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65・露店のハンカチ

カフェから出ると暫く歩いた所に露店が立ち並ぶ広場があった。

この辺りは確か土日のみ許可制で個人が作ったものや不用品を売れるような場所だ。

掘り出し物があったり、冒険者向けの物が売っていたりする。


「こういうお店もあるのですね!」


シャウラがきらきら瞳を輝かせながらお店を見渡した。

立ち並ぶ大型の簡易テントの様相を見ることはお嬢様ならなかなか無いだろう。


「不用品を売ったり買ったりして節約したり、自分で作った商品を売って生活の足しにしてるみたいだね」


「そういう工夫があるのですね」


シャウラが感心したように呟いた。

何かイベントがあるとここだけじゃなくて街の至る所に出品ができるようになる。

聖女のパレードの日に立ち並んでいた露店がいい例だ。…あの時は食べ物屋ばかりだったけれど。

一生懸命露店を見て回るシャウラを後ろから眺めているとあの日のヴェラが重なって微笑ましくなった。


「刺繍のハンカチですわ」


シャウラが見た方を見ると子供が数人と年若いシスターが刺繍したハンカチを売っている。

教会運営の孤児院の子供たちだろう。

孤児院には基本的に僕らみたいな貴族からの寄付もあるけど社会勉強やおやつ代にこうして自分たちで刺繍したハンカチを売ってると聞いたことがある。

子供に任せているのかシスターは少し後ろで見守るようにしていた。


「まあ、綺麗ですわね」


シャウラがにっこりと微笑んでハンカチを売っている子供のうちの薄茶色の髪の少年にそう話しかけると、少年は顔を赤らめた。

シャウラ美人だもんな、でも僕のだからな。


「あ、ありがとうございます…」


「お姉さん買ってくれるの?」


控えめにお礼を言った少年を押し退けてこげ茶色のツインテールの少女が前に身を乗り出した。

それを見てシャウラがクスッと笑う。


「ええ。このうさぎさんが欲しいですわ」


シャウラが指差したのは目の赤い白兎の刺繍が施されたピンク色の可愛らしいハンカチだった。

少女は嬉しそうに分かったわ!と返事をすると可愛いらしい紙袋にハンカチを包んだ。

シャウラがそれを受け取ると僕はそっと横からお代を渡した。


「あっ、気にならさなくて宜しいのに…」


「これくらいプレゼントさせて欲しいな」


遠慮がちなシャウラにそう告げて微笑んだ。

正直もっとプレゼントはさせて欲しいんだけどね。

もちろん親の金…ではなく、領地経営の手伝いで貯めたお金はいくらかある。ただのお小遣いではない正当な報酬だ。

ハンカチどころかドレスの1着か2着はプレゼントできるだろう。

婚約式とかは家同士の行事だしそこまでのお金がないから出してもらうのは口惜しいけどね。

シャウラはあまり贅沢を言わない。というか、公爵家でありながらあまり許されなかったんだろう。

だからハンカチ一枚で遠慮することないのにな。


「まあ、お兄さん、お姉さんの彼氏ね!美男美女だわ!」


僕らを見ると女の子はかわいらしい笑顔を浮かべながらそう言った。


「えっ、そうかなあ」


「カップルならハンカチはお揃いのほうがいいのよ」


女の子が上手にハンカチの売り込みをしようとする姿になんだかほっこりしてしまう。

商売上手な口の上手い小さな店員さんだ。


「そしたらこの猫のを貰おうかな」


黄色い瞳をした黒い猫の刺繍で水色のハンカチを僕は指差した。

黄色の目は少し濃い色でシャウラの瞳に少しだけ似ている。ついでに言うと黒猫ってのもシャウラっぽい。


「お兄さんありがとう!!」


少女は嬉しそうにするといそいそとハンカチを包む。

もう、手伝いなさいよっと少女に小突かれて慌てる少年に僕は苦笑いしながらお代を渡した。

この二人は仲が良いようだ。

少女からハンカチを受け取るとシャウラが少女の頭を優しく撫でた。


「素敵なハンカチをありがとう」


