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26・丸めこもうと思って饒舌に喋るじゃんって思った

「やっぱりないかなあ…」


ぐるっと歩いた場所を一周してみたけどそれらしいもはなかった。

やっぱり騎士に一回聞いてみるか…。

普通のハンカチなら諦める手はあるけど実はあれはヴェラが刺繍してくれたハンカチなのだ。

絶対に見つけたい。


「あの」


騎士のところに行こうとしたら後ろからか細い声がかかった。

女性らしく優しげな可愛らしい声だった。

振り向くと、ピンクのドレスに白いローブを被った少女がいた。

白いローブには金の刺繍があしらわれていてそれがきらきらしている。

少女が顔を上げるとすぐにピンク色の瞳に目を奪われた。


「何かを探している様子だったので、これでしょうか?」


差し出された少女の手のひらには白地にピンク色の糸で刺繍されたハンカチがあった。

ヴェラの髪と目の色が良いとヴェラに頼んだもので間違いなく僕のものだ。


「あ、ありがとう…」


受け取ろうと手を出して見るけど、少女は僕を見つめていた。


「リギル…ユレイナス……」


「えっ?」


僕の名前を知ってる?


「あの、どこかで会ったかな……」


「あ、ごめんなさい。噂で聞いたのです。お返ししますね」


少女は少し慌てると、僕の手にハンカチを乗せた。

何はともあれ返ってきて良かった。


「これ、大切なもので。良かったら何かお礼を…」


「お礼……、なら、少し話し相手になってくれませんか?普段は教会に引き篭もりぎみで、退屈なんです」


にこりと笑った彼女の顔を見て確信した。

ローブであまりよく見えなかったけど、ゴールデンブロンドの髪もしっかり見えて、極め付けは珍しいピンク色の瞳。


聖女だ。


話を聞いてみるチャンスがここで来るなんて。


「僕で構わないなら。従者を待たせているから少し外しても?すぐ戻ってくるよ」


「それなら問題ありません。従者の特徴は?」


「え、あの、黒髪に赤と金色の瞳で…ああ、ええと、アルケブ子爵です」


「聞いたわね。この方の従者に経緯を伝えておいて」


「分かりました」


聖女がチラッと後ろを見るとさっきまで中で給仕していたはずのカフがいた。

というか全然全く気づかなかったんだけどシノビの人なの?????


「さあ、リギル様、行きましょう」


聖女がにこりと微笑んで僕の袖を引いた。

どこへ?言う間もなく、聖女はすたすた歩いて行ってしまった。






気がつくと奥まった場所、教会の裏の方に来ていた。

パーティーに来ていた貴族などはいなくて、騎士もいない…。

というか、正確には1人いるのだが聖女に命令されて離れた場所にいた。

教会の裏も少し広い庭になっていてさっきいた場所のように桜並木はないけど綺麗な花壇やベンチ、小さな噴水がある。

聖女はそのベンチに腰掛けてフードを下ろした。


「入って大丈夫なの?」


「私は聖女だから特別」


聖女がしーっというように口元に人差し指を当てる。

ウッ、一作目のヒロインだけあってかわいい。


「リギル様もどうかおかけになって」


そう言われて僕は人ひとり分空けて聖女の隣に座った。

ガヤガヤという喧騒は遠く、この場所は静かだ。


「改めて自己紹介しますわね。私はアンカ・オルクス。オルクス男爵の養女で聖女です」


「あ、ああ。知ってるみたいだけど、僕はリギル・ユレイナス。公爵子息だ」


それにしてもどうやって切り出そう?

いきなり貴方は転生者ですか?とか言って違ったらめちゃくちゃ頭おかしい人だと思われるよな。

あそこの騎士も聞いてるだろうし。

そう思いながら騎士の方を見ると何となく分からない違和感がした。

モヤってするけどよく分からない。


「さっきのハンカチは…女性から貰ったものですか?」


「え、あ、はい…?妹にもらって」


「妹さんに?」


アンカはくりっと首を傾げる。

あざと可愛いってこういうやつか。


「そう、なら無くしたら大変ですね。きっと怒られてしまうわ」


「どうかな」


ヴェラは怒るというよりは悲しみそうだ。

それかハンカチを無くして落ち込んだ僕を見て、新しくくれるかもしれない。

そんなことを考えている最中、


「だって、ご両親、妹さんのほうが大事でしょう?」


次に放たれた彼女のその言葉に、背中がゾワッとした。

彼女の“怒られる”はヴェラにではなく、両親にという意味だと言うことにすぐに気づいた。


「……、何で」


そう思うの、と言い切る前に再びアンカが口を開く。


「分かってます。だって私、聖女ですもの。貴方が妹さんを憎んでることも、妹さんばかり優先するご両親を嫌っていることも、手に取るように分かります。入学式も、熱を出した妹さんのせいで貴方はほったらかしにされた。そうでしょう?」


ヴェラの兄の設定で両親とヴェラを完全に見限った話があった。

入学式にヴェラが風邪をこじらせ高熱を出して、母はヴェラにつきっきりになった。


両親に期待してなかったリギルだが、最後の一縷の望みとばかりに入学式を両親が参観してくるのを楽しみにしていた。

当時のリギルは頑張って頑張って頑張って、新入生代表をもぎ取ったからだ。

まあ元々立候補制で忖度ありきで選ばれたわけだけど。

それでも頑張ったつもりだったリギルはどっちかには来て欲しかったけれど、父親に入学式は意味はないのだからお前もヴェラの側にいてやれと言われたのだ。

まあ僕なら入学式すっぽかしてヴェラの側にいるしなんならこのエピソードを知ってたからヴェラが風邪を引かないようにめちゃくちゃ感染対策をさせた。


父様とリギルの仲はゲームでは良好では無かっただろう。

今の僕には両親が観に来てくれたけど、ゲームでは父様は仕事だったし、リギルが甘えないから必要ないのだと思われていたのかもしれない。

今の僕には優しい両親だから、真相は分からないけど。


リギルが何も言わないからすれ違った。それだけ。


「それに小さなころ大切にしてたぬいぐるみ、妹さんに欲しいと強請られて、男の子なんだから要らないでしょうと取り上げられたりしたでしょう?」


今のリギルは僕なのに、さもそうだったかのようにこの子は話している。

間違いなく、ゲームのおまけ話で語られたリギルの設定を話している。


「貴方は愛に飢えているのでは?私、分かるから心配になって、声を掛けたの。貴方のこと、私なら分かるわ。聖女だもの」


「嘘つきだね」


いつのまにか敬語も取れて馴れ馴れしく近づいてきた聖女に嫌悪感を感じると同時に触れてきた彼女の手を無意識に押し戻していた。


「今の僕は違う。君、転生者だろう」


彼女の手を見つめてそう言うと彼女の顔からスッとさっきまでの貼り付けたような笑みが消えた。

こう言ってしまえば自分もそうだと言ってるようなもので


「何、貴方もなの?」


そう返事が返ってくるのは当たり前だった。







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