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33・逆ハーとか馬鹿馬鹿しくて言えない

アルファルド・サン・アルメイサン王太子は打算的な人物だ。

故に自分の益になる人物を取り込む癖がある。

聖女がいきなりゼロ距離で近づいて来たこともしめしめと思っただろう。


「あの二人はご婚約でもなさるのかしらね」


一週間経って尚、べたべたな様子の王太子と聖女にそろそろ呆れたらしく、シャウラが吐き捨てるようにそう言った。


「あの二人?」


ヴェラが首を傾げると、はっとシャウラが口に手を当てた。


「妹君の前でお話することではなかったですわね…」


今日はアトリアとシャウラの屋敷にヴェラとユピテルを伴って遊びに来ていた。

シャウラとヴェラを会わせると約束したからだ。

ヴェラが学園の話を聞きたいというので話しているうちに聖女の話になってしまったのだ。


「ええと、王太子殿下と聖女様ですわ」


「婚約するの?」


「さあ、私にも分かりませんわ。それよりヴェラ様、こちらのクッキー美味しいですわよ」


話を逸らすようにシャウラはクッキーをヴェラに勧めた。

ヴェラはまだ12歳なので政治的な話はまだ難しい。


それにしてもシャウラの対応があっさりしているような?


「シャウラちゃんは王太子殿下が好きだと思っていたけど」


僕がそう言うと、ガタンッと音を立ててシャウラがガラスのコップを倒した。


「わっ!?大丈夫!?」


「だ、大丈夫ですわ。服には溢しておりません」


「お片付けいたします」


いつのまにか布巾を手に持ったユピテルが溢れたアイスティーを片付けていく。

申し訳ありませんわ…とシャウラはしゅんとしている。


「あ、あの、リギル様は私が王太子殿下を好きだと思ってらしたのですか?」


「違うの?」


首を傾げるとシャウラが小さくぅーと唸る。

隣でヴェラはクッキーをもぐもぐしてる。かわいい。


「確かにお慕いしておりましたわ。彼だけが闇の力を持った私にそんな私でも人の役に立てると慰めてくれたのですから」


それ人の役に立てる(俺の役に立てよ)って意味だな。


「でも、お兄様以外で…リギル様やミラ様、リオ様……闇の力などそもそも関係なく、私自身を見て、私を褒めて下さる方々…。そんな方たちがいたから気持ちが変わりましたわ」


「気持ちが変わった……」


「そ、そうですわ。そもそも私に向かってつまらない女などと王太子といえど100年の恋も覚めますわ」


「何!?そんなこと言っていたのかい!?」


アトリアがばっと立ち上がってシャウラがビクッとする。


「一発殴ってくるかい…?」


「お、お兄様、ダメですわ」


本当に殴ってきそう…。


「あんなのでも王太子なのですから」


シャウラのあんなの扱いにクスッと笑う。


「う、うん、そうだね」


否定もしないアトリアも面白い。

アトリアはふぅーと深呼吸すると座り直した。


しかしシャウラの王太子への気持ちが無くなったとするとシャウラの破滅フラグが一つ折れたな。良かった。


「まあとにかく今は全く全然これっぽっちも好きではありませんわ!」


「う、うん?わかったよ」


やっぱり誤解されたままは嫌だよね。


「じゃあシャウラ様はお兄様と結婚するの?ですか?」


「ヴェラ…!?」


「ふえ…!?」


ヴェラの純粋な質問にシャウラが赤くなる。

シャウラはこの手の話は苦手なんだって〜。


「私はそうなったらいいなって思うけどね」


アトリア外堀埋めるな。


「そ、その、まだそういう話は早いですわっ」


シャウラがべんと軽く机を叩く。


「あ、あまりからかうのはやめてくださいまし、お兄様」


ふーと長く息をつくとユピテルが淹れ直したアイスティーを口に含んだ。


「ふふ、シャウラが可愛くてね」


アトリアはよくシャウラを揶揄うらしい。

シャウラがツンデレっぽいからぷりぷり怒ってるのが可愛くて楽しいらしい。

ちょっとSなのでは?


僕はヴェラのこと甘やかしたいからなぁと隣のヴェラの頭を撫でるとニコとこっちを見て笑った。


かんわいい。


「ふん、お兄様ったらいつもそれで誤魔化して」


本心だと思うけどね。


「シャウラ様がお姉さまになってくれたらヴェラ嬉しいです」


ヴェラがにぱーと天使の笑顔でシャウラに微笑みかける。

シャウラが優しくしてくれるからヴェラもシャウラが気に入ったみたいだった。


「え、そ、そこまで仰るなら考えておきますわ。……ま、まあ、シャウラお姉さまと呼んでもよろしいですわよ」


シャウラは少し戸惑いつつもヴェラの純真さに負けたらしく、そう言ってくれた。

子供の夢は壊せないよね。


「わぁい、シャウラお姉さま!」


「ウッ…、か、かわいいですわ…」


そうだよ。ヴェラは世界一かわいいんだ…。


「ふふ、ヴェラ嬢とリギルはよく似てるね」


「え、似てるかなぁ…」


「まあ見た目もだけど、特に性格とか?」


「そうかなぁ…」


ヴェラは見た目だけじゃなく性格も世界一可愛い。

僕とは違うと思うけど他人アトリアから見たら似てるように見えることもあるのかもしれない。


「ふふ、ヴェラちゃんも可愛らしいだけでなく人を見る目があるみたいだし」


「まあヴェラはかわいいよな」


今日はアトリアとシャウラにそれを布教しに来たようなもんだし。

にしてもいつの間にかシャウラとヴェラで楽しそうに話している。

それを見てアトリアも微笑ましそうにしてからふとこっちを見た。


「聖女といえば最近はケレス公爵子息の双子とも接触している姿をよく見るよ」


ケレス公爵子息。

兄のカペラ・ケレス、弟のシリウス・ケレス。

見た目がそっくりだけど瞳と髪色は加護のせいで違う、一卵性の双子の兄弟で“昏き星の救世主”の攻略対象だ。


「あの二人はクセが強いし、特に弟のシリウスは人を寄せ付けない性格だけど、二人とも聖女とは楽しげに話しているそうだよ」


「楽しげに…」


カペラは女性人気が高く、女性に紳士的に振る舞う明るいキャラだが実際には女嫌いだ。

シリウスは対象的に無口で大人しいけど過去のトラウマで他人に接するのを苦手とするキャラ。


その二人と楽しげに会話…?


カペラは表面上だとしてもシリウスはそんな器用な真似はできない。


「王太子といい、ケレス公爵子息といい…、リギルを呼び捨てにした件といい…、身分の高い人間に近づいて何を企んでいるんだろうね?」


逆ハーですとは口が裂けても言えないな。

どうやらアトリアは急に三人と聖女が仲良くなったことに違和感を持っているらしい。

その違和感には僕も同感だ。


「人心把握が上手いのか分からないけどリギルも気をつけてくれ」


「アトリアもね」


攻略対象だし。


しかし、あんまり人心把握が上手い人間には見えなかったけどなあ。

まあ僕に取り入ろうとしたやり方でやれば転生者の僕とは違って多少は付け入る隙があるのかもしれない。


元々、逆ハーエンドなんか存在しないゲームだからうまく行くはずないとは思うけれど。

やっぱりもう少し注意する必要はありそうだなあ。




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