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25・神聖な桜の樹

「リギル様、あちらに弟がいます」


先に行ったリオとアトリアと追う際、ユピテルがそう言ったので見ている方向を見ると目立つ青髪が見えた。

あまり離れるのは良くないか?と思いつつも警備はしっかりしてるし、2人は見えるとこにいるのでとりあえず立ち止まった。


“ユピテルの弟”は真面目そうな感じで青髪の短髪に眼鏡をかけている。

見た目は僕らと同い年くらいの少年という感じだ。

彼はこっちに気付くとユピテルに負けないくらいの綺麗な礼をした。


「リギル様、改めて紹介致しますね。弟のカフです」


「お初にお目にかかります。カフ・アルケブです」


「初めまして、リギル・ユレイナスだよ」


にこりと微笑みかけるも向こうは顔がぴくりともしない。

ユピテルが無愛想なのです、と苦笑いするけど表情筋があるのか疑うレベルだ。


「公子様。兄がお世話になっております」


「ああ、いや…ユピテルは優秀だからね…むしろ僕がお世話になってるから…」


世話係しつじだし。


「とんでもございません」


ユピテルは僕の言葉に謙遜した言葉を述べるけど、僕は自分が育てたようなもんだと思ってるに違いない。事実そうだし。


「そういえば聖女様はパーティーには参加されないのですか?」


「………、聖女様は人見知りでして…」


なんか今間があったぞ?


「ふむ、そうなんですか……」


なんか理由がありそうだけど……


「まあこういう公式の場って疲れるからね。仕方ないよ」


「ご理解いただきありがとうございます」


とりあえずフォローを入れるとカフが深くお辞儀をする。

まあ僕もぶっちゃけ普通のパーティーにはあんまり参加したくない。

今回は昏明祭ということもあってパーティーと言っても社交の場と違ってライトな雰囲気でわざわざ挨拶したりせず、みんな各々自由に過ごしている。

今いる教会内のパーティー会場だけでなく、門から入ってすぐ右手の広い中庭も解放されていて、外でもパーティーを楽しめる。

でもぶっちゃけ一般国民がやってるお祭りのほうが楽しそうなのでお忍びで参加してたりして…。


あまり話し込んでいると仕事中のカフは怒られてしまいそうなので頑張ってねと言葉を残して彼とはそこで別れた。

思ったよりも深く関わる事態にならなくて良かった。


「あ、そういえばユピテルはブローチの色が違う理由知ってるかい?カフに聞けば良かったかな…」


「ああ、それは…保険、ですよ。万が一魔力暴走が起きた際少しでも軽減できるよう持ち主の魔力の相反する魔力が込められております。ないよりマシってやつですね。ですから加護持ちの方のみ色付きなのです」


めっちゃ納得した。

多少魔力がコントロールできるからと言って、完全に魔力が安定するのは30歳である精霊に愛されし者がパーティーに入れるのはこういう仕組みか。

まあ相当な感情の揺さぶりがない限り大丈夫なことではあるんだけど…。


たまに定期的に体調を崩す人もいる。

一作目の攻略対象にも月に一度魔力が高まりすぎて暴走に近い現象が起きるため反対の属性を持った兄に助けられつつも周りに迷惑をかけないよう何日か引き篭もるキャラがいた。


体調を崩すからそのまま死に至る場合もあれば体外に魔力が放出されて周りに被害を及ぼしつつ、自らの魔法に殺される場合もある。

ある意味攻略対象に転生してたら大変だったろうな。


「色は神官が判断しやすいようにか」


「そうなりますね」


ちなみにブローチはこのまま持ち帰っていいらしい。

記念品で安全装置で入場券なのだ。


「2人ともどっか行ってた?」


リオたちのところに行くと、リオはお口をもぐもぐさせていた。

普段ならこんなことしないけどお祭りだから気が緩んでいるらしい。

食べながら喋るのはお行儀悪いぞ。


「弟がおりましたのでリギル様に紹介しておりました」


「ああ、さっき言っていたね。ゆっくり話してきて良かったのに」


「弟も仕事中ですから」


アトリアの言葉にユピテルはありがとうございますと微笑んでからそう言った。

リオは弟見たかったなぁと少し残念そう。


「中庭に行こうかという話をリオとしていたんだけど、リギルはどうしたい?」


「中庭か」


アトリアの話を聞くに中庭には立派な桜の樹が咲いているらしい。

原初の聖女の桜から株分けしたものが育ったもので毎年この昏明祭の時期は満開になっている。

門を通ってから教会内に入るときちらっと桜並木が見えたけど、しっかり見てみたい。


「桜、見てみたいから行こうかな」


「わあ、じゃあ行こ行こ」


リオが僕の背中を押す。


「わ、そんな急かさないでよ」


「慌てると転ぶから気をつけてくれよ」


アトリアの言葉にリオがはーいと返事をすると背中を押すのをやめてくれた。


教会から出て右手を少し歩くとピンク色の景色が広がっていた。

淡いピンクの花が舞い散る中庭は綺麗だ。

昔…、前世で妹と桜の花見に行った事を何となく思い出して、ヴェラと見に来たいなと思った。


みんな中にいるものだと思っていたけど外で桜を楽しんでいる人も結構いる。

こちらにもテーブルがあり料理がある。

そういや桜を使ったお菓子とか前世ではあったけどこの世界では神樹だしやったらマズいんだろうな。

桜の塩漬けとか…。


「すっげー綺麗!!」


リオがわあっと声をあげて感動している。

僕も概ね同意だ。


「ピンクって神聖な色なんだなあ」


「それはヴェラがやっぱり女神ってこと?」


「ヴェラちゃんピンク目だけどさ」


リオがこれだからシスコンは…という目で見てくる。

アトリアは僕らのやりとりにくすくす笑っていた。


「教会にしか咲いてないし、持ち出してもいけない神聖な花だからね。昔、昏明祭で桜を手折った貴族が国外追放されたのは有名な話だよね」


アトリアがそう言うとリオがヒェッと情け無い声出す。

神樹って言われてるくらいだから折ったりしたらまずいのは分かるだろに、馬鹿だなあ。


「折らないよう気をつけなきゃ…」


「流石に故意じゃなければ平気だと思うけど」


そう言ってもリオは少し桜から距離を取った。

案外メンタルと気が弱いんだよなこの男。

まあ、だから精神病んで人間不信からのヤンデレ化するんだろうけどね…。


しばらく景色を堪能するとまた教会内に戻ろうかと言う話になった。

リオが桜にウッカリ触ると怖いからヤダと言ったのもある。

戻る前にトイレにでも行こうかなと思ってからふと


「あれ、ハンカチ落としたかな」


ポケットにハンカチがないことに気づいた。

来る時ちゃんと確認したはずだから落としたのかもしれない。


「探して参りましょうか」


「あー、ううん。自分でちょっと見てくるよ。教会内かもしれないから三人は先に戻って。ユピテルは教会内の神官に確認しておいて。ちょっと歩いたとこ見てくるだけだからすぐ戻るよ」


見たところ中庭にも騎士が何人か駐留していたし、安全面では問題ない。


「分かりました。あまりお戻りになられなかったらこちらに来ますからね」


「うん、宜しくね」


「リギル気をつけてね。ヴェラちゃんに見せたいからって桜折っちゃだめだよ」


「しないよ」


リオの心配は桜についてなのか。

嘘ついて桜を盗もうとしていると思われるなんて心外だ。

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