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18・希うは妹の永遠の幸せ

「奥様が半月後に旦那様のスケジュールを押さえたと仰っていましたよ」


帰ってきた僕を制服から着替えさせながらユピテルがそう言った。


「半月後か」


悪くない。むしろ思ったより早かった。


それにしても家族なのにこうやってなかなか話ができないのは寂しい。

いや、もちろんたわいない話なら食事の時間や仕事の手伝いをしながらとか出来るから会話が少ない訳ではないんだけど。

重要な相談ともなるとなかなか難しい。

食事や仕事中は家族だけというわけでもないからだ。


ゲームのリギルはこうやって会話や相談の機会を逃してって捻くれてしまったんだろうな。


着替え終わったころ、部屋をノックする音がしたのでどうぞと答える。


「おかえりなさい、お兄様」


ヴェラが扉を開けてひょこっと顔を出した。

いちいち可愛い。


「あのね、今日はお兄様にお願いがあって…」


「お願い?」


えーとね、とヴェラがもじもじしている。


「久しぶりに本を読んで欲しいなあって…」


「え?」


ヴェラに絵本とかを読んであげるのはヴェラはまだあんまりちゃんと文字を読めなかったから読んであげていた。

ヴェラが勉強をして文字を読めるようになってきてからはちょっとずつなくなっていたんだけど…。


「…、あの、ヴェラ…わ、私、お兄様に本を読んで貰うの…好き…だったから…、だめ?」


瞳を潤ませて(いたような気がする)上目遣いをされて心臓を撃ち抜かれた。

最近一生懸命丁寧な口調を練習してたのに昔みたいな口調になってるのも最高に可愛い。

100点満点。マジ天使。


「もちろん、構わないよ」


微笑むとヴェラの表情が明るくなってにこーっとご機嫌になった。

萌え殺す気だ。


「じゃあ、約束!晩御飯の後で!」


ヴェラはそう言い残すと部屋を出て行く。

パタンとドアが閉まる。


「かっっっっわいすぎない!?何あれ!?天使!??それとも妖精かなんか!??ヴェラ自身が実は精霊だったオチとかある!????」


「ないです」


ユピテルが冷静にツッコんできた。

いや全くないって事はないかもしれないだろうが。


「羽根生えてたよ?」


「腕の良い医者でも紹介しましょう」


いつもの事なのでユピテルのスルー力が上がっている気がする。冷たい。

あの可愛いヴェラを前にして冷静な方が信じられないよ…。





夕飯が終わると、僕の部屋に来てヴェラと一緒にソファに座った。


「お兄様、これがいいです」


ヴェラが持ってきたのは短編小説集だった。

まあ流石に絵本は卒業してしまったみたいだ。

令嬢の間で流行っている短編小説らしい。

内容はどうやら少女マンガのような感じだった。


「お茶会でできたお友達におすすめされて…」


「へえ…」


ヴェラはお友達がたくさんいるみたいだ。

まあ可愛いし良い子だもんな、僕のヴェラ。

男でも女でも小さな頃は友達づくりにお茶会に参加するものだけど、そういや僕はリギルになった頃から当主教育、勉強やら父様の仕事の手伝いやら、忙しくて行ったことなんてない。

リギルはコミュニケーション能力皆無だったので友人も無だったし、だからこそ母様がリオをうちに来るように取り計らったんだろうと今では思う。


「ヴェラは仲良い子沢山出来たのかな?」


「はい、もちろんみんな仲良くしてくれます」


「そっか。良かったねえ」


散々乙女ゲームもやったけど、こういう西洋風の世界が舞台なのは悪役令嬢が現れて主人公がいじめられる…みたいなのは結構あったから心配してたけど大丈夫そうだ。


「今度はうちでもお茶会を開くのでお兄様も良かったらお顔を出してください」


「邪魔じゃない?」


「えへへ、私が素敵なお兄様自慢したいんです」


ヴェラが少し照れたようにふにゃりと笑った。

僕も全世界にヴェラのこと自慢して回りたい。


「お兄様は朗読がお上手なので、お茶会で朗読会をしてくれたら皆さん喜ぶかも…」


「それはちょっと恥ずかしいかもなあ…」


でもヴェラに頼まれたらやっちゃう…。


「でもやっぱり僕はヴェラだけに読んであげたいかな…。これ色んな話の短編集だけど、どれがいい?」


「あ、そうですね…」


しばらくして、短編を二つ読んだところでヴェラがうとうとしてきた。

そのまま寝てしまったのでそっとヴェラの部屋に運ぶことにする。

ヴェラがもう少し小さな頃なら一緒に寝てたんだけど、使用人に変な誤解を受けたらヴェラの将来が心配だしね。


ヴェラを部屋まで連れてきてベッドに寝かせる。

月明かりだけが部屋を照らしていた。


ヴェラは起きる事はなく、すやすやと寝息を立てていた。

僕は少しだけ、とベッドに座るとヴェラの髪を撫でる。


半月後、ヴェラにも両親と相談したあとに魔力枯渇症について話すことになるかもしれない。

その過程ではきっとヴェラの目の前で魔法が使えないことや、ヴェラが魔法を使えないかもしれないってことを話すことになる。

そしたらこの子がショックを受けないだろうか、ちょっと心配だ。


ヴェラが魔法学園に通うことになったらどうなるだろう?

魔法を使えなくて虐められたりしないだろうか。

それまでに病気が治ればいいけど、無理だったらそもそも魔法学園に入れないかもしれない。

そうなったら今仲の良い友達とはどうなるかな、仲間外れにされたみたいでヴェラが傷つかないだろうか。


心配は尽きないし、心配したくなくても気になってしまう。

ヴェラの幸せの為になるべく早くなんとかしてあげたい。


まだ少し時間がかかるかもしれないけど、必ず幸せにするから待っていてね、ヴェラ。


ヴェラがううんと寝返りをうつ。

このままだとヴェラを起こしてしまうかもしれないと思って、そっと僕はヴェラの部屋を出た。


妙に明るいなあと思って、廊下の窓から外を見ると満月だった。

この世界にも太陽と月も星もある。

地球と同じだ。同じで違う。


「あ、流れ星…」


そうか、流れ星もちゃんと流れるんだ。


流れ終わってしまったし、遅いけど僕は空に向かって『ヴェラがずっとずっと幸せでいますように』とお願いをした。


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