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35・精霊に愛されし者の真実

「まずはこの瞳についてお話ししてもいいですか?」 


放課後、温室に行くと約束通りミラがやってきた。

そうして、温室の隅にあるベンチに座って話をすることになった。


「本来、ミラ・サダルスウドはピンク色の瞳ではありません」


「そうなの?」


「そもそも眼鏡もかけてません」


見た目の描写が茶髪碧眼の少女というだけで、具体的なものがなかったので眼鏡についてはあまり特に気にはしていなかった。


「まあそもそもこの眼鏡は瞳の色を隠すためですから」


ミラがそう言いながら眼鏡を外すとすうっと瞳の色がピンク色に変わった。

何度見ても鮮やかな色だ。


「ピンク色の瞳は聖女の象徴です。というのも…この色は精霊に愛されている証なんです」


「精霊に愛されてる証?」


ミラはこくりと頷く。


「精霊眼ともいいます。とはいえもう廃れた呼び名で知る人はいません。精霊に愛されし者についても事実と違います」


「事実と違う……」


「ひとつ確認なんですけど、リギル様は転生者で合っていますよね?生前、“昏き星の救世主”もしくは“明けし星の輪舞曲”をやっていた。そうですね?」


ミラのその言葉に確信した。

そのワードを知っているのは転生者しかない。


「そうだよ。両方最後まで全ルートやった」


「…、私は昏き星の救世主をやって、明けし星の輪舞曲は鬱すぎて途中で挫けました」


「あー…」


明けし星については本当に救いがなくて酷かった。

ハッピーエンドと位置づけられているエンドだって完全にメリバだったし。

ところでメリバというのはメリーバットエンドの略で、ハッピーエンドに見えて主人公が幸せそうでも洗脳されてたり闇堕ちしてたり、依存とか精神がおかしくなってたりと後味の悪いものを指す。


「その代わり攻略本ファンブックは結構読み込みましたから、その点ではお役に立てると思います」


「ファンブック…!!」


1番欲しかった情報だ。


「精霊眼についてもファンブックで言及があったんです」


ミラが僕の様子を見てくすりと笑った。

ちょっとはしゃぎすぎたと反省して、こほんと咳払いをする。


「まず、精霊に愛されし者の真実からお話ししますと、現在の精霊に愛されし者という呼び名は元々は精霊眼を持つ人に対する呼称で、現在はそう呼ばれている方々は“精霊に愛されているわけではない”んです。一方的に力を与えられているだけです」


「愛されている訳じゃない…?」


「精霊とは両極端な種族です。人間が滅びると困るから力を与えますが人間個人には興味がありません。だから過剰な力を与えてもほったらかしにします」


確かに、精霊が本当に人間を愛しているなら魔力の暴走が起きてもほったらかしになんてしないだろう。

与えてしまった力をどうするとか出来ないからと僕は解釈してたけど違ったみたいだ。


「とはいえ力を与えるのは精霊が好む血筋ではありますから全くの間違いではないんですけど…、魔力の暴走で死ぬかもしれないのにほったらかしてる時点で愛してはいないのでそこは勘違いしちゃダメなんです」


僕はこくりと頷いた。


「一方、精霊眼を持つ人間は本当に精霊に愛されています。血筋もですが魂も精霊が好むものであることが条件です。全ての精霊に平等に愛された証がこのピンク色の瞳です」


「全ての精霊に平等に…」


ということは、ミラも聖女も…ヴェラや母様も…全ての精霊に愛される本来の“精霊に愛されし者”…ってこと…


「精霊眼を持つ人のことについての認知が廃れていったのは精霊眼を持つ人間は精霊に平等に愛されるが故に特定の精霊の加護を持たないからです」


「でも、聖女は…?」


「聖女はちょっとした例外です。ただこれは聖女が珍しいことにも関係しています。光の精霊は精霊眼を持つ人間にしか加護を与えたがらないので…、ですが一人しかいないのを独り占めしようとすれば他の精霊は怒るでしょう?」


