30・シャウラの好きな…
「シャウラ様はチョコレートがお好きなんですね!」
「うん。小さな頃に欲張ってチョコレートを一気に口に入れて口の周りと手をべたべたにしてね…。乳母にはしたないって怒られてたよ」
「ちょっとお兄様…!その話はやめてくださいまし…!」
ミラは明るい性格でアトリアも気に入ったようだった。
さっきからシャウラの話をたくさん聞いたミラはすごく楽しそうでそんな好意的な態度が気に入ったみたいだ。
シャウラも戸惑ってはいたがしばらくするとミラと楽しそうに話している。
そんな様子をリオも微笑ましそうに見守っていた。
僕もシャウラに友達ができたのは素直に嬉しい。
僕もヴェラと四歳も離れてなきゃこうやって一緒に
居れたのになあ…。
「ふふ、シャウラ様、私は可愛いと思います」
「か、かわ……、褒めても何も出ませんことよ」
シャウラがふんとそっぽを向いた。
耳が赤くなってるのでどうやら照れてるらしい。
「サダルスウド嬢さえ良ければこれからは私たちと一緒に昼食を取らないかい?シャウラもきっとその方が喜ぶし…」
「お、お兄様…っ、ま、まあ、ミラ様が迷惑でないのなら構いませんけれど」
「迷惑だなんてそんな…!嬉しいですっ…!!」
この二人、友達になれそうだなぁ。
「オレも歓迎〜!ミラちゃんかわいいし」
リオがぱちんとウインクをする。
「馴れ馴れしいぞ」
「ふふ、ユレイナス様、私は大丈夫です」
リオも相当顔が良いからだいたいの令嬢はリオにウインクされると照れるなり喜ぶなりするけど、ミラは瞬きひとつしない。強い。
自分の顔に自信があるからか、リオもあれ?という顔をしている。
「まあ僕も構わないから、僕たちはいつもここで食事しているし…、良かったら」
「皆さまありがとうございます」
ミラはふわっと効果音が出る感じで微笑んだ。
なんか表情が柔らかい子だな…。
「シャウラと同じクラスだったら良かったのにね」
「残念ながら、加護持ちではないので…、あ、でもリギル様は加護持ちでは無いのにとても優秀でSクラスになられたと聞きました。凄い方なんだなあって」
「へっ?僕?あ、ああ、まあね…?」
急に褒められてびっくりしてしまった。
裏とか打算とかない褒め言葉だから少し照れる。
「私もリギル様を見習って次の進級ではシャウラ様と同じクラスになれるように頑張って………、あら?なんでしょう」
次の瞬間、ミラが食堂の入り口を見た。
つられてみるとなんだかざわついている。
「聖女様と王太子殿下だ…」
周りがざわつく中、その声だけはハッキリ聞こえた。
げっ、聖女に王太子????
よく見ると確かに聖女と…、まさに王子というテンプレートの金髪碧眼の“昏き星の救世主”のメイン攻略キャラクター、アルファルドだった。
乙女ゲームパッケージの中心にいるキャラクターだ。
初めて見たけどゲームそのまんまでイケメンというより少年寄りの童顔でタレ目、人畜無害そうな笑顔にぱっつんの前髪…、そして例に漏れず美形でありまつ毛も長くて綺麗だ。
遠い親戚とはいえ初めて見るのは僕があまり社交の場に顔を出してなかったからだろう。
その二人を姿を見てシャウラが顔を顰めたのはまあそりゃそうだろう。
聖女は当たり前のように王太子と腕を組んでいる。
いや、何で??????
何でもうそんな恋人みたいに…???
その姿に食堂はざわついている。
「やっぱり初めての昼食は食堂で食べてみたかったの、わがまま聞いてくれてありがとう、アルフ」
愛称で呼んでるし???????
「僕もやっぱりそう思ってたので構いませんよ」
いや嘘こけ。
ゲームのアルファルドは他人を道具としか思ってないようなキャラクターだ。
ヒロインに恋して改心する前までは周りの人間をもはや下等生物だと思っているくらい軽視していた。
その為、人の多い場所を嫌がった。
パーティーとかは仕方ないにしても利益にならないなら進んで人のいる場所になんか行かない。
聖女と出会って半日も経たないのにもう改心した?そんな馬鹿な…。
不信感たっぷりに王太子と聖女を見ていると、ぱちっと聖女と目が合ってしまった。
やば…。
慌てて逸らすが時すでに遅し。
「リギル!!」
ぱあっとヒロインのかわいい顔で満開の笑みを見せるとこっちに来てしまった。
いや、呼び捨てだし、何で来んの??
