22・シャウラの誕生日会
誕生日会の招待状が届いた。
宛先は僕にで、エリス家からのものだ。
アトリアの誕生日会……、ではなく、シャウラの誕生日会の招待状。
何故オブ何故。
いやまあなんとなくうっすら理由は分かっている。
アトリアのことだからこれを機に妹と仲良くさせたいのだろう。
そんなに王子が嫌いか。(二回目)
というか婚約者候補の誕生日会なんてその件の王子も来るんじゃなかろうか…。
ウチは王族筋の公爵家とはいえ遠い親戚だ。
とはいえ会ったことはないし接点もなかった。
ぶっちゃけ言うと関わりたくない。
まあ王子も猫を100匹くらい被って居るだろうし、目立ったトラブルとかになるとは思わないけど…。
アトリアは仲の良い友人だし友人の妹の誕生日会だからまあ誘われたなら参加して当然だろう。
ついでかリオも誘われているみたいだ。
……、と、言うわけで、今日はその誕生日会に来てしまったわけだけど…。
そこで僕は何故か女子に囲まれていた。
「リギル様はどうしてシャウラ様の誕生日会に?」
「まあ、アトリア様とリギル様が親友だと言うのは本当でしたの?」
「リギル様はアトリア様と恋仲ですの?」
と、このように質問責めに遭っている。
だいたい真実を笑顔で当たり障りなく答えていた。
なんか変な質問混ざってなかった?????
みんなシャウラと同年代の令嬢ばかりだけど、シャウラ嬢の誕生日会なのにあまりシャウラ嬢に話しかける娘は少ない。
シャウラは闇の精霊の加護を受けてるせいで避けられているのは知っていたけどここまで露骨だとは思わなかった。
みんな義務で来ましたと言わんばかりだ。
そのせいで若干雰囲気が悪いのに僕ばっか話しかけられるのは本当に最悪だ。
なんとか質問責めを振り切るとやっとアトリアとシャウラのところまで辿り着いた。
「シャウラ嬢、お誕生日おめでとう。心からお祝いするよ」
僕がシャウラにそう挨拶すると彼女は少しだけ驚いた様子だった。
「あ、ありがとうございますわ…、リギル様…」
「ささやかだけどプレゼントも用意したから、後で執事を通して渡すね」
「プレゼント…」
シャウラがどんなものを喜ぶか分からないから、無難に髪飾りを選んできた。
シャウラの髪色に映える明るい紫色の蝶があしらわれた物だけど、気に入ってくれるかなあ。
「良かったね、シャウラ。リギルありがとう。それから大変だったね」
アトリアがクスッと笑う。
見ていたならマジで助けてくれ。
「あ、そういえば王太子様は…」
まだ姿を見ていない。
これから来るんだったら早めに退散しておきたい。
でも、その言葉にシャウラ嬢がぴくりと肩を震わせた。
「…、アルファルド様は…お忙しいみたいで来られませんわ」
マジかアイツ。
まだ正式に婚約者ではないとはいえ、最有力候補の誕生日会に誘われて来ないとかある?
僕でさえ来たのに?????
