しくは話せてないのだけど。


「魅了スキル…っぽいものを使ってる。って認めたよ、彼女。それで本当に意味わからないんだけど僕が彼女と婚約したら魅了をやめるとか言ってた」


「…、何で?」


聖女が魅了スキルを使っていると認めたときの僕と同じような反応をアトリアがした。

いや、まじで何で?なんだよね。


「それが分かったら僕も苦労しないんだけど…」


「それで?断ったんだろうね?」


「……、断るつもりが散々濁されて断る隙も与えられずに逃げられた」


僕の言葉にアトリアが頭を抱えた。気まずくて僕は思わず目を逸らしていた。

まあ、僕は大事な妹の婚約者なんだからアトリアにとっても大問題だよね…。


しかし聖女のところに行ったところで夏休み明けまでは逃げられるだろうなと思う。

逃げる聖女に聖女を追いかける僕、そんなの見られたら不名誉な噂が立ちかねないから結局また向こうから接触してくるのを待つしかない。

他人を使う手もあるけど、シャウラじゃまともに取り合わないだろうし、ミラもあまり目立たせたくはない。

だからって男性に頼めば魅了されてしまうわけで。

……、まあ言い訳してるけど結局は面倒だから先延ばしにしたいのかも。


「夏休み明けに返事を聞くって言ってたからその時ハッキリ断るけど……、やっぱり早めに対処した方がいい?」


「……、いや、リギルとの約束があればこれ以上魅了を使って無茶しないだろう。多分。逆にしばらくは安全だと思おう。ヴェラ嬢のスキルをしっかり調べれば間接的な使い方でも王太子の魅了を解けるかもしれないし、やっぱり鑑定が優先だ。その繋ぎとして考えよう……、しかし…、本当に何を考えているんだか……」


「もう本当にそれなんだよね……」


二人してうーんと唸った。アトリアには転生のことは話してないのでアトリアの方が余計意味わからなく感じるだろう。

ミラに相談したら何かしら道が拓けるだろうか…。


「…、例えば、なんだけど……、聖女が本気でリギルのことを好きとかはないかい?」


「ええ?ないでしょ。だったら他の男魅了したりしなくない?」


アトリアの突拍子もない発想を思わず即座に否定した。

好きな人がいるなら他の異性に無闇に触れたり触れられたりなんてしたくないだろうし、今の聖女みたいにしていたら僕みたいに魅了が効かない相手なら誤魔化せないし心証が悪くなるのは目に見えている。

少なくとも僕が聖女の立場で僕を好きならもっと上手く立ち回れるはずだ。

魅了が効かないなら信用を取れるように転生者という立場くらいは利用して上手く協力者になるとか。

魅了が効かないのは早い段階で分かってたはずだから魅了を使うにしてももっと慎重になるだろう。こうもバレバレなのも逆に凄い。


「うーん…そうかな……、そうだよね…」


アトリアの反応は何か歯切れが悪い。なんだか納得できないといった感じだ。


「…、なんか王太子が重くなって面倒になったっぽいのは確かなんだよね……」


「…しかし乗り換えるにしても何故わざわざ魅了スキルの効かないリギルなのかが分からない…、そもそも彼女は王太子をどうする気なんだ?いきなり魅了を解くのか?騒ぎになるぞ」


二人でもう一度うーんと唸った。聖女の行動が不可解すぎてもういくら話し合ってもわかる気がしない。

魅了を解くと気持ちが冷めるとして、アトリアの言うようにカペラたちみたいにいきなり解くなら混乱したり、魅了スキルだと気づくだろう。

本当は穏便に済ますなら徐々に気持ちが冷めるように解くしかない。

他にも魅了を解けば王太子が必ず聖女を好きじゃなくなるのかというのは実際は分からないからやりようがないというかその点でも難しい。

だから本当に解くというならどうするのか謎だ。


しかし、そうなればやっぱり今後僕たちが王太子の魅了を解くにも聖女の説得が必要になって来る訳だけど婚約はごめんだ。

でも、王太子の魅了を無理に解いて王太子にバレた場合、理由を話すとしても聖女の魅了の件って罪にしたら何になるんだ?やっぱ最悪国家反逆罪とかにならない?

だんだん何故彼女の尻拭いの話を僕らで話し合わなければならないのか、というやるせない気持ちになってきた。


「一応、私としてもあまり騒ぎにはしたくない。聖女を教会はどうあっても擁護するだろうし、故意に魅了を王太子にかけたと分かれば王族派は聖女を処刑せよとまで言う可能性もなくは無いだろう。本当は魔女だとか言ってね。完全に教会と王城が対立する図式になることだけは避けたい…」


「つまり大人たちには一切バレずに処理しないといけない…ついでにできれば王太子にも」


聖女、女子じゃなかったら一発ぶん殴ってる。


上手いこと結婚してくれた方がマシなのでは?とか思い始める程に思考を放棄したくなってきた。

アトリアの方も顔にめんどくさいと書いてある。


アトリアの言う通り教会は聖女を庇うだろう。ミラが聖女には偽物が挟んであった、五百年ぶりの本物聖女と言っていたし、だから教会も絶対に手放したくないに決まっている。

ミラもアトリアも言う通りに処刑以外でも完全にご退場願うのは難しい。


「別に聖女を立てるかい?教会が彼女に拘らないように」


「ぇえー、いやいやいや…」


アトリアのそれは思い切り聖女を見捨てる発言だ。他に聖女がいればアンカは聖女じゃなかったってことで処刑されても大丈夫だよね!ってやつ。僕より思考を放棄している。

てか、別に聖女とか普通に無理だからなぁ。


「冗談だよ。他に適任は居ないだろうね。光魔法の加護持ちなんて…」


あんまり、冗談に、聞こえなかった、な。


「…、聖女の適任かあ……」


確か、聖女は本来の“精霊に愛されし者”でピンク色の瞳、つまり精霊眼をもつ人間で光の精霊に選ばれた人のこと。

精霊眼を持つ人間に絞るなら居るにはいるのだけど。

光の精霊にそんなヤツやめちゃいなYO!とか言ってアンカから他の精霊眼の子に移って貰えたらいいのに。

ミラとかいいんじゃないだろうか。


僕たちがこんなに悩んでるのに聖女はもしかしたらアタシ主人公だしなんとかなるわ、とか思って何も考えてないだけなのかもしれないな、と思うとなんか無性に腹が立った。





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