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36・或る少女の独白

私は小さい頃から身体が弱くて、入退院を繰り返していた。

そのせいかあまり友達は出来なくて唯一の楽しみと言えばゲームをすることだった。

特に学園生活を楽しめるような乙女ゲームが好きで現代モノから異世界モノまでやって気に入ったゲームは攻略本まで買って読み込んでいた。


「ここ、クラメシの世界だわ!」


生まれ変わってから気づいたのは10歳くらいの頃だった。

急に前世の人生の記憶が流れこんできて、世界観からクラメシ…昏き星の救世主の世界だと気づいた。


昏き星の救世主は死ぬ直前までやっていたゲームだった。

続編は鬱ルートしかなくて挫けたけど、クラメシはずっとやっていた。

ストーリーもさることながら魅力的なキャラクター……、特に私が好きなのはシャウラという悪役令嬢だ。

悪役令嬢とはいえ不憫なキャラクターで、ゲームでは悪役にされてるけど裏話を見ればシャウラを慕っていた(というより、公爵令嬢の威光を利用していた)令嬢の為に罪を被ったり、王太子に叶わない片想いをしていたり、両親に邪険にされても挫けず努力していたり、真面目で頑張り屋さんで、応援したくなった。


そして自分が転生したのはクラメシの主人公の友人役だと分かると、シャウラに会えるかもと嬉しくてたまらなかった。


「でも何で瞳がピンク色なのかしら」


ゲームの中では軽い見た目の描写(文章での)しか出なかったサダルスウド辺境伯令嬢のミラ。

攻略本で色付きのラフが描かれていたけど水色の瞳の色をしていた。

それにピンクというのは特別な色だ。


「こんなことで原作が変わったら嫌だわ」


最推しのシャウラは救うにしても、他の流れをぶち壊したい訳ではない。

他にも転生者がいる可能性を加味してもトラブルになりかねないから隠すほかない。

魔道具とか何か使えるものがあるかもしれない。


でもミラは水の精霊の加護を持っていたはずなのに、このピンク色の瞳……精霊眼のせいか加護はないということになってしまった。

クラスが変わってしまうのは回避できないだろう。


「まあ細かいことはまだ先に考えるわ。今はこの世界を楽しまなくちゃ…」


辺境伯は権力こそ侯爵ほどあれど、王都からは離れた場所に領地がある。

その為学園に入学するまでは首都に住んでいるシャウラを始めとしたクラホシの登場人物とは接点がないだろう。


加護を持たなくても基本的に学園に入ることはできる。

でもそれに甘んじていたらどうなるかは分からないから勉強はしておかないと…それに魔法を使うなら体力もつけないと…!!


そんなこんなで結構努力して魔法学園入学の日を迎え、そしてちゃんとした登校日初日の昼。


「アルフ〜♡」


私の視線の先には周りの冷たい視線も全く気にせず、王太子にべたべたするゲームの主人公…聖女、アンカがいた。

まずおかしいのはまだ半日しか経ってないのに王太子とアンカの仲が異様に親密なことだった。


AクラスになってしまったのでSクラスの状況を見られなかった私は全く事態を把握出来ていない。

そしておかしいのはゲームではアンカと王太子が親密にするたびに嫉妬して怒っていた(でもぶつける意見は今思えばまっとうだった)シャウラがほとんど無反応だったことだ。

ちょっとイライラした様子はあったけど。


「いやいや、私が関わるまでもなく原作ぶっ壊れてるじゃない…」


私は呟いて頭を抱えた。そして確信した。

聖女アレは転生者だ…。


でもどうやって王太子を陥落したのかまでは分からない。

まあ王太子は腹黒だから利用しようとしてるのかも。


とりあえず原作がぶち壊しになってる以上、遠慮することはないなと思った。


とりあえずシャウラ様と仲良くなろう!!!


思い立ったが吉日。


お兄さんに呼ばれて食堂に一緒に向かうシャウラにコッソリ付いていくことにしたのだ。






食堂について少し様子を伺って驚いたのはある一人の人物のことだった。


リギル・ユレイナス。


クラメシの続編、アケロン…明けし星の輪舞曲の主人公であるヴェラを追い詰める兄である悪役令息。

傲慢で嫌なやつなんだろうと思っていたのに穏やかで優しい人だった。

しかも成績も優秀で加護なしなのにSクラス。

シャウラにもどうやら優しく接している様子…というか、一作目の攻略対象と二作目の攻略対象、悪役令息に悪役令嬢の取り合わせは実に不思議。


ゲームでもこの四人が仲良くしている描写は無かったはず。


ここはちゃんと調査しなきゃ…!

それにシャウラ様とも仲良くなりたい…!


下心ありきで私は一生懸命勇気を振り絞った。


「ユレイナス公子様、ラケルタ公子様、エリス公子様……えっと、シャウラ公女様も…あの、私も一緒によろしいでしょうか……」


こうして私は毎日シャウラとお昼ご飯を食べるというご褒美シュチュをゲットしたのだ。

そしてリギルのことは結論から言うと………


めちゃくちゃいい人だった。


物腰は柔らかいし、シャウラに優しいし、王太子を睨んでまでシャウラを庇ってくれた。

まあシャウラ様を誑かしてるのはちょっと許せないけど。


そして、リギルとアンカの様子を見て、リギルも転生者では?という疑問がふつふつと湧き上がった。

アンカに自分が転生者とバレるのは御免だけど、リギル相手ならもしかしたら協力し合えるかもしれない。


そんなことを考えて自分の身の振り方に悩んでいたのでアンカを連れてリギルが人目を避けながら早足で歩いて行く様子を見つけてこっそり付いて行ってしまった。


「だからどういうつもりなの!知らないフリなんかして!」


アンカの怒鳴り声が聞こえる。


「同じ転生者なんだから助け合いでしょう!」


「…このままじゃ逆ハー出来ないじゃない!」


あー、やっぱり。


アンカとリギルは転生者だった。

お互いそれを知っているようでそのことでモメているみたい。


っていうか逆ハーって冗談でしょ。


勘弁してよ、と思うけどリギルも同じ気持ちみたいだった。

それでも優しくアンカを諭すけどアンカは聞く耳を全く持たない様子。


「もういい!!バーカー!!!」


あっ、やばい。


と思ったときには時すでに遅し、走ってくる聖女にぶつかって転んでしまった。

尻餅と手をついて精霊眼を隠す為の魔道具の眼鏡も飛んでった。


アンカが何か捨て台詞を吐いたけど気にする余裕は無くて、気づいた時には手が差し伸べられていた。


「大丈夫?」


顔を上げると心配そうに私を見つめるリギルがいた。

攻略対象と言って差し支えないほどスチルみたいな場面だったと思う。

主人公の兄、顔面が強いと思っていると…


「ピンク色…?」


バレた。


さあっと血の気が引いてその後は慌てていた気がする。

早口でリギルに色々言ったような。

気がつくと私は自分の秘密を話して、あんたの秘密も知ったわよみたいな事を言っていた。


でも私がリギルに目標は何と聞くと、彼は真剣に妹を助ける事だとそう言った。

安心して笑みが溢れて、それからは落ち着いて話せた。


彼は私のかすり傷を治療してくれた。


きっと、信用できる人だ。


アンカのせいでゲームの内容はもうめちゃくちゃだ。

現実だからやり直しは効かないのにこのままじゃ絶対に良くない。

シャウラを助けるために、攻略対象のみんなを助けるために彼女の暴走を止めないといけない。


だから彼と、リギルと協力しよう。


私はそう決意を固めた。







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