51・ミラってやっぱり…?
「私も行って良いのでしょうか」
旅行に行くこと、鑑定のことを話すとミラはそう呟いた。
今日は温室でミラと会話しつつ、絵の練習中だ。
「私はまだそんなにみなさんとは親しくはないですし…シャウラたんとヴェラたんの邪魔になるのでは…」
「そんなことないと思うよ?シャウラに誘われたらオッケーしてあげてよ」
とりあえずたんはスルーする。
ミラは結構自信なさげだけど、現状シャウラと1番仲良い令嬢はミラだと思う。最近になって聖女のヤバさに気付いたのかシャウラのほうに取り入ろうとする令嬢は増えてるけど。
「…まあ、鑑定は私も気になりますし、分かりました。ところでリギルさん絵が下手ですね」
「うるさいな」
一言多いんだよな…。
「美術はいつも2だったよ」
「なんかその、そんな感じしますね…。美術の授業なくて良かったですね…」
僕の絵を見て憐れんだような表情をしてくる。
そんなに下手だろうか…。
「僕の絵のことはいいでしょ…。てか、聖女の最近の行動について知りたいんだけど…、レグルスと接触している様子はない?」
「レグルス様とですか…、たまに話しているような気はしますけど……、他の方と比べたらどうなんでしょうね…?」
ミラがうーんと目を瞑って考える。
あまり周りからわかるような接触はしてないんだろうか。
「もうちょっと注目しておきますね」
「うん、お願い。危ないかもしれないから話しかけたりはしなくていいよ」
「まあちょっとくらいは大丈夫だとは思いますけど…、というか逆ハーエンドするとか言っていてもレグルス様はある意味バッドルートしかないですし、さすがに…」
「魅了の力を過信してるなら分からないよ」
まだ、確定ではないけどほぼ確実に魅了のスキル…いや、ギフトを持っているだろう。
直接確認できないのが少し不安要素だけれど。
とりあえずあの子が人の話を聞かない上に思い込みが激しくてお馬鹿なことは分かってる。
「まあ、そうかもですね……」
ミラがため息を吐く。そうなんだよね。
「なんかリギル様ばっかり矢面に立たせているというか、私あんまり役に立ってないですね」
「や、正直、攻略本の情報はめっちゃ助かるし…」
聖女に転生者だってバレたら危ないかもしれない。
ミラは学園敷地内の寮暮らしで護衛とかも居ないし、ならまだ僕が危険な目に遭う方がマシだろう。
ミラの持っている情報は結構有益だ。ミラ自身も結構覚えているし。
「なら良かったです」
ミラがほっとした様子でにこっと笑う。
うん、やっぱ危険な役目は僕がやるべきだ。
だからといって死ぬ気はないし。こないだはちょっと危なかったけど。
「そういえばなぜ急にレグルス様のことを?」
「こないだ僕らが魔獣に襲われて怪我したのは知ってるよね?」
「あ。はい。リギル様だけお休みしていたので、シャウラ様が酷く心配していて恨めしかったので覚えてます」
恨めしかったんだ…。
「まあ私怨はともかく…、その魔獣がどうも使役獣だったっぽくて…、魔物を操るには魔石っていうのを飲ませるらしんだけど、魔物から出てきた魔石の持ち主がレグルスじゃないかと疑ってて」
「ふむ、いわゆる使い魔ですね…?何故レグルス様だと?」
「事件がなかったときにあるのはやっぱり転生者が関わってる気がして。魔族が作ったっぽいのは分かってたし、後からだけど確定もした。そうなるとやっぱり影響を受けてるのは攻略対象で…、攻略対象で魔族はレグルスだけだから」
「既に聖女様に陥落されてるなら可能性はあるでしょうね…」
「聖女が何かの弾みに僕が邪魔って話をしたか、たまたまレグルスが人間を襲う予行練習にされたのが僕のクラスだったか、だと…思うんだけど…」
僕がそう言うとミラは黙って何かを考えている様子だった。
正直僕よりはゲームをやり込んでいるし、攻略本も読んでいるからキャラのことは知っているハズだ。
