表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/174

24・昏明祭 序

昏明祭はある意味では国全体の祭りだ。


貴族は教会で魔法を使って古の魔族、ひいては魔王を打ち倒した勇者せんぞと聖女を祀って祝い、国民は広場で教会の特別な食事を食べたり、お守りを買ったりして自分たちも屋台を出して祝う。  


広場では男性を勇者、女性を聖女に見立ててそれっぽい衣装…、前の世界風に言うとコスプレをして踊ったりするらしい。


貴族がするのは教会内のパーティーだからまた違うんだけど、男性は剣を模したブローチ、女性は聖女の花である桜を模したブローチを着けたりする。

桜は原初の聖女が持ち込んだ種が芽吹いたものらしくて聖女の瞳と同じピンク色であることからも神樹とされている。

光の精霊の加護を受けた(ピンク)色の瞳の少女。

つまり代々それが聖女だ。


原初の聖女は異世界転生者…ではなく、転移者だったのかなあとか考えてみる。

転移者なら桜を持ってても不思議では…うーん…不思議だけど……


あれこれ馬車の中で考えているうちにリオとアトリアと待ち合わせした教会から少し手前のエリアに着いた。

実は今日は昏明祭当日である。


「リギル」


先に居たのはリオだった。


「リオ、早いね」


「うんちょっと待ち合わせより早く来ちゃってせっかくだからローブ着て出店も見てきちゃったよ〜」


ほらとリオが見せてきたのは木彫りの桜の形のストラップだった。

聖女の光魔法が多少込められていてお守りになるらしい。

触らして貰ったけど魔力を感じる感じはなかった。

魔力がある人間は多少感じるんだけど。


まあ全部に込めるなんてそりゃ無理だしさすがに聖女の光魔法がってのは噂かあ。

魔力を持たない一般の人たちは分からないしね。

こういうお守りって気持ちが大事だ。


「遅かったかな?」


向こう側に停まった馬車から歩いてきたのはアトリアだった。

僕たちが早かっただけで時間ピッタリだ。


「ううん、時間ピッタリだよ」


僕がそう言うと良かったとアトリアは胸を撫で下ろした。


「ユピテル、今日は宜しくね」


アトリアが僕の後ろに控えていたユピテルを見てにこっと微笑む。

今日はユピテルが三人の護衛だ。


「いえ、私のような使用人にも礼を尽くしていただきありがとうございます。アトリア様。今日はお任せ下さい。しっかり警護しますので」


「頼りにしてるよぉ」


リオがユピテルの背中をポンっと叩く。

こっちは気安い。


「まあ教会の中にも騎士はいるからね。ユピテルも無理しない程度である程度自由にしていていいよ。使用人って言っても魔法の使える貴族だろう」


そうなのだ。

偽りの身分だろうけどアルケブは子爵家らしい。

ユピテルはアルケブ子爵、なのだ。

僕んちみたいな公爵家や王家になると使用人もある程度身分があるのは珍しくはない。

専属執事、補佐官など重要な役割は特に。


「弟にも会いたいだろうしね」


僕が言うとアトリアとリオが同時にえっと声をあげた。


「弟いるの?」 


「います。聖女の世話係です。見習いですが…」


「じゃあユピテルも自由にしていなね。私たちはなるべく気をつけておくから。まあ貴族しかいない場だし、護衛はいらないと思っていたけど」


「ユピテルが行きたそうだったから連れてきたんだ」


「弟居るなら来たいよねえ〜…」


リオが質問して、アトリアがユピテルに気を遣ってくれて、僕が説明する。

僕の説明にリオはうんうんと頷いていた。

わかるわかるとか言ってるけど一人っ子じゃん?


「お気遣いありがとうございます。パーティーの最中少しだけ席を外すかもしれません」


「もちろん、構わないよ」


まあアトリアの言う通り警備はバッチリだからわざわざ使用人も要らなかった。

ユピテルが楽しみにしてたから連れてきただけ…。


…、ユピテルに絆されてはないぞ。


「あちらが受付ですから立ち話していないで行きましょう」


ユピテルが見やったのは教会の入り口。

大きな門が口を開けていて神官が何人か入場者にブローチを配っている。

これは正当な参加者の証でまあ国民のコスプレの代わり。


「リギル・ユレイナスです」


「リギル公子様、お越しくださりありがとうございます」


「リオ・ラケルタです」


「リオ公子様、お越しくださりありがとうございます」


「アトリア・エリスだ」


「アトリア公子様、お越し下さりありがとうございます」


神官に名前を名乗ると神官は同じように丁寧に返事をしてから剣のブローチを手渡していく。

僕のブローチには小さなダイヤがはめられていたけどリオは緑でアトリアは紫だった。

なるほど属性によって違うらしい。

僕は加護持ちじゃないから白ってこと?

それにしても貴族をしっかり把握しているのが良く分かる。


「ユピテル・アルケブです」


「ああ、これはアルケブ子爵様」


ユピテルが名乗ると神官が明らかに違う反応を見せたけど、理由は直ぐにわかった。


「カフは息災ですよ。今日1日は聖女の世話係の任を解かれて会場の手伝いとしておりますので良かったら顔を見ていってください」


「ありがとうございます。わかりました」


神官はにこりと笑うとユピテルにもブローチを手渡した。

僕と同じ白のダイヤが嵌め込まれたものだった。

ちなみに炊き出ししたり、ブローチ配ったり大丈夫なのか?と思うかもだけど、教会にはたくさんの貴族が寄付してるから大丈夫なのだ。


「本当に弟働いてるんだねえ」


リオがへえーと声をあげた。

ユピテルはなんか生活感ないし意外らしい。

眷属って知ってなかったら僕だって納得してない。


「そういえば聖女ってどこにいるんだろう?」


会場に入るとリオがキョロキョロとあたりを見回した。


「最初に聖女が挨拶をした後はパーティーに混ざるって話だからまだ控えの部屋じゃないかな」


今日の昏明祭についてはユピテルから話をきいて、例年の流れからそうだろうと思う。

聖女と少し話せたらいいんだけど難しそうだなあ。


しばらくすると、パーティー会場の奥の扉から聖女が神官を何人か伴って出てきた。

挨拶といってもやっぱり形式的なものでどうやら台本でもありそうな感じ。

最初に見たときみたいな違和感は感じなかった。


「…、では皆様お楽しみ下さい」


「あれ、聖女ちゃん下がっちゃった」


リオがちょっと残念そうな声をだした。

パーティーに混ざるって聞いていたんだけど、聖女は奥の扉から帰っていってしまった。


「お色直しかもしれないよ」


アトリアのセリフに結婚式じゃないんだからとぷちツッコミを心の中で入れる。

でもまあ無くはないな。


「とりあえずいっかあ。あ、あっちに美味しそうな料理があるよ行こ」


「ふふ、そうだね」


アトリアとリオが料理を取りに行ってしまったので僕とユピテルもゆっくりついて行った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