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67・淡い黄色の(シャウラside)

「最後は僕の行きたいところに付き合ってくれるかい?」


リギル様がそう仰るので私は二つ返事で了承した。

私が了承するとリギル様は綺麗な赤色の瞳を揺らして顔をほころばせた。

いつもリギル様の瞳は優しく私を見ていて好きだ。


リギル様についてしばらく歩くと着いたのはブティックだった。

最近貴族の間で流行っているドレスのデザインの先駆けの店だ。

入ったことはないが噂くらいは聞いたことがある。


「ユレイナス公子様、エリス公女様いらっしゃいませ」


十数名のお店のスタッフが一斉に頭を下げて出迎えてきたので思わずピシッと背筋が伸びた。

貸し切りにしたんだとリギル様は微笑む。


「シャウラにドレスをプレゼントしたくて」


「え、そ、そんな…」


「遠慮しないで」


リギル様に両手で手を握られてドキドキする。

優しい目で見つめられると拒否なんてできない。

いえ、そもそもここまでして貰って拒否するのも失礼だわ。


「シャウラはどんなものが好き?好きな色とか」


「そういえばあまり考えたことありませんわ」


社交の場には父が公爵家として私が恥をかかない程度のものを適当に見繕っていた。

自分でもそれ以上必要だとは思わなかったし、ドレスが欲しいと言う気にもならなかった。

だからどんなものが良いかとか好きかとかあまり考えたこともない。


「リギル様が選んでくれませんか…?」


そう言いながらリギル様を見上げると、リギル様は少し驚いたような顔をしてからまた優しく微笑みかけてくれた。


「…ふふ、分かった」


それからリギル様はドレスを三着ほど見繕ってくれた。

ピンク色に水色、淡い黄色…どれも明るい色合いであまり私が着たことがないようなものだった。


「どれも似合うと思うけれど、シャウラの紫の夜空のような髪の色には黄色が一番似合うと思うな」


「黄色…」


淡い黄色のドレスのデザインは流行りのもので大人っぽさもあれど少し甘いデザインだ。


「私に似合うでしょうか?あまり明るい色は着たことなくて…」


「なら着てみて」


リギル様はにっこり笑うと女性のスタッフに黄色のドレスを手渡して、着替えておいでと促した。

私はリギル様に頷くと、数名のスタッフと一緒にフィッティングルームに向かった。

ドレスを着て、髪も整えられる。平民の少女を装っていた私はあっという間に貴族の娘に戻った。


「おかえり、シャウラ」


リギル様のところに戻ると、リギル様は燕尾服を身に纏っていた。

平民の服装から燕尾服になったことで御髪も元の白銀の髪に戻っている。

紺色の燕尾服には紫黒しこくの差し色がちらほら入っている。直ぐに自分の髪色だと気づいて思わず赤面した。


「ああ、やっぱり似合うよ。シャウラ。月の女神みたいだよ」


「つ、月の女神っ…!?」


私の姿を見てニッコリ笑うリギル様は恥ずかしげもなくさらりと私を女神に喩えてみせた。

こっちはリギル様の姿を見ただけで恥ずかしさでいっぱいいっぱいなのに余裕そうでずるいと思う。


「り、リギル様こそっ…、その服、す、凄く似合っていて、素敵ですわ…」


精一杯反撃しようと言葉を絞り出すもリギル様が少し照れた様子で「ありがとう」とはにかむのを見て余計にこちらが照れてしまった。

照れたリギル様はとてもお可愛らしい。

そして、リギル様の綺麗な白銀の髪が揺れたと思ったらリギル様の顔と手が私の顔の近くまで来ていた。

リギル様がさらっと髪に触れる。ほんの一瞬だったけれどあまりにドキドキして息が止まった。


「そのドレスに似合う髪飾りも選んでおいたよ」


リギル様のその言葉にハッとすると、女性スタッフが鏡を持ってきてくれる。

私の髪には綺麗な黄色い花の髪飾りがあった。

ドレスに似た色合いでキラキラした髪飾りは私の髪色も相まってか花というより夜空に瞬く星に見える。


「靴や他のアクセサリーも選ぼうか」


「…、はい」


リギル様が子供の頃から領地経営の手伝いでお金を貯めていたのは聞いていた。リギル様は結構しっかりした考えや信念を持っていて、プレゼントするなら自分でお金から用意したいらしい。