「わざわざリギル様のクラスを狙う理由は確かにあったはずですよ。たまたまとは言えないでしょうね。理由は分かりませんけど。前者の可能性もありますが、後者なら予行練習とかではなく明確な意図があったのではないでしょうか…、個人的な意見ですけど」
「明確な意図…」
僕のクラスはSクラスだ。Sクラスの生徒に通用するか確かめたかった…?とか?あとはやっぱり僕のせいかもしれないくらいしか考えられない。
「とりあえず取り急ぎ調べてみますよ」
「調べるって?」
「他の一年生に聞いてみれば何か分かるかもしれませんから。上手くやりますよ」
ミラがそう言って立ち上がった。
「あんまり無理はしないでね」
「リギル様は心配性ですね、大丈夫です」
ミラがクスッと笑う。
嗅ぎ回ってるって思われたらやっぱり危ないかもしれないと思うんだけどな。
「何かあったら言ってね?」
「はいはい、分かりました」
「アトリアたちにも頼れたら1番いいんだけど…」
「巻き込むべきかは悩みどころですけどねえ」
「まあ……」
巻き込みたくはないけど、事実を話してはおきたい気持ちはある。ミラと二人で何とかするのにも限界はあるし、何よりアトリアやリオ、そしてシャウラにこうやって隠し事みたいなことをしているのがどうも気持ち悪いのだ。
でもやっぱり、巻き込まずに済むなら1番なんだけど…。
聖女がアトリアを取り込もうと話しかけようとしてくることは何度かあった。
聖女からしたら攻略対象だからという理由だけど、アトリアからしたら王族に公爵家、そして僕にも取り入ろうとしたことから高位の貴族や王族を魅了して何か企んでると考えているらしくてだいぶ嫌悪しているようだ。
アトリアはだから多分大丈夫だろう。目を合わせない限り。
でもまあ確かに普通に考えたら国家転覆を狙っていると思っても仕方ないよね…。
とりあえず鑑定することについてはリオにも魅了スキルのことや聖女のスキルを無効化する能力が僕にある可能性があるくらいの話もしておこう。
アトリアは知っているから今回の旅行にも了承してくれたのだろうし、そこから何か協力体制が取れるかもしれない。
「まあ一応聖女が怪しいみたいな感じが僕らの間にはあるから聖女を止めることに関しては協力を頼めるかも」
「アトリア様、強かに見えますけど結構繊細なんですからね?できれば関わらせたくないです」
ミラがちょっとだけむっとする。
なんかこないだから思っていたけど…
「君はアトリアが好きなの?」
「はっ…、あ、あ、アトリア様に何かあったらシャウラたんも自動的に辛い目に遭うからですけど!!??」
ミラが頬をピンク色に染めて狼狽えている。
一瞬吃っていたのでこれはやっぱりそうなのでは?
「リギル様はシャウラたんのことだけ考えていてください!!!破滅ルート行かせたらどんな手を使っても変態オヤジに売り払いますからねっ!!!」
「死ぬより嫌だ!???」
ふーんだ!とミラはそのセリフを最後に温室を出て行ってしまった。
いや本当に死ぬより嫌だわ。
この顔では…やっぱり好かれそうでは…うん、ある…。
でもまあそれは関係なくシャウラを破滅ルートに行かせる気はない。アトリアもリオも、もちろん大前提だけどヴェラも。
ミラにだって、本当なら聖女…アンカにだってまともに幸せになってほしい。
彼女がしていることは正しくないし迷惑だけど、ザマァなんて望んでない。
死んだのが幼いのか、記憶を取り戻したのが遅かったのかは分からないけど、まだ全然子供っぽいし、今なら引き返すことも出来る…たぶん。
他人に本人の幸せなんて推し量れない。なんで彼女が逆ハーしたいのかなんて分からない。彼女なりの理由があるのかも知れないけど、これが間違ってることくらいはしっかり伝えて理解させないと。
それが僕の役目だと思うから。