「貴方も食堂に来ていたのね!」
「えっ、聖女ちゃんと知り合い????」
リオがばっと僕の方を見た。
「あの、…昏明祭で…ハンカチを拾って貰って…」
「おや、ユレイナス公爵子息ですね」
聖女についてきていた王太子が僕ににこっと笑いかけた。
声かけられたのなら挨拶をするしかない。
「お初にお目にかかります。王太子殿下。リギル・ユレイナスです。ご存知頂き、光栄です」
「そんなに堅くならなくていいですよ。学園では生徒は皆平等です」
いや無理だろ。
食堂いるみんなが絶対そう思ったはずだ。
「そもそもユレイナス公爵家は王族の血筋…、親戚みたいなものですからね」
王太子のニッコリ腹黒スマイル……うーん、実物の笑顔まじで怖い。
「リギルも一緒に昼食食べましょう」
「え、いや、あの、僕たちはもう食べ終わるから」
君たち来んの遅いし。
すっと近づいてきた聖女に両手を出してガードする。
なんで公共の場でこんなに馴れ馴れしくできるのか。
すると、すっと立ち上がったシャウラが僕と聖女の間に手を入れた。
「失礼ですが、オルクス男爵令嬢。聖女様とはいえ、公爵家のリギル様を許可なく呼び捨てにするのは如何なものかと。王太子殿下を愛称で呼ぶこともです。学園が平等とはいえ、恋人同士と疑われかねない行動は控えたほうが宜しいですわ」
トゥンク…、庇われちゃった…。
じゃなくて、大丈夫かなこれ。
シャウラを見た聖女は少しむっとした。
「アルフには許可を貰いましたし」
「では、そちらは百歩譲って良いにしても、リギル様の許可は頂いたのですか?」
「そ、それは、これからだけど……」
聖女がちらっと僕を見た。
同じ転生者なんだから助けてよ!って言っているように見える。
「…、悪いけれど呼び捨ては遠慮願いたいかな」
僕がそう言うとさらにムッとした。
でもさすがに周りがざわついているので騒ぎにはしたくないのか、分かりましたと引き下がる。
「アルフ、あちらで食べましょう」
失礼しましたとかも言わずに行ってしまった。
いや、大丈夫かあの子。
王太子だけが立ち止まって、シャウラを見た。
「シャウラ、君は賢い子だから分かっていると思いますけど、アンカは教会にずっと閉じ込められていたせいで色々不慣れなのです。もっと優しく接してあげてください、クラスメイトなのですから」
「私は当たり前のことを申し上げただけですわ。甘やかすだけでは彼女に良くありません」
ふんとそっぽを向くシャウラの肩に王太子が手を置いた。
そして、耳元でぼそっと
「だから君はつまらない女なんだ」
シャウラがびくりと肩を震わせ。
こ、こいつ今なんて言った!??
僕には聞こえたぞ!!!!
ついカッとなって王太子から引き剥がすようにシャウラの肩を引き寄せると、じろりと王太子を睨んでしまった。
王太子はくすりと笑うと、ではと聖女が向かった方に行く。
なんてやつだ。
「あ、あの、リギル様…?」
シャウラが震えながら僕を見上げている。
あっ、しまった。肩抱いたままじゃん。
どうしても妹属性になると庇護欲が生まれてしまう。
怖がらせてしまったかな。
「す、すまない」
パッと手を離すと、シャウラは小さく、大丈夫ですわ、と答えた。
少し耳が赤くなってる。
王太子への怒りだろうか。
…そりゃそうだろうな、可哀想だ…。
まだ15歳の小さな少女。
王太子に意見するのも聖女に物申すのも勇気がいるだろうし、あんな風に一蹴されるのもなあ。
「あの、シャウラちゃん、大丈夫だから、気にしないでね」
シャウラの頭をぽんと撫でた。
あ、やべ、これも妹にやるクセだ。
慌てて手を引っ込めるが、シャウラはさらにぷるぷるしてる。
「あ、あの、私、…も、もう、ご馳走さまでしたわ!!!」
シャウラはシャーっと見事に優雅な早足で食堂を出て行ってしまった。
それをあっ、シャウラ様〜とミラが追いかけて行く。
怒らせてしまったかも。
「ごめんアトリア、怒らせちゃったかも…」
ふっとアトリアの方を振り返ると何故か口に手を当てて笑いを堪えていた。
「ふふっ、いや、大丈夫。シャウラをフォローしてくれてありがとう」
隣にいるリオもなんかニヨニヨしている。
なんだ?
「いや、何で笑ってんの?」
「いや、すまない。シャウラは可愛いなぁと思ってね」
なんだいつもの僕と同じ妹可愛い病か。
「リギルってさあ、やっぱりタラシだよね」
リオがそう言ったけど、なんでこのタイミングでその話を掘り返したのか分からなかった。
とりあえず一発殴りたくなるくらいムカつく顔をしている。
二人とも様子がおかしいけど大丈夫????