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51・魔石

「そういえば魔道具にも魔石ってハメられてるよね?この前の魔物の体に入っていたのと何が違うの?」


剣術の訓練の休憩中、ふと水筒を見て思い出した。

水筒に嵌められている石も一般には魔石と呼ばれていたはずだ。


「そうですね。あれは魔力の結晶ですが、これは宝石に術式を組み込んだものですから」


ユピテルが水筒の石をとんとんと指で叩く。


「人間は魔石と呼びますが、魔力の結晶のほうに馴染みがないからコッチを魔石と呼ぶのです。こちらの魔石…まあ分かりやすく、こちらは魔宝石、あちらは魔結晶と呼ぶことにしましょう」


こちらは水筒に嵌っている方、あちらは魔物の身体にあった方だろう。


「魔宝石には術式が組み込まれています。製作者の魔力と命令式です。命令式はこの場合、中身を冷やすというもので、それ以外は出来ません。宝石の中の魔力が尽きれば寿命ですから宝石を取り替えます。とはいえ大量に使いはしないので結構持ちます」


「あー、つまり、魔力を宝石に閉じ込めて飲み物を冷やすだけに使えるようにしてる…?」


「まあそんなところです。ですから温水筒と冷水筒がありますし、冷蔵庫でモノを温めたりできません。宝石には魔力を入れると取り出さない限り勝手に外に漏らさない性質があるのでそれを利用します。水筒なら宝石に氷の魔力とどの程度冷やすかの命令式を組み込み、水筒の中身にのみ魔力を流れるようにする……、命令式はまあ古代の詠唱魔法を利用したものですね」


「詠唱魔法…」


「今は念じれば魔法を使えますが、昔の方は安定させるために詠唱していたそうですよ。言葉や文字には力がありますから…、詠唱魔法が廃れたのは…まあ長ったらしいですからね…、念じても安定させる方法が見つかってからは無詠唱です」


詠唱魔法とかだと、厨二病的な感じになるんだろうか。

なんか恥ずかしいので僕的には無詠唱で良かったなとは思うけれど。


「まあ詠唱魔法を応用して、文字を言葉の代わりに使います。宝石に小さく文字を刻んで魔道具は文字の通りに魔法を使わせています」


「なんか考えられて作られてるんだね…」


「魔宝石を作る職人を彫刻師と呼びますね。彫刻師は国家資格ですよ。魔力と技術が要りますから。まあ彫刻と魔力を別の人間がやる場合もありますけど」


僕は水筒に嵌められている宝石をまじまじと見つめた。

言われてみればすごい細かく文字が刻んであって、細かすぎて読めないからこれはすごい大変そうだ。

魔道具はどれも高価だ。魔法が使えない一般国民こそ使えるように安ければいいのにと思っていたけれど、ただでさえ貴族にしか使えない魔力が込めてあって、こんな技術も必要なら高くて当たり前だ。


「彫る方が資格なの?」


「まあ、そうですね。ですから器用ささえあれば庶民でも取れる資格ではありますが、魔宝石にして売るには魔法の使える相方が必要ですので…、結局は両方出来る方ばかりですよ。下級貴族が多いです。宝石を仕入れるのにもお金は必要ですし」


「なるほど…」


割と普通に使っていた魔道具だけど結構奥が深いのか。

宝石が必ず嵌っている理由も知らなかったし。


「一度使った宝石は新たに魔力を込めて再利用もできますよ。ですから彫刻だけできる人間っていうのは需要は少ないですねえ…、あと魔力をこめるのにもコツがいるのです。リギル様くらい魔力が強ければ宝石は割れてしまいますね」


「あ、魔力が強けりゃいいのが作れるわけでもないんだ……」


そういうのもあって下級貴族ばかりが彫刻師なのか。商売って難しいな…。


「そして、魔結晶のほうはまあ単純に魔力の塊です。なので、持ち主が放出した魔力と同じように使えますから魔物を操れるのです。とはいえ人間に飲ませれば人間を…というわけでもないです」