「それはまあ、確かに」


「だから精霊眼を持つ人間が複数いる場合だけ、光の精霊が中から一人に加護を与えることができます」


「それが聖女……」


「はい、聖女に魔力暴走がないのも精霊に守られているからです」


光の精霊のみに魔力暴走がない理由はなんとなく合点がいった。

光魔法の何が特別なんだろうと思っていたけどやっぱり聖女自身が特別だったんだ。


「私の瞳がピンクなのは中身たましいが違うからじゃないかなあと……、推測ですけれど、ゲームのミラは魂が精霊の好むものじゃないけど血筋が精霊の好むもので、故に加護持ちでした。一方私は生まれ変わりなので元々の魂が精霊に好かれるものでその私がミラに生まれ変わったから精霊眼を手に入れたのでしょう」


とりあえず精霊に好かれる条件がそうならミラの言うことは正しい。

ミラがあえて瞳の色を隠してたのは転生者に遭遇したときに不審がられないようにというのもあったんだろうなあと思った。

まあ僕は知らなかった訳だけど…。


「転生者は精霊に好かれる魂ってことなのかなあ…」


「そうだと思いますけど…、たぶん、リギル様は違いますよね…」


ミラがじっと僕を見つめる。瞳を見ているようだ。

僕の瞳は真っ赤でピンクとは程遠い。


「妹のついでだったりして」


「ヴェラ様も転生者なんですか?」


僕は少し考えてからミラにヴェラについて説明した。

前世の妹と共通点があること、前世の歌をなんとなく知っていたこと、前世でしか使わないような言葉を使っていたこと、前世の記憶がない様子であること…。

それを聞いたミラは考え込んだ。


「ヴェラ様の記憶がない原因はわかりません。逆に言えば記憶がある私たちがおかしいのかもしれませんし…」


ミラの言う通りだ。

前世の記憶があること自体イレギュラーではある。


「ヴェラ様の病気…魔力枯渇症についてですけど……、正直ヴェラ様の抱える魔力枯渇症は中でも重篤なもので魔力がなければ生命力すら削ります」


「えっ」


じゃあ寿命が短いってこと?

不安になっていると、すぐにミラが補足してくれた。


「ヴェラ様は本来の“精霊に愛されし者”だから大丈夫です。生命力を削られる前に精霊が魔力を補充します。その余波というか影響でリギル様の魔力が上がったんじゃないかと私は思ってます」


「そ、そっか……」


ゲームのリギルと違いヴェラのそばにずっと居たから影響を受けたのと、精霊が愛するものを愛する人には精霊も少し優遇するそうで、僕の魔力が全体的に高い原因がわかった。

ちなみに聖女と両思いになったキャラクターが魔力の暴走を起こさなくなるのも同じ原理らしい。


「でも精霊は病気で吸い上げるぶんの魔力補充が精一杯みたいですから、病気を治す必要はありますね」


「治す方法が分かるなら苦労しないんだけどねえ…」


「さすがにファンブックにはないですね…」


そりゃそうか、と肩を落とす。

今すぐ命に関わることではないとはいえ、やっぱり災いの種にはなってしまう。

一生隠し通すのも難しいだろう。


「あの、協力体制を結びませんか?」


「協力体制」


「私はシャウラ様を、リギル様はヴェラ様を幸せにしたい。両立出来ることですからお互いの目的のために協力し合うんです。ゲームの時期はだいぶズレてますし、難しいことでないかと」


元々アトリアやシャウラも助けるつもりではあったし、悪い話ではない。


「正直あの聖女様のことも不安材料です。物語が壊れるのもそうですけど、古の魔族の対処ができるかもわからないですし」


「まあそれは同意見…」


乙女ゲームに転生した!わーい!逆ハーするぞー!

なんてはしゃいでる場合じゃないのは確か。


「リギル様にも出来るだけ協力します。なので…、私の推しを…大切な友達《シャウラ様》を助けてくださいっ!!!」


ミラが両手を合わせて拝むようにして頭を下げた。

この子はキャラクターだけとしてじゃなく、シャウラを一人の人間として見てる。

それだけでもう好感が持てる。


「僕もちゃんと助けるつもりだから安心して」


「リギル様っ…!!」


誠実には誠実に答えないとね。


「では聖女の逆ハー阻止し隊結成ですね!」


「そ、そのネーミングセンスはどうなんだろう…」


そこについてはもう少し話し合う必要がありそうだな…。





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