王太子、アルファルド・サン・プラネテス。
見た目こそ人畜無害で、性格も表面上は優しいと見せかけてるが、やっぱり設定通り他人には冷酷で腹黒のようだ。
元々聖女の力を利用しようとヒロインに近づいた節もあり、シャウラに対しても同じだ。
まあヒロイン相手なら改心していくけどね。
改めてヒロインのちからってすげー。
「では王太子様のぶんも僕がお祝いするよ」
こんなんじゃ慰めにならないかもしれないけど。
シャウラは王太子が好きなはずだから相当ショックだろう。
誕生日にこんなの可哀想すぎる…。
僕が微笑みかけるとシャウラは少し恥ずかしそうに微笑み返してくれた。
悪役(扱いされる)令嬢とはいえメインキャラで攻略キャラの妹はさすが可愛い。
「…、リギル様はお優しいですわね。普通にお話してくださいますし…」
普段闇属性のせいで避けられるからそんな風に言うのだろう。
これじゃアトリアが心配するのも仕方ないなと思った。
シャウラは良い子なのに。
「シャウラ嬢は普通の女の子でしょう。避けたりする方がおかしいんだから。気にすることないよ」
「え………、…は、はい…」
「今日は連れて来れなかったんだけど、僕にも妹がいてね、また今度機会があれば仲良くしてくれるといいな」
「わ、私が?いいのですか?」
「もちろん。妹も喜ぶよ」
ヴェラは闇がどうとか絶対に気にしない。僕の天使だから。
シャウラとも仲良く話したりしてくれるだろう。
少しでもこの子の心労が減れば良いなと思う。
「やっぱりリギルだよねえ…」
アトリアが「シャウラを嫁にやるのは」という枕詞がつきそうなセリフを呟く。
とりあえず聞こえなかったことにしておこ。
「シャウラ嬢も来年には魔法学園に入るんだよね」
「は、はい。入学試験の勉強中ですわ」
入学試験なんて形だけだから勉強しない貴族は多いんだけどシャウラはやっぱり真面目だ。
ゲームでも真面目な良い子だったしね。
真面目すぎてヒロインへの注意が行き過ぎてるように見られたり、ヒロインに嫌がらせした取り巻きのしたことの責任を取ったり、王太子にもしっかり注意をしてしまってウザがられたり…。
良い子なだけに損してしまっているのは本当に辛いとこだ。
シャウラが入学をしたら追放されたり死亡エンドにならないようにくらいには気にしてあげたい。
「もう入学まであと少しだけどね」
「まだ4か月ありますわ」
アトリアの言葉にシャウラはツンとして返事をする。
アトリアには若干ツンデレなのはやっぱりある意味アトリアに甘えてるんだろうな。
シャウラの誕生日、つまり今日は12月の半ば。
一作目の物語開始までもう結構近づいていた。
「あ、リギル〜、アトリア〜」
お、この声はリオだ。
「ああ、シャウラ様、お誕生日おめでとうございます」
背の高い僕らに隠れてシャウラが見えなかったのだろう。
近づいてきてシャウラに気づいたリオは頭を下げるとそう言った。
「リオ様、ありがとうございます」
「えへへ、友達の妹さんですから…」
「…お兄様のお友達は優しい方ばかりですわ」
シャウラはそう言って微笑んだ。
微笑んだ、けど、少し悲しそうな気もした。
ヴェラは入学前だけどお茶会でたくさんお友達ができたけど、シャウラは闇の属性を怖がる令嬢が多いせいか友達がいない。
お茶会に参加しても主催してもなかなか避けられてしまうみたいだ。
触らぬ神に祟りなしなんてことわざあるけど、この子がわざわざ誰かに危害を加える子じゃないなんて見てれば分かるのに。
「僕やリオはアトリアの友達だけど、シャウラ嬢ともそんなに歳は変わらないし、お友達だと思ってくれていいんだよ」
そう言うとシャウラは目を丸くしたので、僕たちは令嬢じゃないから嫌かもしれないけど、と付け加えるとシャウラはふふっと笑みをこぼした。
「…、ありがとうございます。嫌じゃないですわ。新しいお友達が二人も…、一番嬉しい誕生日プレゼントですわ」
「じゃあ、リギルって呼んでね」
「えっ」
「あ、オレも。リオでいいよ」
「ええっ」
僕たちの言葉にシャウラはあわあわしてしまった。
まだそれはハードルが高くてと申し訳なさそうにしている。
僕たち三人はそんな様子のシャウラを優しく見守る。
最終的には少しずつ頑張ると言ってくれた。
周りもその様子を見ていたのか少しずつ会場の雰囲気は良くなっていった。
露骨にシャウラを避けてた子たちはばつが悪そうにしてたけど、話しかけるか迷っていた子たちはシャウラにおめでとうございますと声をかけている。
最初は戸惑っていたシャウラも嬉しそうに令嬢たちと会話をし始めていた。
この様子なら友達もできるんじゃなかろうか。
シャウラは話しかけにくい雰囲気も出てたしね。
本人が意地になってしまっていたのもあるだろう。
だから令嬢たちも僕たちと話すうちに雰囲気が柔らかくなるシャウラを見て話しかけたくなったんだと思う。
邪魔しないように僕らがシャウラの側から少し離れるとアトリアがありがとうねと言ってきたので、僕は何もしてないよ、なんて澄ました返事を返してみた。




