23・ユピテルやけにニッコニコ
「中央教会に行ってみませんか?」
急にユピテルがにっこにこでそう言ってきた。
春休み中のことである。
こっちは今新学年から始まる一作目本編について色々思案してるところなんだけど。
しかも中央教会?ヒロインの本拠地じゃん。
「なんで?」
わざと不機嫌そうに答えてみるもユピテルは全く意に介さない。
「面白いものが見れるかもしれないからです」
理由がめっちゃくちゃふわっふわしてら。
「貴方にとっても何か利益があるかも知れませんよ?」
利益、とは……
「それに何も今日すぐという話では。ほら今週末に『昏明祭』があるでしょう?リオ様やアトリア様もお誘いになってはどうでしょうか?」
「昏明祭……」
昏明祭…は昏い空が明るくなって、ぼんやりしていた光がハッキリしたということを祝う祭り。
ちょっと分かりにくいけど、つまりは嫌な事が終わって良かったねーみたいな。
この世界には人間以外に亜人種(獣人、エルフ、ドワーフみたいな)と魔族、そして人間には把握されてないけどユピテルみたいな幻想種がいる。
精霊はちょっと特殊なので置いておいて…。
その中で魔族は今は人間に友好的な種族しかいないけどその昔は人間や亜人種を支配して好き勝手しようとした魔王みたいなのとその一族がめちゃくちゃ悪さをしてたらしい。
その魔族の一族を悪魔族、または古の魔族と呼ぶんだけど、当時のその古の魔族を退治したのが聖女と王族の先祖である最も強い魔力を持って生まれた勇者だったって話だ。
これはこの国の始まりであるので建国のときの話でもあるんだけど…。
昏明祭はその建国の聖女の生誕と悪い魔族である古の魔族から救われたことを感謝して祝う教会が主催のお祭り。
各教会でやるけど中央教会のがやっぱり一番豪華で教会の敷地が全開放されて聖女も参加する。
まあ教会に入れるのは魔力を持った貴族だけだけど。
庶民向けには教会が特別な料理を広場で炊き出ししたり、お守りを売ったりしている。
ちなみに聖女の生誕の日なので建国祭とはまた別である。
こっちは教会も祝うけど国が中心になる祝日だし。
一応毎年あるんだけど教会を使うともあって小さな子供や魔力の安定してない11〜14歳の子は入れない。
だから去年までは全く縁がなかったんだけど…。
「それなら行ってみようかなあ……」
純粋に興味もあるけど聖女も普通に参加するって事なので挨拶くらいはするだろうしちょっと会話するチャンスがあるかもしれない。
そうなればちょっとは何か進展があるかも…。
「護衛に付きますね!」
「あ、うん」
ユピテルがめっちゃきらきらした目をしている。
行きたかったんだなあ…かわいいとこあるじゃん…?
「実は教会で弟が働いておりまして」
んんんん???弟????
「聖女様付きのお世話係ですので互いに忙しく合う時間もなく…」
聖女様付きのお世話係??????
「昏明祭であれば会えるのではないかと。是非リギル様にも紹介させてください」
「う、うん…?」
邪竜に弟?聖女付きのお世話係???
寝耳に水である。
ゲームでもそんな話はなかったけどどういうことだ…。
「ちなみに名前は?」
「カフ・アルケブです」
あーーーーー………
めっちゃくちゃ心当たりしかなった。
「ちなみに弟もう1人いたりする?」
「ああ、はい、王家で執事見習いをしてます。イザールという弟がおります」
カフとイザール。双子の竜人だ。
カフは水竜、イザールは火竜で邪竜であるユピテルの眷属…、まあ分かりやすく言えば家来ってこと。
ゲームでも名前だけは登場してて、サブキャラみたいな扱いだったはず。
立場的には僕と同じ枠だ。
2人とも片目が透明の目…つまり、黒目が白いわけだけど、その目はユピテルから与えられた力が宿っていてユピテルはその目で2人の見た景色を把握できる。
それを使ってヒロイン(ヴェラ)の見張りとかさせていたし。
弟というのは便宜上…のはず。
にしても教会と王宮って。
逆になんでマジでお前ここにいんの?????
「似てる?」
「養子なので似ておりません」
そりゃあそうか、血縁関係はないのだから。
「じゃあ、会えるといいねえ…」
この流れだと会う羽目になりそうだけど。
ユピテルにも関わる気はなかったのに他の竜とも関わるなんて胃が痛い。
まあカフはユピテルに忠誠的で大人しくてクールだったはずだから、イザールよりましか。
イザールは確かめっちゃ陽キャでテンション高いし惚れっぽい性格をしていた。
ルートによってはヒロインに惚れて逃がそうとして始末されたりとか……だから悪い子じゃないんだけど多分苦手なタイプ。
ユピテル(隠し)ルートにしか出ない双子だから供給が足りないってファンが泣いてたなあ…。
「とりあえず後でリオとアトリアに手紙書くから送ってくれる?」
「もちろん」
アトリアは聖女の攻略キャラだから連れてくのまずいかなあとも思うけど…ユピテルと2人きりってのもやだしリオだけ誘うのもなんかなあって感じ…。
最近三人でいる事が多くてどうにもセットって感じがしてしまっている今日この頃だ。
アトリアルートでは兄を取られると思ったシャウラが魔力の暴走を起こして死んでしまい、アトリアが精神を病んで自殺するルートがあった。
正直そんなの嫌なので細心の注意を払う必要はありそうだ。
ついでに聖女が転生者か否か確かめたい。
転生者なら情報共有ができるかもしれないし、転生者じゃなければコッチ(ヴェラ)ほどじゃないにしろヒロイン死亡エンドはあるから陰ながら回避してあげたい。
悪役令嬢もヴェラも聖女も僕の友達もハッピーエンドが僕の理想だ。
王太子の根性は叩き直したいけどさすがにそこまでは手が回らないので他の攻略対象には自分でなんとかしてもらおう…。
もちろん最優先はヴェラの幸せだけどね?
「どうですか?リギル様も楽しみになってきたのでは?」
ユピテルがニコニコ笑いながら僕の顔を覗き込んできた。
「まあ、ちょっとね」
チャンスはチャンスだしね。
でも祭り自体も確かに楽しみなので、そこそこ楽しもうかなあ。
それからヴェラにはたくさんプレゼントを買って帰ろう。
ヴェラは行けないから拗ねるかもしれないし。