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41・シャウラの想い(シャウラside)

婚約者候補に初めて選ばれたとき、王太子殿下が公爵家にお越しになって、一緒に庭園を散歩してお話をした。


「闇の精霊の加護なんて恐ろしいわ」


「下手をすればお前には政略結婚の駒としての価値すらない、闇の精霊の加護持ちなんて厄介な娘…」


両親に小さな頃からそう言われて育った私はすっかり自信を喪失していた。

王太子殿下の婚約者候補に選ばれたときは他にお前を娶る人間などいるはずもないのだから失敗したらお前の居場所はないのだと言われた。


そうやって両親から嫌われている私を使用人ですら毛嫌いしていた。

露骨ないじめなどはないにしろ、お嬢様としてはだいぶ蔑ろにされてきたように思う。

唯一の味方はお兄様だけだった。


「私は、何も役に立たないのですわ」


会話の流れでそんな事をぽつりと言ってしまった。

殿下が優しく私の話を聞いてくださったからだ。


「役に立たない力なんてない。きっと君の力はみんなの役に立つよ」


そう言いながら優しく私の手を握ってくれた殿下の手は暖かくて、私は殿下を好きになった。


そんな小さな優しい王子様に恋をして、ずっとずっと憧れて、王太子妃になるのを夢みて育った。


あの方なら私をこの屋敷から救い出してくれるはず。


でも殿下は誰にでも優しかった。

私だけが特別ではなかった。

色々な令嬢に優しく声をかけて、色々な令嬢とお出かけを楽しんで……私はその中の一人に過ぎなかった。


殿下は誰にでも特別のように接する事で周りからの信頼を得て味方を増やしていくと同時におしゃべりな令嬢たちからたくさんの情報を得ていたのだろう。

本当は誰にでも優しくない、心の底は冷たい人だった。


それに気づくのに私は5年もかかってしまった。


そんな私が婚約をすることになった。


ずっと憧れていた王子様ではないけれど、王子様みたいな人と。

お兄様の友人でユレイナス公爵家の嫡男…。


リギル様は初めて会った時から優しい方だった。

いえ、正しくは初めて会ったときは綺麗な銀髪くらいしかあまり印象にはなかったのだけど。


初めて意識したのは誕生日会の時…。

リギル様は私が闇の精霊の加護持ちというのを全く気にせずに会話をしてくれた。

普通の女の子だとそう言ってくれた。


リギル様が友達だと思って良いとそう言ってくれて、リギル様とリオ様とお友達になって、ヴェラ様とも仲良くなれた。


「最近、いいことばかりで逆に怖いですわ…」


なかなか眠れなくてぼーっと天井を見つめていた私は布団をぎゅっと抱きしめる。


あれからお兄様に会いに来るリギル様とたまにお話はしたけれど学園を入学するまではそんなに接点はなかった。

でも会うたびに笑いかけて気を遣ってくれて。


学園に入って初めてお兄様たちと食堂でランチをした時に聖女がリギル様に親しげに話しかけるのを見てもやっとした。

殿下にべたべたする彼女を見るのも不快だったけれど、何か違う感覚だった。


つい口を出してしまった私をつまらない女と揶揄する殿下からリギル様は庇って下さった。

色々なことがピースになって私の中で徐々にはまっていく気がして、ヴェラ様がリギル様と遊びに来てくださった日にはっきりと恋心を自覚した。

同時に殿下への恋心はすっかり冷え切っているのだと気づいた。


「シャウラちゃんは王太子殿下が好きだと思っていたけど」


リギル様のその言葉にひどく傷ついたのだ。


絶対違うと私が否定するとリギル様は困ったように微笑まれた。


お兄様もヴェラ様も私とリギル様が婚約したら良いみたいな事を仰って酷く焦ったけれど内心どきどきしていた。

リギル様の顔色を伺ったけれどリギル様は特に気にする様子はなくて、意識されていない事に気づいて落胆した。


この婚約もリギル様がお兄様に頼まれて考えてくれていたことだろう。

お互い利益がある事だなんてそんなの私に気を遣わせない為に言ったに決まっている。


リギル様の幸せを考えるなら突っぱねれば良かった。

私なら大丈夫なのだと。


でも、リギル様を他の方に取られたらと思うとジリジリ胸が焦げ付くような思いがして、リギル様が私を好きでなくても側にいれるチャンスがあるのならと思ってしまった。


「我ながらずるいですわね……」


アトリアお兄様と私でリギル様の優しさにつけ込んだようなものだわ。


リギル様はきっと私を好きになると言ってくれた。

今は好きでないという言葉と同義だったけれどどうでも良かった。

真剣に考えてくれてるのも、その場凌ぎの嘘ではないのも、何より好きだという嘘を吐かないで正直に話してくれたのも嬉しかったから。


だから、私はリギル様を信じて待つ事にした。


「でも、待ってるだけじゃダメですわよね…」


自分なりにアピールしていかないと、婚約者という立場でも揺らがない盤石ではない。

リギル様が万が一他に目を向けることがないように恥ずかしくても自分から行動しなければ。


デートに誘ったら来てくださるかしら、でも、女性からデートに誘うなんてはしたないと思われる?

まずはランチを週に一度でもいいから二人きりでしたいと切り出してみようかしら?


リギル様との婚約が決まったとき、初めてお父様が私に良くやったと言って微笑みかけてきた。

王太子の側室にされる屈辱を選ぶくらいなら王族の血筋を持つユレイナス家に娶られる方が何倍も良い、よく考えたものだと。


「そんなつもりはありませんでしたわ。偶然です」


吐き捨てるようにそう言ったのを覚えている。


昔の私ならお父様に褒められたと喜んでいただろうか。

私はもう何もあの人に期待して無い事に気づいた。


リギル様の周りの方はみんな優しくて暖かい。

リギル様の妹のヴェラ様も可愛らしくて優しい方だし、リギル様のお父様も私に気遣ってお母様共々歓迎しているとお手紙を下さった。

両親に期待してないことはだからこそ気づいたことだった。


リギル様のおかげで私は今でさえ幸せで、だから私もリギル様が幸せになる事をし返してあげたい。


だからこそ、私はリギル様に好かれるように一生懸命努力しなきゃならない。

あの方に相応しいように、あの方の側にずっと居られるように。


思えば殿下を好きだった頃は自分で行動しようと思ったことがなかった。

殿下は優しく聡明な方だと思ってはいたけど、底の見えない方でずっと距離を置かれている感じや深く関わる事を嫌うような感じがあって、嫌われないことに力を注いでいた。

裏目に出るのが恐ろしくて好かれるように行動する余裕がなかった。


でも、リギル様は余程のことがない限り私を嫌うような方ではないだろう。

周りをうまく利用する殿下とは違って、周りに慕われている優しい方だから。


だからこそこうして彼に好かれるためにどうするか、幸せにするためにどうするかを考えている時間が幸せで愛おしい。


殿下に嫌われたくなくてびくびくしていた頃とは大違いだ。


「リギル様…、貴方は私の人生を変えてくれたんですのよ」


何も気づかずに王太子妃になっていたらと考えるとゾッとする。側室なら尚更だ。

結婚してからも殿下に嫌われるかもしれないと恐怖しながら過ごしていたんだろうか。


でもリギル様に他に好きな方ができたら…?


頭をぶんぶんと横に振る。

すぐにこうやって悪い方向に考えてしまうのはよくないクセだ。


「…私は、リギル様を信じますわ」


そうやって言葉に出してみるとより信じられるような気がしてきた。

早く寝ないと、明日が待ち遠しい。


明日になればまたリギル様に会える。







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