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55・ユピテルはユピテルだから

「竜と亡国のお姫様」を全て読み終わって、ふう、と息を吐いて本を閉じた。

下巻もヴェラから貸してもらったのでしっかり読んだ。

上巻は竜と姫の冒険譚が中心で、下巻は竜と姫がいちゃいちゃらぶらぶしながら暮らす。

なんていうか、上巻と下巻の差がある意味激しかった。

とはいえ、竜と人間、様々な試練はあるし、最終的には寿命の差だってある。

でも姫は竜の子供を沢山産んで竜が一人きりにならないように努めた。竜の為に竜という存在を増やしてあげた。


最後は愛のパワーで姫も竜に近しい存在になって子供たちと末長く幸せに世界の裏側で暮らしたみたいな感じだった。

ハッピーエンドでいい話ではあった。


「確かにこれは女の子が好きそうだな…」


話に出てきた竜は醜い化け物だと最初は嫌われているけど、姫は竜を美しいと思い、人間の姿も人間離れしているがすごく美しかったと書かれていた。

世界で一頭しかいない竜の孤独を埋め、家族を失った姫が再び家族を得る物語。

愛のパワーのとこがよく分かんなかったけど、まあハッピーエンドにするためのご都合主義だ。


「それにしてもこの話の竜の出自…」


世界の隙間から溢れ落ちた存在、この世界にとっての異物。


『神の理から外れた存在、ではないでしょうか』


ユピテルの言葉が妙に被った。

神に認めれなかったこの物語の竜は世界の異物で、つまり、神のルール、理から外れた存在。

所詮は物語なんだけど、ただの物語ではないのでは?と妙に勘ぐってしまう。

どうやらこの本は随分昔からある物語でちょこちょこ改稿されたりしながらいつの時代においても流行ってきたものみたいだった。

形を変えて色んな国に伝わってきた不動の人気作らしい。


「うん。でも面白かった」


僕的には物語としては100点満点だ。

勧めてくれたヴェラにはお礼を言って本を買ってあげないと!!

それとたまに劇がやることも調べたのでなんかあったら観に連れてってあげよう!


それにしても、あとと少しだから寝る前に…と読んでいたのでいつの間にか寝る時間を過ぎてしまっていた。

明日も学校だから早く寝てしまわないと。

欠伸をして本をナイトテーブルに置く。

ランプを消すと布団を被って眠りについた。





「人間を愛しているのです。人間の物語を」


「父が愛した人間を、母のような人間を」


「幸せになる為に足掻ける、誰かを愛して、愛のために自らを犠牲にせんともする人間を」


「ですから人間に紛れ人間を見るのです。いつしか人間が滅びることだけはないように」





「あれ…?」


ぱちりと目が覚めた。

誰かに静かに語りかけられているような、そんな夢をみた。

見たのだけど、まるっきり内容は覚えてなかった。

知っている相手だったような、見たことのないものだったような、よく分からない夢だった。


「おや、おはようございます。今日は起こす前に起きられたのですね」


「ピャッ」


ユピテルが覗き込んできてめちゃくちゃビックリして変な声が出た。

ユピテルはそれを見てクスクスと笑う。

だってドアを開ける音も足音もしなかったし、こいつはなんなん忍者かよ。


「リギル様、朝ですよ」


「分かってらい」


ムッとしながらベッドから起き上がった。

いつものように顔を洗って、着替えて朝食に行く準備をする。


「変な夢見た」


「おや、どんな夢ですか?」


ユピテルがボサボサの僕の髪を櫛で梳かしながら尋ねる。でも内容は憶えてない。 


「変な夢だったけど忘れた」


「それはそれは…悪夢ではないと良いですね」


悪夢ではなかった。

むしろ、暖かな何か…、愛情のようなものを感じるような、そんな夢だった気がする。

恋愛小説なんか読んだからそのせいかもしれない。

僕の髪を整え終えて、ユピテルが上着を用意している。


「悪夢じゃなかったよ」


「そうですか、良かったです」


ユピテルはそう言いながら僕に上着を着せた。

淡々と仕事をこなしながら返事をする。

本当に良かったなんて思っているのかコイツは。

ユピテルの方を見るとユピテルはいつも通りにこにこしていて、相変わらず表情は読めなかった。


「ユピテルってある意味無表情だよね」


「おや、私はいつも素敵な笑顔でしょう?」


自分で素敵な笑顔とか普通言うか?

図々しさがギネス級だ。ユピテルの顔を僕はじっと見つめた。


「ずっと笑顔で、ずっとその顔だから無表情だって言ってんの」


「たまには本当に笑いますよ。リギル様が突然おかしな行動をなされたときとかつい」


「いや、逆に笑わないでほしいそこは」


ユピテルがまたクスクス笑った。確かにこうやって僕を揶揄ったり僕の失敗を見てるときは無表情とは言えない。失礼なやつだ。


「他の貴族だったらユピテルみたいなのクビだからな」


「リギル様だから自由にやらせていただいてます」


舐められてるってこと?????

ちょっとむかっときたけど、ユピテルを見るとなんだか嬉しそうで、何も言えなくなってしまった。


「まあ、死ぬまではコキ使ってやるよ」


ユピテルは不老不死みたいなもんだから僕が死ぬまではだけど。

とりあえずそれは知らないテイなのでそこは黙っておく。


「それは光栄ですね」


思ってない言葉をよく言えるな、と思ったけれど、ユピテルはまだ何となく嬉しそうだった。


「リギル様の側にずっと居れるならしばらく飽きることはなさそうです」


「…、ふん、どうかな」


ユピテルがあまり嬉しそうに言うのでつい悪態をついて視線を逸らしてしまった。

とことん変な邪竜だ。

ユピテルの目的は分からないけれどユピテルはユピテルなりにこの生活を楽しんでいるんだろうか?

まあどんな理由であれ、ヴェラに危害を加える訳じゃないならそれはそれで良い。


あれ、でもそういえばユピテルルートの最後ってどうなるんだっけ?

恋人関係になれたと思ったら酷いことを言われて突然捨てられて、森の外に放り出されてしまったり、突然会えなくなってしまったり……、ヒロインは最後ユピテルに捨てられた、という認識はあったけど、ヒロインが死んだ訳ではなかった。

飽き性で気まぐれでヒロインを捨てるなんて最低だ!とは思っていたけど。


今更だけど、ユピテルって思ったより悪い奴でも、無いのかもしれない。

ユピテルが僕にしてくれたことはみんな、僕の人生を良い方に変えるようなことだった。

その後のヒロインのことが捨てられて悲しむくらいしか書かれてないせいもあって、考えもしなかったけど、ゲーム内でも何か理由があったのかもしれない。

邪竜なんて大層なネーミングがついてるせいで色々勘違いしていたのかも。

僕はユピテルを見て、今見たユピテルを信じるべきなんだ。

ユピテルはユピテルなんだと、そう改めて、思うことにした。







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