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星蝕と呼ばれる500年に一度しかない現象がある。
魔力の揺らぎ、精霊たちの代変わり、理由は色々あれど空を煌めく星たちが一斉に空から消える日。
星蝕が起こると、本来の精霊に愛されし者、精霊眼を持つ星の乙女が50年間産まれやすくなる。
異界から魂が引き寄せられるからだとか、精霊の好む魂が子供に宿りやすくなるからだとかその辺りの解明はされていない。
何はともあれ、俺たちには精霊に愛されし者が産まれやすくなることが何より重要だった。
精霊に愛されし者がたくさん産まれればその中からひとり、聖女が産まれる。
その聖女の存在が重要なのだ。
星蝕が起きたのは40年前、その前に起きたのは540年前、そしてその前が古の魔族…悪魔族が滅ぼされかけた1000年ほど前…。
ピンク色の瞳をした娘を悪魔族たちは憎んでいる。
ピンク色の瞳をした聖女を憎んでいる。
以前の聖女とは違う人間でもそんなもの、永い時を生きる悪魔族には関係のないこと。
500年では力が足りなかった。
1000年でもまだ足りないが、悪魔族は他の魔族と交配することでいくつか駒を手に入れた。
聖女を殺して人間に絶望を与え、王族を殺して人間の国を支配する。
その為に駒を育て、人間を憎むように仕向けた。
とはいえ、駒たちには人間なんてどうでも良かった。
殺せと言われれば殺す、それだけ。
悪魔族の誇りとか復讐とか、憎しみとか、産まれたばかりの駒たちには関係がないからだ。
ただの人形だ。
自分の意思も感情もない。持ってはいけない。
辛くない、悲しくない、痛くない、何とも思わない、ないナイ無い、ナイ無いない、ないナイ無いナイない無い無い、ナイない。
右眼がじくりと痛んだ。
唯一母親から受け継がれたもの、半分は悪魔族ではないという証。
この世にもう居ないモノに想いを馳せても仕方ないが、あの人はいまどう思っているのだろう。
死の先は救いなのだろうか?無なのだろうか?
分からない。
自分たちが一方的に酷いことをしてやり返されたのに憎みきって復讐しようとする気持ちも分からない。
何もわからない。
自分の心さえも、ぐちゃぐちゃだ。
「レグルス、貴方は貴方よ」
どういう意味だ?
少女はピンク色の瞳をちかちかさせた。
こちらを見つめる瞳の奥は自信に満ち溢れていた。
「古の魔族に囚われる必要はないの」
俺にはそこしか居場所がない。
「私が貴方の居場所になるわ」
信じられない。
「貴方が本当は人間を殺したくないのも、母親の死をずっと悲しんでいるのも、私は知っているわ」
俺は人間を殺したくないのか?
…俺は母親が死んだことを悲しんでいるのか?
「人間より、母親を殺した悪魔族たちを憎むべきなのに貴方はその場所にいる。そこはそんなに価値のある場所?」
価値なんてない。
でも、俺自身にも価値なんてない。
だからこそ俺の居場所はここしかない。
「そんなことないわ。貴方は素敵な人よ。その場所に止まる必要なんかないの。貴方なら何とかできるはずよ」
何でそんな風に言うんだ。
「貴方を私が信じているからよ」
信じる……………、信じるってなんだ?
何だっけ、ナンダッタッケ、忘れた、大丈夫、分からない、知らない、覚えてない。
「大丈夫よ。レグルス。私は貴方の味方だわ」
味方
「そうよ」
お前は俺の味方なのか?精霊眼の癖に。
「悪いのは貴方の父親であって貴方じゃない」
悪いのは悪魔族全部だ。俺もだ。
「でもまだ貴方は誰も手にかけてない。優しいのね」
優しい…?
優しいなんて初めて言われた。
なんでこの娘は俺の味方をする?俺を肯定する?
分からない。馬鹿じゃないのか。
でも、何で俺は……
俺は……