「なんで魔物なら操れるの?」


「まあ魔物って感情みたいなのがないですから、抵抗力がないんですよ。精神的なものです」


「へえ…」


「人間が操られた前例がないだけですけど」


何それめっちゃ怖っ…。


「まあでもそれこそ高位魔族でも難しいですよ?ああ、直接操るではなく精神支配のようなものはスキルなら前例は無くはないですよ。まあそういうのは続きませんけど、ギフトでもない限り」


「ギフト……」


精神支配のギフトってやっぱり魅了のことだよなあ…。

漠然とすごい力って思ってはいたけどギフトってそんな…そこまで異例のものなのか…。


「知能がない魔物ですが、知能がつけば多少抵抗力が生まれます。ですから知能がある魔物は操りにくいです。魔石…魔結晶の質が高くないと」


「あれを作ったのは魔族でも下っ端ってこと?」


「んー、いえ、魔族でも下のほうなら無理でしょう。高位だけど魔力の扱いが慣れていない子供か、中位魔族でしょうね」


レグルスは魔族でも僕の一つ下だ。

魔族というのは長生きで、種族にもよるけど悪魔族なんかは何千年も生きるし、レグルスの半分、ゴルゴン族も確か500年は生きるはず、そう考えるとレグルスは15歳、魔力も安定しない子供だ。

いやむしろ赤ちゃんレベルだろうな。

やっぱりレグルスなんだろうな…。


「ギフトってさあ、そんなに強力なの?」


「さあ、私も文献でしか確認したことはありませんが…少なくとも人間には強力でしょうね」


人間には、という言葉が少しひっかかった。

自分なら大丈夫って事なんだろうか。


「人間にはって?」


「ギフトは神の権能とされていますが、神とは人間や動植物の神です。魔族や魔物、魔草を生み出すのは魔族の神です」


「そういえばその辺あんま聞いた事なかったな…」


神話とかもちゃんと勉強したほうが良かったんだろうか。その辺はふわっとしか知らなかった。

人間の、国の歴史は勇者が古の魔族を斃した事から始まるし。


「魔族を生み出す神も決して悪い神ではありません。そこはまあ、魔族を生み出す事情があるのです。光があれば影があるように。人間と魔族は別の神から産まれ落ちた存在、故に魔力の質が違います。精霊とは人間側の神の使いです。ですから人間にある程度の助力をします」


「神の使い……」


「まあ詳しくは知りませんが」


ユピテルはズバッと切り捨てるけどこれは多分全部知っているぞ。

話しすぎた、とでも思っているんだろうか。目線を前に向けている。


「…、亜人種は人間側、エルフは…精霊に近い亜人種ですね」


「幻想種は?」


僕が問いかけるとユピテルがこっちを見た。

貼り付けたようないつもの笑顔からはユピテルの本当の表情なんて全く読み取れない。


「幻想種、ですか」


「うん、竜とかユニコーンとか、見たことないけど」


まあ目の前にいるけど。


「幻想種というのは幻想…結局人間のお伽噺の存在でしょう?まあ、そうですね、竜種は目撃がないといえば嘘になります。存在するかもしれませんね」


邪竜本人が竜が存在するか否かについて語っているのはなんだか面白い。

というわけで僕はユピテルを真剣に見つめる。

なんでこの世界で竜は魔物でもなく、特別な存在なんだろう。


「神の理から外れた存在、ではないでしょうか」


「神の理?」


「…、…リギル様そろそろ訓練再開のお時間ですよ」


あっ、話逸らされた。


「神話にご興味があるなら本でも貸しますよ。ですから今日は剣の訓練に集中してください、次は魔物に喰われてしまいますよ」


「う」


痛いところを突かれて短く呻いた。

この前魔物にやられかけて目の前の邪竜に助けて貰ったんだから文句は言えない。


「分かったよ」


だから大人しく今日は訓練に励もう。

神話についてはやっぱりちゃんと勉強した方が良さそうだ。

というか話が逸れてしまったけど、ギフトが人間の神の権能で魔族の神が違う神ならまさか効かない、なんてことは…だから人間には…?じゃあ、レグルスは?

それだけでも聞いてみたかったけど、ユピテルにこれ以上しつこく聞くのも無理そうなので今日は諦めることにした。

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