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72・名案みたいに言われても何がしたいのか分からない

「ユレイナス公子様!」


「は?え??はい…?」


学園に着くなり、なんか全く知らない男子生徒に話しかけられた。自分のクラスに入る直前だ。

ちょっと前に合流したリオもきょとんとしている。

見た目からして年下、つまり一年生だろう。

くすんだ金髪にそばかすが特徴的な少年は僕をじっと見据えている。


「ぼ、僕はメンカリナン子爵家のエルナトと言います…。そ、そのユレイナス公子様に折り入ってご相談がありまして…、放課後お時間いただけないでしょうか」


「何で僕に?」


メンカリナン子爵家なんて交流も無ければこう言ったら何だけど初めて聞いた。でも何だか少し気にかかる。

にしても全く面識がないのに相談したいとは一体何なんだろうか。

相談って身近な人にするものでは?

でも僕のそのセリフでエルナトは床に崩れ落ちた。


「ユレイナス公子様でないとダメなのです!お願いします!我が家の存亡に関わることなのですっ!」


気づけばエルナトは涙目になりながら膝をついて僕に向かって拝んでいる。

いやそんな重大なことなら尚更何故僕に…!??

周りがザワザワして、リオも何か可哀想だよぉと呟いている。

クラス前の人通りが多いのでここで断ったら何か悪い噂でもされそうだ。


「わ、分かったからそんなところで膝を付かないで…」


「いいんですか!???」


エルナトが勢いよく満面の笑みで顔を上げた。

あれ、涙はどこへ?

ありがとうございます!と凄い勢いで僕の手を握るとぶんぶんしてくる。押しがすごい。


「では、放課後、談話室を一室借りておくのでそこでお願いします!あっ、迎えに来ますね〜!!」


と、エルナトがそう言ってから去るのが早かった。

一瞬のこと、嵐の如し。


「なんだぁ…」


リオがぼそりと呟いた。いや、ほんとそれな。







「来たわね!!!」


お前かよ!!!!!!


談話室に入るなりソファにふんぞり返っている少女を見て飛び出しそうになった言葉を堪えた。

毎度毎度よく分からない方法で呼び出してくる聖女様である。前回は王太子を使ったし。

まあ自分で直接来ないぶん、気を遣っているのか…?

でもあれはちょっと迷惑なんだけど。


「あの、メンカリナン子爵は…」


「あたしがエルナトに頼んだの」


じゃあ我が家の存亡云々は嘘ってわけで。

良かったような良くないような。多分聖女に魅了されているうちの一人なのだろう。

でもこれは僕らが待っていた聖女からのアクションというやつだ。とりあえず話は聞いてみよう。


「……、なんの用?」


「まあとりあえず座りなさいよ」


促されたので大人しく座ることにした。


「…、前回は王太子に頼んだのに今回は違うんだね」


「ああ、アルフ?なんか最近彼氏気取りでウザいのよねえ。他の男の名前出すと機嫌悪くなるから頼みづらいのよ」


今朝の王太子の部屋の件について思い出した。

聖女の魅了がそれだけ深まっているということなんだろう。

てか彼氏気取りでウザいって…、多分周りや王太子本人は婚約秒読みだと思ってると思うんだけどな。


「あんた前回話したときアタシが魅了スキルを使ってるんじゃないかとか言ってたわよね」


「えっ?うん?」


「使ってるわ」


「………、何で?」


前回あんなに濁していたのにいきなり暴露する理由が全く分からない。

どうして急に認める気になったのか。

しかも何故そんな自信満々に言えるのか。彼女の態度は堂々としたものだった。


「正確には魅了スキルっぽいのがなんとなく使えるなーと思って使っているわ。触ったり会話したりすると徐々に。長い間、目を合わせると一時的に魅了できるっぽいわ」


「いや、だから…なんで急に……」


「やめてあげてもいいと思って」


「はい?」


やめてあげてもいい、という上から目線なのはまず置いといて、本当に訳がわからないというかきみが悪い。

王太子がいい加減ウザくなったのか、ケレス公子たちの魅了が解けたからなのか、僕が真意を伺おうとじっと彼女を見つめると、彼女は少し頰を赤らめてぱっと顔を逸らした。


えっ、何?


「ふん…、その、カペラやシリウスの魅了解いたのあんたでしょ。他に心あたりないし。私のやり方が気に食わない、そうでしょ」


まあそうと言われればそうだ。

魅了で逆ハーなんで強引なやり方はいただけない。


「…、そうだね。間違ってる」


「ゲームのキャラにそこまで入れ込む理由は分かんないけど、まあアタシの要求を飲むなら奴らを解放してあげていいわ」


まるで人質を取っているみたいな、聖女なのに悪役みたいな言い草だ。

というかマジで性根が腐ってない?


「…、要求って?」


「貴方がアタシと婚約するの」


「は?」


「ふふん、よく考えてみたら転生者…ゲームのキャラじゃないちゃんとした人間はアタシと貴方だけじゃない?貴方に魅了が効かないのは簡単に操れる中身がないゲームのキャラと違って意思がちゃんとあるってことだし?地位も顔も悪くないし?…まあ結婚してあげてもいいってことよ」


全く何を言っているのか分からなくて頭が痛くなってきた。

でもあくまで彼女の中ではこの世界はゲームで自分…いや、転生者以外は中身がないNPCだとでも思っているってことなんだろう。

ミラやヴェラも転生者なのだが彼女にわざわざバラすメリットなんかはないし、ここでは言えない。

そこの誤解を解く必要は今はないだろう。

…にしても、説得とか以前に前提というか、物の見方…価値観が違いすぎるというか…。


「僕の婚約者はシャウラだ」


「あの悪役令嬢浮気してるわよ」


吐き捨てるようにそう言った聖女はシャウラの話は興味ないとでも言うように片手で爪をいじっている。


「金髪の男と居るの見たわ。先週の土曜日」


いやそれ僕じゃん??????

とはいえ説明しても庇ってるだけでしょとでも言われるんだろう。

まずは彼女の真意を確かめるべきだと思った。


「……、僕と婚約したいのは何で?転生者だから?」


そう聞くと、聖女がぴたりと動きを止めた。

やがてそのぅ、あのう、と言いながら目を泳がせだす。

そして何度も僕のほうをちらちら見てきた。


「ま、まあすぐに悪役令嬢と婚約破棄も出来ないだろうし!浮気の調査期間とか考える時間とかあげるわ!!」


僕の質問はガン無視のようだ。彼女は慌てた様子で立ち上がる。


「いや、だから婚約破棄する気は…」


聖女は言いかけた僕の顔に向かって近くにあったクッションを投げつけてきた。

言葉は遮られて彼女の耳には届かなかった。


「夏休み後まで時間あげるから考えておきなさいよね!」


どうする間もなく、聖女は談話室を出て行ってしまった。

残された僕は呆気に取られるしかなかった。


「えぇー………」


談話室で一人きりになった僕はとりあえずちょっと頭を冷やすことにした。

えーと、エルナトが来て談話室に呼ばれて…聖女と婚約……ダメだまとまらない。

そういえばエルナトは僕をここまで連れてきたら僕が談話室に入るなり光の速さでドアを閉めたけど帰ったんだろうか。

彼の勢いにに思い切り押されて来てしまったけどどこかのタイミングで断るべきだった。


すっっっげえめんどくさい。


まあ、結構すごい力で腕を引かれて来たんだけど…………。

…、あれ、そういえば、何で僕に触っても彼にはあまり変化が無かったんだろう。





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