シャウラにニコッと至近距離で微笑みかけられて少女までさっきの少年のように顔を赤らめた。

女の子まで照れさせてしまうとはさすがだ。

シャウラは嬉しそうに他の子達も撫でている。


「あの、お姉さんたち、また買いにきてね?」


そろそろ行こうかと思ってると少女が上目遣いにそう言った。

シャウラが僕の方を見たので僕がもちろんと答えると子供たちは嬉しそうにしていた。


「きっと本物のお姫様と王子様なのよ!」


シャウラに行きましょうと言われて少し離れたとき、背に向けた子供たちの露店からそんな声が聞こえてシャウラと顔を見合わせて笑ってしまった。

当たらずとも遠からずってやつだ。


「リギル様は猫さんが好きなのですか?」


子供相手だからうさぎさんと言ったのかと思ってたのだが、この猫さんという口ぶりからシャウラの動物の呼び方はどうやらこれがデフォルトらしい。

また可愛いところを見つけてしまった…という想いを胸に仕舞う。


「猫がシャウラに似てたから」


そう言うとシャウラはまあ…!と小さく声を上げると少し恥ずかしいような嬉しいような顔をしていた。

そして、続けてあの…と言いながら僕の腕を掴んだ。


「ん?」


立ち止まると、シャウラの口元が耳に近づいてくる。


「わ、私も、リギル様に似てるなぁと思ってうさぎさんにしたんですの…えへへ、一緒ですわね」


そう囁くとシャウラはその後、恥ずかしいですわと付け足して離れる。頬に手を当てて照れるシャウラを見てこの可愛らしい生き物どうしてくれようと思った。

うさぎに似てるってのはちょっと複雑だけど、色味ってことかな?

それともシャウラの瞳に僕はそんなに可愛らしく映ってるのだろうか。


「シャウラはうさぎみたいに僕が可愛いと思ってるの?」


「?…リギル様は紳士的でカッコいいですわ」


気になってちょっと意地悪を言ったつもりが反撃をもろに食らった。

あまりのシャウラのこのストレートな、つい口に出た本音っぽい言葉に完全にやられた僕は顔が熱くなって下を向きながら思わずその場にしゃがんだ。


……、これは致命傷だ。


「り、リギル様っ…?」


そんな僕を見てシャウラが慌てている。

火照りが収まったので見上げると僕の様子を伺うようにシャウラは屈んでいた。

そんなシャウラに僕は下から手を伸ばした。シャウラの肌は白くて綺麗で、思わず頬に手が伸びたのだ。

心配そうに僕を見つめる瞳は宝石なんかよりずっときらきらしていて、瞳をふちどる黒くて長いまつ毛も綺麗だ。


「………、あの、リギル様…」


シャウラの白い肌が徐々に紅く染まった。

困ったように眉尻を下げて目をキョロキョロさせている。

シャウラの戸惑うような声に僕はハッとした。


「ご、ごめん」


手を慌てて離すと、さっと立ち上がる。

往来で何をしているんだ僕は。理性仕事しろ。


「えっと、うさぎさんが一番…色がリギル様に似てると思ったんですのよ…?」


「わ、分かった、ありがとう」


シャウラが無理矢理話を戻してくれたがもうなんか恥ずかしかった。

ここでシャウラかわいい〜!と叫びながら転げ回らないだけ僕は頑張ってると思う。


「…そ、その、子供たち可愛かったね」


とりあえず話を逸らそうと思って無難な話題を振ったつもりだった。

だけどシャウラがじっと僕の顔を見つめた。


「リギル様は子供がお好きなんですの?」


「う、うん?好きだよ…?あれくらいいると賑やかでいいよね」


「では、頑張らないといけませんわね…」


ぽつりと呟いたシャウラに何を?と聞こうとしたがなんかまずい気がしてやめた。

自分が振った話題が無難じゃなかったことも、賑やかでいいと言ってしまったことやシャウラの頑張るの意味もなんとなく後で気づいて悶絶したのは言うまでもない。

というか、シャウラのたまにでる天然怖い。



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