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28・帰りの馬車での恋(?)バナ

「今にもゲロを吐きそうな顔をしてどうしました?」


会場に戻ってきた僕を見て、ユピテルがそう言った。

こいつ発言をオブラートに包むとかないの?


「何?お酒でも飲んできたの?」


リオが僕の顔をじっと見る。

アトリアも少し心配そうにしていた。


「いやいや、ちょっと疲れちゃっただけ」


首を傾げるリオを見てからユピテルをチラ見するとニコッと笑った。

聖女と話してたことはカフから聞いてるだろうにわざわざ2人には話さなかったみたいだ。


「ハンカチ見つかったかい?」


「ああ、うん。あったよ」


随分長いこと探してたことになったみたい…。

あれからだいぶ説得を試みたけど、全く全然だめだった。

ヒロインだから大丈夫の一点張りで挙句の果てには結局僕が彼女を好きだから心配しすぎてるみたいな解釈をされて逃げてきた。


「リギルのことだから令嬢に絡まれたんだろう?」


アトリアって妙に鋭い…。だいたい合ってる…。


「まあ、そんなとこ…」


「え、可愛い子????」


「どうかなあ」


見た目は可愛いんだけどね、ヒロインだし…

ってかリオ、すぐにそれか。


やっぱりリギルの顔が良いからかモテるのは自覚している。

まあここは令嬢に絡まれてたってことにしよう…。


「リギル、困っているなら婚約者を決めてはどうだい?早すぎることはないよ」


「もう、アトリアはそう言ってシャウラ嬢と婚約させたいんだろ」


アトリアがバレたかーとはにかむ。


「リギル以外には嫁にやる気はないからね」


うーん、やっぱりアトリアも大概シスコンだ。






「それで、聖女様とは何のお話をしたのです?」


帰りの馬車に乗るなり、ユピテルが切り出した。

切り込みが早いんだよなあ。


「うーん…、世間話だよ」


「わざわざ世間話をする為に呼び出したのですか?」


聖女が僕を上手く利用しようと丸め込むために話しかけてきたって言うわけにはいかないよな…。


「もしかして告白などされたのでは…?婚約者にするならちゃんと段階を踏んで進めませんと…」


「いやいやいやいや絶対ないから!!!!」


嫌すぎるあまり大声で即レスしてしまった。

ユピテルがびっくりしている。


「しょ、正直すんごい苦手なタイプで……、ええと、まあ彼女もたまたまハンカチ拾ってくれただけだし、だからお礼にちょっと話し相手になっただけだし…!!」


「めちゃくちゃ言い訳しますねえ」


まあ、特に何もないならいいですけどねとユピテルが外を見るのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。


でも彼女の言動や性格についてはカフを通してユピテルは大抵把握しているかもしれない。

まあ彼女がカフの前でも奇抜な言動(前世とかゲームとか)を繰り返してればの話だけど。

世話係とはいえ怪しまれることを得策とは言えないし、さすがにそこまで馬鹿じゃないか。


…、そこまで馬鹿だったらまじでどうしよう…。


「ですがエリス公女様の件は満更でもないのでは?」


「んんん!???何言っ…ごほっ…」


慌てて咳き込む僕を見てユピテルはニヤニヤしている。

コイツ、めちゃくちゃ揶揄ってくる。


「アトリア様の言う通り、早すぎるという事もないですよ。エリス公女様は公爵家のご息女ですし、マナーも立ち振る舞いも王太子の婚約者候補なだけあって完璧で言うことはないです。闇魔法云々はユレイナス公爵様方は気にはしませんでしょうし、このまま学園に入学して肩身の狭い思いをするよりはリギル様の婚約者になって地盤を固めた方が彼女の為ですから、アトリア様はああ言うのも無理はないかと」


「待って待って畳み掛けないで…!!!」


なんでユピテルまでこんなシャウラを推してくるんだ。


「むしろ私もエリス公女様以外にリギル様に相応しい方は居ないと思っているのですよ?」


「いやいやいや」


ユピテルが胡散臭い笑みでにっこり笑う。

本気でそう思ってんのかコイツ。


「リギル様も煩わしい事が減って一石二鳥…どころか有益な事しかないと思うんですけどね。リギル様に来る縁談の手紙やらラブレターやら処理する方の身にもなって欲しいものです」


「本音はそれか」


量が多すぎるししばらくは婚約者も恋人も作る気は無いのでユピテルに任せてたのが気に入らなかったらしい。

とはいえそんなあからさまにため息を吐かなくても…。


「まあ性格も良いし、気品もあるし…確かに言うことなしだけど……、王太子の婚約者候補だし、何よりシャウラちゃん本人が王太子が好きだと思うんだよ」


「おや…、鈍感の擬人化みたいなくせしてエリス公女様の気持ちが分かるのですか?」


誰が鈍感の擬人化だよ。


「み、見てればわかるよ」


「おや、そんなに公女様の事を熱心にご覧に…。つまり王太子を好きでなかったら娶ると…」


「言ってないけど?????」


やっぱりめちゃくちゃ揶揄ってきてるじゃん。


「僕よりユピテルの方がお嫁さん貰った方が良いんじゃないの」


「おやおや痛いところを突かれてしまいましたねえ」


全然痛いと思ってないだろ。


まあユピテルは邪竜だから必要ないのは分かってるんだけど。

世間的には何歳ってことになってるんだ?


「ユピテル今何歳なの」


「二千…ああいえ、二十五ですよ」


今二千って言いかけたな?????

隠す気ないのかそれとも僕が邪竜だって気づいてると分かった上でわざとやってるのか。


「じゃあ随分若くに僕に仕えたんだね」


その計算だと十九歳のときってことになる。


「まあ優秀なので?」


「自分で言っちゃう?」


なんかユピテルの図々しいとこというか怖いもん無しなところにはだいぶ慣れてきたな。

まあ邪竜だから実際怖いもんなしなんだけどね。

ユピテルの態度はプライドが高い貴族ならキレてるかもしれない。


「まあそういう風に言ってもリギル様は許してくださいますので」


ユピテルが考えを読んだかのようににっこり笑う。


「まあ、ユピテルが優秀なのは事実だし…」


長く生きているからとか邪竜だからとかは恐らく関係はないだろう。

何もかも優秀なのは本人のスペック…もしくは人間社会に溶け込むために努力した結果なのかもしれない。


「まあ好きな人ができたら教えてよ」


邪竜とはいえ、きっと恋愛が出来ないわけではないと思うのだ。

文献で読んだ話だけど竜族には種族関係なく、運命の番が存在するらしい。

まあヴェラは絶対にやらないけど。


「リギル様こそ」


ユピテルのその言葉に、まあ考えとくと軽く返事をした。


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