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37・魅了スキル…ではなく…

「リギル、私は思ったんだけれど、アレは魅了スキルじゃないかな」


「魅了スキル」


アトリアが相談があるからウチに来たいというので僕の部屋で一緒にお茶をすることにした。

そしたら予想通り聖女についての話だった。

ちなみにアトリアがユピテルの意見も聞きたいと言うので近くに待機させている。

お茶を淹れたりお菓子をさりげなく補充したりしてくれている。


「聖女がやたら話しかけてきたり触ろうとしてくるからね。魅了スキルの条件は身体に触れるか会話する時間によって決まる。何度も会話や接触を重ねることで徐々に効いてくるんだ」


「へえ…、条件があるんだね」


「まあそれだと解せないこともあるけれどね。例えば王太子にはスキル返しのスキルがあるはずだし」


「スキル返し…?」


聞いたことのないスキルに首を傾げる。


「まあ王族特有というか、初代勇者から受け継がれているスキルだよ。例えば毒のスキルを使われたらそのスキルを跳ね返す、スキルをかけてきた相手に毒がかかる、みたいなね」


ふーむ、つまり、普通なら魅了されても跳ね返すと。

あの王太子なら聖女を利用しようとしているから魅了が効いてなくても許容している可能性があるけど、スキルが返ってきてるなら逆に聖女が王太子にメロメロになってるはず。

でも相変わらず逆ハーとか言ってたしその様子もないよなあ。


「もし王太子に効いてるなら、王太子のスキルレベルよりレベルが高いスキルってことかな?」


「その可能性もまああるけれど、スキル返しはかなりスキルレベルが高いはずだよ」


二人でうーんと唸る。

するとユピテルがお茶のお代わりを淹れながら口を開いた。


「僭越ながら、レベルではなくスキル自体が上位のものなのではないでしょうか?」


「あっ、ギフト」


「ええ、それです」


昔にユピテルからスキルについて習った時に聞いた言葉だ。

ギフト、神からの贈り物、上位スキル…。


「聖女は魅了のギフト持ちってこと?」


「ええ、ギフトはレベルに関係なく絶対にスキルより上です。どんなスキルもねじ伏せます。ですから、可能性としては高いでしょう」


ここで出てくるかギフト…。


魅了スキルというのは大抵はスキル解除のスキルを持つ人かスキル解除薬というもので解除できる。

他のスキルも然り。

だいたいスキル解除は神官が持つジョブスキルに含まれてはいて、スキル解除薬も高価だけど神殿から買える。

どちらも理由が必要で使うのは面倒だ。


なのにギフトとなるとスキル解除スキルもスキル解除薬も効かないかもしれない。

そう考えるとかなりまずい。


「ギフト…というのは、話にはあまり聞かないけど上位スキルのことだよね?」


「ええ、そうです」


アトリアの質問にユピテルが頷く。


「聖女様がその魅了ギフトを使っていらっしゃるのなら十二分に注意する必要が有るでしょう。接触や会話は厳禁です。目を見るのもいけません。目をしっかり見て念じることでわずかな時間魅了により暗示をかけることも出来ます。その間にしっかり魅了される可能性があります。ギフトを解除出来る方法があるかどうかすら分かりません」


つまりもう魅了されてる相手は手遅れかも…。

というか目をしっかり見て念じると暗示って…僕を丸めこもうと話した時にそういえば聖女はじっと僕の目を見つめていた。


『アンタは転生者だからダメだったけど』


聖女のあの時のセリフを思い出す。

つまり魅了かけようとして効かなかったってことだ。

聖女は僕が転生者だからギフトが効かないって結論付けたってことか。


「それは…だいぶ厄介だね…」


アトリアがため息をつく。


「ギフトの保有者は少ないですから…」


現在は確認されてないと前にもユピテルは言っていた。


「あの、僕多分魅了かけられたんだけど、効いてないんだよね」


「おや、それは…」


「本当かい?それが本当なら状況を打破するヒントになるかもしれないね…。リギルのステータスが見られればよいのだけれど…」


「しっかり調べられる鑑定師はこの国にはいない…」


僕が呟くとアトリアがこくりと頷いた。


「隣国には優秀な鑑定師がいるらしい。ステータスを全て見れるほどの実力がある」


正直言って見てもらったほうが良いのかもしれない。

でも転生者とか表示されたら困るな…。

隣の国って言うのもわざわざ行かないといけないとなるとなかなか難しい。


「まあ、まだ先の手段として考えよう。まずはギフトについて調べるべきだね。実家の書庫を漁ってみるよ」


「僕も僕で調べるよ。最終的には隣国に行くことも考えてみる」


僕がそう言うとアトリアは真剣な表情で頼むと言った。

ギフトについてはゲームでは何の情報もなかったけれど、もしかしたらミラなら何か知っているかもしれない。

ミラ曰く、攻略本ファンブックにはボツになった設定やモブキャラのカラーラフ、ゲームに出ない細かい世界観の設定まで書いてあったらしいから。


「リギルには面倒かけるね、すまない」


「いや、僕も何とかしなきゃとは思ってるから」


アトリアには謝られたけど、王太子のせいで(シャウラが王太子の婚約者候補だから)アトリアも間接的に巻き込まれているだけでむしろあの子は転生者なのだから僕らのせいとも言える。

転生者という異分子が世界を乱してしまってるのだ。


「…、王太子は聖女を正妻に置いて、聖女の教養がないぶん、側室で補うつもりだって話もある」


「えっ」


この国は一夫多妻が禁止されている。

どんなに偉い貴族でも妻は一人しか持てないし、浮気は許されない。

というのも、一夫多妻は王族のみに与えられた特権だからだ。

そうとはいえ、あまり王族も側室を持つことはないんだけど…。


「それって、そうなると側室の候補の筆頭はシャウラちゃんって事だよね?」


アトリアは黙って頷いた。

アトリアが相談してきた理由がはっきりわかった。

ただでさえ王太子の妻に妹をやるのは嫌なのに、正妻を他に置いて側室にされるかもしれないなんてもっと嫌だろう。

ゲームで王太子以外のルートではシャウラは正式に婚約者になって王太子と結ばれたけど一生愛されることはなかった。

それでも可哀想だったのに側室なんてどれだけ苦痛だろう。


「そもそも聖女が公務とか面倒は嫌いって言っているらしくてね」


「わがまま限界突破してるなあ」


聖女として巡礼だのパレードだの散々やってきたから飽きてる説もある。

最初にパレードで聖女を見た時の無の表情を思い出した。

今思えば早く帰りてえの顔だったんだろう。


それにしても、あまり二の足を踏んでいる時間はないのかもしれない。

シャウラを一緒に幸せにするというミラとの約束もあるし、アトリアにもシャウラにも幸せになって欲しい。


「アトリア…、少し、提案があるんだけど…」


将来的にヴェラを助ける為…、みんなを救う為にも、聖女はここで止めないといけない。


僕にもそれ相応の覚悟は必要だ。




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