29・新学年
魔法学園は五年制である。
といってもだいたい学べば中退したり、途中から入学したりと様々だ。
魔法のコントロールが上手くいけば早期卒業もできるしきっちり五年学びたければ可能だ。
学校行事なんてのもあるしそれもあって最後までしっかり通う人は結構いる。女生徒は少ないけど。
まあつまり本人の意思次第…、精霊に愛されし者を除いては、だけど。
精霊に愛されし者は魔力量も多いから五年キッチリ通わなきゃいけない。
リオに居なくならないでと泣かれたし父様も特に気にしてないようで5年いればヴェラとも一年だけ一緒に通えるし…、というわけで僕も五年キッチリ通うつもりだ。
一年目は皆魔法に慣れるとこから始める。
これが意外と大変で魔法の操作とか出力の調整とか割と四苦八苦した。
僕は割と魔力量があるらしく最低限のコントロールが出来るようになるには意外に時間を要した。
中退する人もいるためコントロールのみにおいては一年で完璧にしなきゃいけなく、一年生は学校内行事くらいにしか参加出来ずに勉強漬けって感じだった。
委員会や部活動もあるが一年は勉強のため禁止されてたし。
二年生から部活等解禁や課外授業があったり、僕みたいに加護がなく複数魔法が使えるなら複合魔法を学べたりするらしくちょっと楽しみだ。
ちなみに三年からは離脱者がちょこちょこ現れ始めるため授業は決められた範囲ぶんは好きなのをとっていくという大学みたいなスタイルになる。
まあ単位制ってやつ。
中途入学は一年みっちりだけど。
と、そんなこんなで二年生、新学期である。
「昨日入学式があったんだよ!」
「いや知ってるよ」
一年の入学式は上の学年は皆休みだった。
否、生徒会だけは出勤だったらしいけど。
リオがうきうきなのはいよいよ聖女を見れるからだろうな。
でも教室で大声やめような。
「アトリアは入学式見に行ったんでしょ?」
「ああ、うん、妹が入学式だったからね」
「聖女ちゃん見た?」
「あはは、見たよ」
リオがあんまり食い気味だからアトリア引いてるよ。
「ピンク色のおめめが可愛いよねー♡」
「僕の母様やヴェラもピンク色の目だよ」
「そーいやそうだよね」
ピンク色の目というのは結構珍しい。
というかヒロインの特権なのか?って感じ。
まあ母様はヒロインの母親だからとして。
「そういえば乳母に聞いたけどシャウラも生まれたときは目がピンク色だったらしいよ」
「え、そうなの?変わるとかあるんだ…」
シャウラの瞳の色は今は山吹色だ。
といっても赤に近いというか、アトリアの瞳の色にピンク色を混ぜたような色だ。
後から黄色が出てきた?とか?
子猫とかが青い目だったのに大人になると緑がかった黄色になるとか、そういうのに似たようなものかも。
「まあ私は見たことないから分からないんだけどね」
この世界に写真というのはない。
魔法で映像を記録する映像機はあるけど、あの両親がわざわざ記録するとは思えないしアトリアが見たことなくても仕方がない。
「神樹の桜の色だからすごく珍しいし、特別感あるよね」
確かに…とリオの言葉に頷いた。
ピンク色の桜が神樹とされていて、聖女の瞳の色は代々ピンク色……、ヴェラは聖女ではないけどヒロインだし、何が意味があるのかもしれない。
ファンブックまじで読んでおけば良かった。
シャウラもピンク色だったのか…いやでも今は山吹色だし、関係はないか。
「ピンクって神聖な色なのかな…」
「そうなのかもしれないね」
精霊の加護で髪色や瞳の色が影響を受けたりしているのだから、ピンクの瞳にも何かしら意味があるのかもしれない。
「ところでお昼ご飯はシャウラちゃんも誘ってみる?」
僕が言うとリオが渋い顔をした。
「お友達できてるかもしれないし迷惑じゃない?」
「ふふ、ありがとう二人とも、本人に聞いてみるよ」
まあ僕らいつも三人で食べてるしそこに混ざるのは気まずいかもしれない。
…と思ったんだけど。
「良かったの?シャウラちゃん。僕たちと一緒で」
「はい」
昼休み、食堂。
シャウラは僕の問いかけににっこりと笑った。
「それに、皆さま聖女様に夢中ですから」
「あー……」
加護を受けた人間は問答無用で同じクラスなのを忘れていた。
みんな聖女のほうに注目しちゃってお友達とか作ろうにも作りようがなかったのかもしれない。
「まあ、僕は一緒に食事できて嬉しいよ」
「え、あ、ありがとうございます」
シャウラがぱっと顔を逸らしてしまった。
「このタラシ〜」
リオがつんつんつついてくる。
なんだこいつ。
「ユレイナス公子様、ラケルタ公子様、エリス公子様……えっと、シャウラ公女様も…あの、私も一緒によろしいでしょうか……」
「え?」
見上げると控えめそうに少女が立っていた。
茶色のふわっとした長髪に柔らかい雰囲気の少女で印象的な青い眼に眼鏡をかけている。
僕らが三人で食事をしているとよく令嬢が声をかけて来たけれどこの子が少し違ったのは僕たちでなくじっとシャウラを見つめていたことだった。
「まずはえっと、自己紹介…?ミラ・サダルスウドです。あの、エリス公女様とお食事したくて、あ、すみません馴れ馴れしくて……、皆さまなんてお呼びしたらいいのか分からなくて……」
控えめな彼女はなんだか慌てている。
「シャウラでいいですわ。ええと、私と食事をですか?」
シャウラが驚いた顔で彼女を見た。
彼女はシャウラに見つめられると、赤くなって恥ずかしそうに頷いた。
シャウラやヴェラ、聖女が美人すぎるからあれだけど、ミラも可愛いらしい容姿をしている。
「サダルスウドといえば辺境伯だね。ふふ、シャウラとお友達になりに来てくれたのかな?」
アトリアの言葉にも彼女はこくこくと頷いた。
僕らに近づくための嘘…という感じでもなく、ミラは憧れの入り混じった目でシャウラを見つめている。
「私はクラスが違うので、あまり接点はないのですけど、シャウラ様とお友達になりたくて…!あの、まずはお食事でもと…!」
こうやって話しかけてくるあたり勇気がいったろうということを彼女の態度からも考えると本気でシャウラと友達になりたいのだろう。
「わ、私は構わないですが」
シャウラが僕たちをチラッと見る。
「僕は構わないよ」
僕が言うとリオもオレもと頷いた。
「もちろん私も構わない。シャウラの隣にどうぞ」
「あ、ありがとうございます…!」
ミラの顔がぱあっと輝く。
嬉しいときのヴェラみたいでほっこりした。
それにしてもなんとなく見覚えがあるようなないような…?
ミラ・サダルスウドって聞いたことあるような…?
何となく思い出せなくて一人でうーんと唸った。