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34・幸せにすることが目標

「だからどういうつもりなの!知らないフリなんかして!」


「どう、と言われてもなあ」


今日の僕は聖女に呼び出されて問い詰められていた。

というのもわざわざ二年生のSクラスまで来てそこで余計なことを喋りそうだったので人気のない場所…学園の温室に連れてきたんだけど。

ここは魔法薬を作るための薬草や花が生えている場所で勉強のため出入り自体は自由だ。


「僕君に協力するとはひとことも言ってないし」


「はぁ!?同じ転生者なんだから助け合いでしょう!」


助け合いにならないんだよなあ…。

これから授業だし朝から勘弁して欲しい。


「じゃあ君はヴェラの病気を治す方法知ってるわけ?」


「は?知らないわよ」


ここまで開き直るといっそ清々しいまであるな。


「知らないなら交渉は決裂だよ。僕が助けて欲しいのはヴェラに関することだけだから」


「何よ!私が攻略対象と仲良くなるのがやだからって悪役令嬢ともつるんじゃって…!アトリア様もまともに取り合ってくれないし…!このままじゃ逆ハー出来ないじゃない!」


聖女がガジガジと爪を噛む。

アトリアのルートはまずシャウラと仲良くなることが必須条件だ。

そもそも王太子の件でシャウラによく思われてないんだから無理に決まってる。

逆ハーが無理なのはそういう兼ね合いがあるからだ。


爪がぼろぼろになるのは見てられなくてそっと聖女の手を取った。

すっと降ろさせて手を離す。


「やり込みしてたなら知ってると思うけど、シャウラと仲良くならなきゃ無理だよ。そもそも王太子と仲が悪いし、だから逆ハーなんか無理だって言ってるんだ」


真剣に見つめると聖女は手をさすって俯いた。


「アタシにはアタシのやり方があるもん。それにめんどくさいことはスキップするの」


「スキップって…」


一度攻略したなら次の選択肢までスキップする方法は確かにあった。

もちろんゲームならだけどね。

いまいちこの子は現実とゲームの区別がついてない。


「ゲームならそうだけど…、もうこれは現実だよ」


「中身ジジイなんじゃない?説教くさいわ」


ジジイ…!???

20代でしたけど…!!!!???


「もういい!!バーカー!!!」


聖女がくるっと僕に背を向けて走り出す。

いやいや子供か?


「きゃっ!!!」


ドサッという物音がしたと思ったら、温室の入り口で聖女ではない悲鳴が聞こえてはっとする。

続いて「なんでそんなとこに居るのよ!!鈍臭いわね!!」という聖女の声がした。


聖女のやることじゃないな。


急いで駆けつけると、尻もちをついて俯いている柔らかめの茶髪の少女の姿と転がっている眼鏡を見つけた。

たぶんミラだ。

慌ててメガネを拾うとミラの方に手を差し出した。


「大丈夫?」


「あ、だ、大丈夫です。ごめんなさ…」


ふと、ミラが顔を上げると些細な違和感に気づいた。

ミラであることには間違いがなかった。

でも、眼鏡をかけていないミラの瞳は…


「え、ピンク色……?」


思わず呟いてしまった。


ミラの瞳はピンク色だった。

聖女と同じような、濃い桜の花のような…。


僕の言葉に気づくとミラはハッとして僕の手の中にあった眼鏡を引ったくった。

ミラが眼鏡をかけると、すぅと元の水色の瞳に戻った。


いや、ピンク色が本当の色?


「これ、魔道具なんです。視力は全然悪くなくて、瞳の色を変えるためにかけてます」


ミラがまるで観念したようにぽそりと言った。

でもよく分からない。

隠す必要があるようなことなんだろうか?

聖女と同じ瞳の色は悪目立ちするから?


「…、見られちゃいましたね…」


そう言ったと思うと今度はため息を吐いた。

ミラはすっと立ち上がると制服についた埃を払う。


「でもまあお互い様です。私も聞いてしまったので…」


ミラの言葉にドキッとした。

聞いてしまったってつまり、転生者とか、逆ハーとか、そういう話?


「あの、聞いたって……」


「あの人の声が大きかったので…あ、私以外は聞いてないと思います。転生とか、逆ハー、とか」


あっ、やっぱりガッツリその部分ね!!?


「ひとつ聞きたいことがあるんですけど、リギル様の目標ってなんですか?」


ミラがずいっと顔を近づけてくる。


「えっ…?っと…?ヴェラを幸せにすること…」


目標と言われるとそれしかない。

ヴェラを守って幸せにすることが僕の今ここにいる理由だ。

すると、くすりとミラが笑った。


「私も、シャウラ様を幸せにすることが目標なんです」


「シャウラちゃんを、幸せに…」


「もう授業が始まりますね、バレたのは仕方ないので後で情報交換しましょう。逃げちゃだめですよ」


「あ、待って」


思わず去ろうとするミラの腕を掴んだ。

転んだ拍子にか、手のひらを怪我している。

ミラの手を持ち上げると軽く水魔法で洗ってから、光魔法で治療した。

それを見てミラは目をぱちくりさせる。


「びっくりしました。光魔法も使えるんですね」


「あ、うん?なんでか全属性使えるよ」


聖女以外でも光魔法を使える人はいるけど結構希少だ。

使えても微弱で治療に使うにも時間がかかる。


「しかもこんな綺麗に早く…、やっぱりヴェラ様の影響ですかね…」


感心したようにミラは治療した手を高く上げるとまじまじと見つめた。


「ヴェラの影響…?」


僕が聞くとミラはハッとして口に手を当てた。


「あー…、後で話しますから…。うん、リギル様なら、信じてもいい気がするので」


「後でって?」


「放課後、またここにいらしてください。リギル様もそう思ったからここを選んだんでしょうけどわざわざ花を楽しみに来る生徒も居ないので安全です。私はお二人の様子が気になって付いてきてしまっただけなので」


まあ聖女もぷんぷんしていたし、僕も慌てていたからな。

一応人目に気をつけながらここまで来たけど。


「今度こそ戻りますね、一緒に戻ると変な噂になりかねないので…」


ミラのその言葉には同意したので分かったと返事をした。

ミラは軽くお辞儀をするとその場を去った。


あの子は何か知っているみたいだった。

つまり、転生者なのだろう。


そしてもしかしたら僕以上に情報を持っているのかも知れない。

聖女の前例があるので期待と不安でその日はあまり集中出来なかった。





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