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43・自分勝手もほどほどに

「ちょっといいですか?ユレイナス公子」


「…構いませんよ」


王太子に話しかけられて冷静を装うも、背中には冷や汗をかいていた。

向こうから接触してくるなんてやな感じしかない。


従者を通してではなく直接来たのが本気度が伺える。

帰るとこだったけど、呼び止められては仕方ない。


王太子を見ただけで嫌そうにする(友達だからわかるだけ)アトリアはともかく、リオは心配そうに僕を見つめるので馬車に伝言を頼んだ。

何も知らずに待ち続けるのも可哀想だ。


間違いなくシャウラとの婚約のことだろう。

王族は貴族同士の婚約に介入できないとはいえ思うところはあるに違いない。


「一緒に来て頂いても?」


王太子が笑みを浮かべる。

相変わらず人を食ったような薄ら寒い作り笑いだ。


「もちろん構いません」


別に選択肢がない訳ではない。

王命というのは貴族にとって逆らえないものではあるが簡単に下せるものではなく、まだ王太子である彼に他人に命令する権利などはない。

断ることも出来るけど今後を考える上で断るのは得策ではない。


ヒロインと王太子が秘密の部屋でお茶をするシーンがあった。

王族は気苦労も多く、万が一の自衛のため特別に部屋が用意されているらしい。

羨ましい、僕も欲しい。

恐らくだけど向かう先はそこだろう、だんだん特別教室ばかりの人気の少ない方に向かっている。


突き当たりの壁を王太子が触った。

緑色の光が溢れたかと思うと何も無かった場所に扉が現れる。

王族の魔力に反応する扉と言ったところか、よく出来てる。


「どうぞ」


「…、お邪魔致します」


招かれるまま入ると、執務室のようで茶室のような空間だった。

王族の過ごす場所にしては手狭にしろ調度品はしっかり高級で質素な部屋ではなく、スチルで見たようなソファなども見える。


「どうぞ座ってください」


促されるが王太子が座るまで少し待った。

王太子が「緊張しなくていいですよ」とくすりと笑うと席についたので続けて向かいに座った。


「お話があるのではないですか?」


早く本題に入って欲しい。

こんなところに長居するくらいなら一分一秒でも早く家に帰ってヴェラを愛でたいのがお兄ちゃん心理だ。


「…いや、エリス公爵令嬢との婚約のお祝いをね」


心にもない言葉だというのは目を見てすぐに分かった。


「それにしても、エリス公女とユレイナス公子が恋仲だったなんて気づかなかったよ」


言葉に何か含みがある。

王太子は王太子でシャウラの好意には気付いていただろう。

シャウラは自分のことを好きだったはずだと言いたげだ。


「…、シャウラには僕から告白をしました。彼女は優しく聡明で真面目で…、心惹かれたのです」


にこりと王太子に笑いかける。

どういうつもりなのか、何を考えているのかなんて分からない。


「へえ、そうなんだね。ユレイナス公子から…意外だったな」


どういう意味だとちょっとムカッとする。

まあ側室どうこうという噂の真偽がどうであれ王太子の耳には入っているはずだ。

ならエリス公爵家の方から打診があったのだろうと考えていたのかもしれない。


「アンカもお祝いしたいと言っていたよ」


「は」


「そういうわけです♪」


後ろから声が聞こえてびくりと肩を震わせた。

ゆっくり振り向くと背後の扉の前に聖女が立っていた。


「リギル様こんにちは」 


彼女はにこりと笑うとそのまま当たり前のように王太子の隣に座った。


「ねえ、二人でお話ししたいわ」


「えっ」


「じゃあ私は席を外しましょう」


いやいやいやおいおいおい。


止める間もなく「しばらくしたら戻ります」と言って王太子は出て行ってしまった。

いや好きな子と男二人きりにするとか正気か?

そんなのも許せるくらいベタ惚れしてしまっているんだろうか。

王太子が居なくなった途端、聖女が背中を背もたれに預けて足を組んだ。態度悪い。


「どういうこと?」


「いや、こっちが聞きたいんだけど…」


「質問してるのはアタシよ」


彼女はいかにも不愉快そうに眉を顰めた。


「部屋を貸して貰えるなんて随分信頼されてるんだね」


王太子が出て行った方を見つめる。

入ってこれたって事は彼女は入れるようにしてあるんだろう。

ただ利用するだけの相手にここまでするだろうか?

魅了スキル(ギフト)を使っているという憶測が現実味を帯びてきた。


「話を逸らさないで。なんで悪役令嬢と婚約したのよ」


「…、悪役令嬢じゃなくてシャウラだよ」


「知ってるわよ」


まあ僕もあまり関わりたくない意を込めて王太子とか聖女とかって心では呼んでるけど。

彼女についてはシャウラがどうでもいいからだろう。

僕にここまで執着する理由はわからないが、転生者同士故の警戒か親近感か…。


「シャウラと僕が婚約して、何か君に不都合があるのかい?」


「シナリオがおかしくなるじゃない」


そう口を尖らせる彼女に乾いた笑いが溢れた。

すでに自分のせいでシナリオはめちゃくちゃなのによく言ったものだ。


「貴方何を考えてるか分からなくて気持ち悪いわ」


「僕は周りの人の幸せを願ってるだけ。君こそ脳みそ詰まってないんじゃないの」


「な、何ですって!??」


がたんっと机を揺らす勢いで彼女が立ち上がる。

握られた拳はわなわなと震えていたが冷めた目で見つめると彼女も少し冷静になって再び座った。


「悪役令嬢にはにやにやしてるくせに私にはその態度なんてあんまりじゃない」


にやにやって。


「……、君魅了スキル使ってるだろう」


「何のこと?」


転生者かと問いかけたときには間を開けてなんだ、あんたも?みたいな返事をしてきたくせに、この質問にはやけに食い気味に返事をした。


怪しさ満載というか何というか。


「……、自覚して使っているならいいことにはならないよ。それと、シャウラとの婚約でシナリオが今後どうなるとかは関係ない。もうそもそもシナリオ通りでも無ければ、ゲームの中ですらない」


「貴方っていつもなんでそう偉そうなのかしら」


善意の忠告を偉そうと捉えられてしまってはたまったものじゃない。


「話がそれだけなら帰るよ」


彼女なりに悪役令嬢と手を組むのは何か悪いことでも考えてるなんて思って確認でもしたかったのか分からないけどこれ以上無駄な時間を過ごす気はない。

この様子ではいくら説得しても無駄だろう。

説得するなら魅了スキルを解いてからだ。


すっと立ち上がると彼女はムスッとするばかりで呼び止められる様子も無かったので気にせずに部屋を出た。

魅了スキルを使っていると咎められて何も言えなくなったに違いない。

部屋から出るとすうっと扉が消えたのでよく出来ているなと思った。


振り返らずに回廊を歩く、誰かとすれ違って一瞬だけ藍色の長髪が目についた。

どこかで見たことあるような、と思ったけどそのまま振り返らなかった。


結局、祝いの言葉なんて聞かなかったな。


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