40・号泣しててもイケメンだから腹立つ
「なんでぇぇぇぇえ!オレの許可なしにぃぃぃい!!!」
リオが座っている僕の腰に抱きついてべそべそ泣いている。
「オレだけ仲間外れでぇぇえ!!!リギルの浮気者ぉぉぉお!!!!」
床に膝をつけて号泣しながら公爵子息の腰に抱きついて縋る伯爵子息。
これどういう絵面?と思ったし教室でやめて欲しい。
授業開始前の教室にいる生徒はざわざわとしながらちらちらこちらの様子を伺う。
「情報が漏れるのを防ぎたかったんだよ」
「やぐぞぐっ!まもるもんっ!!!!」
ずびずびと鼻をすすりながら袖で涙を拭くリオがあまりにも哀れでハンカチで涙を拭ってやった。
アトリアはというと、リオが泣いてるのをみてツボに入ったらしく声を殺して笑っている。
確信した。ドSだ。
「オレのほうがアトリアより付き合い長い親友なのにっ!!!」
「はいはい、しんゆうしんゆう」
「ゔあ"ーッ!!かるいぃい!!!!」
面倒くさい親友である。
シャウラの家に手紙を送ったところ二つ返事で婚約了承の手紙が帰ってきた。
王太子が聖女と仲良くしていることで焦っている様子だったから今なら了承してくれる可能性が高いと父様が言っていたけれどその通りだった。
第二王子は引きこもりだしね…。
学園モノなのに王太子からの分岐でしかルートに入れない謎仕様だった。
主人公のおかげで徐々に学園に通うようになる。
だから現時点では未だ引きこもりだ。
「いやぁ、愛されているね、リギル」
アトリアがくすくす笑う。
「リオは騒ぎすぎなんだよ」
リオの頭を軽く撫でると潤んだ瞳で見上げてきた。
「だって寂しいじゃんか………」
「分かった分かったこれからは話すから」
「絶対だぞ!!絶対だからなっ!!!!?」
と、約束したものの、その日は信用して貰えず一日中しつこく付き纏われた。
そして、放課後も付き纏おうとしてくるリオを上手く撒いて温室に来た。
ミラへの婚約決定の報告のために約束していたのだ。
万が一誰か来た際に薬草のデッサンをしていたら偶然一緒になったという言い訳をする為最近では画材を持ち歩いている。
最初はシャウラの話だったけどこれからどうするかに話はシフトしていって聖女をどうやって止めるかという会話になってきた。
「聖女って実は500年ほどぶりなんです」
ミラの呟きに思わずえっと声が出た。
「200年ぶりって聞いたけど」
「聖女は信仰の対象ですから、居ないと民が不安になります。だからずっと居ないのはありえなくて、最初の聖女から1000年の間に生まれた実際の聖女はアンカ様含め二人で、隙間には偽物の聖女を四人ほど立てています。もちろん教会や国王しか知る由もない事実ですけど」
「えっ、それっていいの?」
「よくはありませんが…、聖女って一大コンテンツなんですよね…。聖女の存在で国が盛り上がって景気が良くなるんですよ。とはいえ偽物でもわざわざピンク色の目…精霊眼の娘を選んでいるので産まれた時代が違っていれば聖女だったかもしれない人です。まあ精霊眼が精霊に愛されし者とか今の人々は知る由もないですけど…ピンク色の瞳は珍しいし、説得力あるからですね」
パレードや聖女グッズを売っていたのを思い出した。
昏明祭だって毎年の慣例ではあるけど聖女がいる時期といない時期で規模が違うらしい。
聖女は国民の心の支えになっているのは確かで。
なのにアレかあ……。
「つまり、聖女を排斥するのはだいぶ骨が折れます。王太子に魅了を使っているのですから不敬罪にも問えますが罪がどのくらいになるか…」
「まず魅了を解かないと話にならないしねえ」
「まあそれもそうです。教会と王城が全く別だという問題もありますね。ほら、婚約も教会の公認で王城は関係ないでしょう?」
他の国では貴族の結婚には王城、つまり国王の承認が必要だ。
でも聖女の名の元になるべく恋愛結婚を推し進めるこの国では承認は王城ではなく教会が行う。
そうすることで政治的思惑を排除する狙いがある。
まあ結局は貴族自ら釣り合いの取れる貴族やお互いに利益になる相手と婚約したりするんだけど。
「あ、それと、改めてシャウラ様との婚約おめでとうございます。末長くお幸せにリア充爆発してください。もちろん爆発するのはリギル様だけです」
婚約の話で思い出したようにミラがいった。
なんか恨み節が入ってる。
「リア充爆発しろとか久々に聞いたな…」
「それと、婚約されたのならお伝えしたいことが。…まあ、今はシャウラ様は闇の精霊の加護持ちなので気にする事はないと思いますけど」
「ん?」
「シャウラ様も本来の“精霊に愛されし者”ですよ」
「んえ、ひ、瞳の色が違うのに?」
あ、でもうっすらピンク色が混ざってたんだよな、とシャウラの瞳の色を思い出してみた。
「闇の精霊っていうのはまあ嫌われるだけの理由がありまして…、性格が悪いんですよね。精霊自体いたずら好きと言うか、人間を下等生物だと思ってる節があるんですけどとりわけ悪いです」
精霊が人間を下等生物だと思っているとかいう嫌なワードが飛び出してきた。
「精霊に愛されし者を勝手に独り占めにしてしまった…というのがシャウラ様の例です。本来なら他の精霊にフルボッコにされて消されますが力の強いやつだとそうもいきません。だからそのままになっています」
「精霊に精霊がフルボッコ…」
精霊ってそんな好戦的なの?想像してみてなんだか精霊のイメージが崩れてきた。
「瞳の色は闇の精霊の影響です。ちなみに光の精霊だけ優遇されてるのは各属性で光だけ魔族や魔物を打ち倒せるからです」
「じゃあ光の属性以外は許されないの?」
「うーん…そうでも無いんですけどね。精霊も気まぐれですからルールで生きては居ません」
過去の魔法で活躍した人を調べてみれば何か分かるかも。
もう少し自分で調べたほうが良さそうだ。
「あ、そうだ。これ」
僕は冊子をミラに渡した。
表紙も書いてない紐で留めてあるそれを見てミラは首を傾げる。
「これは?」
「“明けし星の輪舞曲”の内容を覚えている限り纏めたやつだよ。完全に覚えてないから少し時間がかかったけど君から情報貰ってばかりだし、日本語で書いてあるから」
「て、丁重に読ませていただきます」
手書きだから少し恥ずかしいけど。
「…では私は今日はこれで。シャウラ様に誤解されたく無いので…」
「うん。ありがとう」
今後は温室で会う以外の方法も考えなきゃいけないな。
日本語で文通とか?
シャウラやアトリアに前世とか生まれ変わりとか話せればいいんだけどそうもいかないし。
ふぅとため息を吐く。
せっかく画材を持ってきたのでカモフラージュにちょっとデッサンしていくことにした。
後でリオとアトリアに見られてめちゃくちゃ下手くそだと笑われたのは別の話だ。