そのために結婚式も正式に公爵位を継いでからにしたいと言われた。

だからこうしているお金は全部リギル様が一生懸命貯めたお金なのだろう。

それを分かっていたからこれ以上色々貰ってしまうのは憚られたけれどリギル様があまりにも嬉しそうでつい了承してしまっていた。


リギル様にドレス、髪飾り、アクセサリーに靴をプレゼントされて全てを身に纏った。他のドレスも二着ほどプレゼントされて、それは後でエリス公爵家に送ると言っていた。

リギル様がこのまま着ていくと仰られたのには驚いたけれどエスコートされて店を出るとユピテル様とユレイナス公爵家の馬車が待っていたのにはもっと驚いた。


「シャウラ、足元に気をつけて」


「あ、は、はい」


新品の履き慣れない靴を履いているから気を遣ってくれているのかリギル様はいつも以上に丁寧に馬車の中へと誘導してくれる。

差し出された手を握ると緊張のせいか熱く感じた。

馬車に乗り込めば直ぐに馬車が走り出す。

日が落ちかかっていてこのまま帰るのかしらと窓から外を見つめた。


「今日は楽しかった?」


「…、リギル様こそ、楽しかったですか?」


つい、質問を質問で返してしまった。

今日は初デートだというのに私が平民のカフェに行ってみたいなどとわがままを言ってしまった。

リギル様がシャウラの好きなところでいいよ、なんて言うので他に行きたいところも思い付かずつい甘えてしまったのだ。

私ひとりでは無理でもリギル様なら上手く叶えてくれると思ったから。

素朴なカフェに自由市場、前々から私は気になっていたけれどリギル様はそんなことはないだろう。


「新鮮で楽しかったよ」


リギル様のその言葉にホッと胸を撫で下ろす。

嘘をついてたり、気を遣っている様には見えない。


「その、私も楽しかったですわ」


「君が楽しかったんなら僕も嬉しいよ。…もっとも、君と一緒なら僕はどこでも楽しんだけどね」


どうしてリギル様はこんなに絶えずに私に嬉しい言葉を下さるのだろう。

思わず胸がきゅうっとなった。


「…、ねえシャウラ」


不意に、リギル様の真剣な瞳がこちらを向いた。

声も真剣でいつもと少し違う感じにどきっとする。


「近いうちに婚約式を挙げよう」


「…え……」


リギル様から出た思わぬ言葉に固まってしまった。

婚約式をするというのは書面で婚約するのとは違う。正式に婚約したのだと社交会に大々的にアピールして、それが確定される。

後戻りは絶対にできない。リギル様は本気だ。


「…、いいのですか?本当に?」


「今はもう僕には君しか居ないと思っている。婚約式を挙げて、君が僕のものだってしっかり知らしめたいし、結婚するなら君が良いから」


リギル様は私にしっかり好きだと告白してくれた。

最近の私に対しての態度も前から優しかったけれどもっとずっと優しくなって、とけそうな瞳で私を優しく見つめてくれて。

だからリギル様の気持ちを疑ったことはないけれど婚約式という形でしっかり証明してくれようとしている。

そんなリギル様の気持ちが嬉しくて嬉しくて、気付けば涙がたくさん溢れていた。


誰かに愛されることなんて期待してなかったのに、リギル様に出会ってから私は欲張りになったわ。


リギル様に愛されることが、こんなにも嬉しいなんて。







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