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156・とある夜(カフside)

「準備はできましたか?」


声をかけると少女のピンク色の瞳が揺れた。

彼女はぎりぎりまで吟味して中身を詰め込んだ小さなトランクをぽんと軽く叩くとこちらを見る。


「できたわ」


少し前まで僕が急かす声にイライラしてした彼女はふふんと得意げそうに鼻を鳴らす。

どうやら必要なものを全部詰められたらしい。

荷物が最小限なのはこの教会からこっそり姿を消すからだ。


「出発までまだ少しだけ時間がありますね」


「今更だけど、カフは残ってもいいのよ」


僕への返事の代わりに少女は早口でそう言った。

残ってもいい、と言うわりには心配そうにそわそわしているのでつい心の中で失笑した。


「それは出来ません。監視役でもありますから」


「監視役…ね。そうね。そうだったわ」


ほっとするような納得いかないような複雑な表情を浮かべた彼女はトランクの方に再び目を遣った。

人間の価値観を持ち合わせていない僕でもその物憂げな表情を見て、少女は、アンカは美しいのだと、思う。

ただし、黙っていればですけれど。


「私、みんなに好かれたかった。誰にでも好かれるスーパーヒロインになりたかったの」


その言葉にほら言わんこっちゃない、と呆れる。

やっぱりちょっと頭がおかしいのだろう、スーパーヒロインって何なんですか?


というか、シャウラ様を邪険に扱った時点で“但し男性限定で”と注釈が付いているのは間違いないのだが。


「魅了を使っていては本当に好かれてるとは言えないのでは」


呆れてついそう言ってしまうと彼女はゔっと図星を突かれたように唸った。

淑女が出すような声ではない。


「まあそうね、リギルがいなかったらみんなに嫌われて破滅してたのかしら」


コホンと咳払いをして誤魔化してから彼女はそう言った。

まあ最悪の事態が避けられたのは確かにリギル様のおかげなのかもしれない。

でもまあどうなったかなんて今となってはわからないが。


「さあ、どうでしょう」


「まあ、今も結構嫌われてるけど」


僕のはぐらかしに彼女はリギルも助けてはくれたけど、私のこと嫌いよねなんて珍しく自虐的な事を言い出した。

さすがに失恋の傷がまだ癒えていないのでしょうか。


「…、確かに貴女は自己中でわがまま…」


「ちょっとそこまで」


僕の語り出しに険しい顔でアンカが止めた。

ここで止められてしまっては、ただの悪口なので構わず続けた。


「でもその神経の図太さは嫌いじゃないですよ。ちょっと気が狂ってるところも飽きませんし、好きな人の気を引く為に嫌がらせをする様は滑稽で愉快でしたし」


「何も褒めてないじゃない!!!」


アンカが叫んだ。


はて?僕的には最大限褒めたつもりでしたが、この方は本当にわがままでいらっしゃる。


「まあ、そんなわけなので、面白い貴女と一緒にいたいから僕はこの役目を承りました。ですから貴女をほっぽり出したりはしないのでご安心ください」


そう言うと彼女は顰めっ面もそのままに首を捻って数秒考えた。


考えた結果、


「私のこと好きなの?」


という答えに行き着くのは彼女らしいというかなんというか。


「自惚れも良い加減にしてください」


ピシャリとそういい返すとそこまでハッキリ拒否らなくてもいいじゃない!と不満そうにしている。

この人はハッキリ言わないと分からないと一緒にいるうちに学んだ。


「だって僕は貴女の弟なんでしょう?」


そう言って微笑むと、目の前の聖女は目をぱちくりさせた。

あんた笑えたのね?とか失礼なことを言ってくるが、この元聖女が失礼じゃなかったことなどないので僕は全く気にしません。


まあ、人の子の一生など竜の眷属の僕にとっては短い一生。


死ぬまで見守ってあげますよ、僕のお嬢様。





久しぶりの更新失礼します!更新止まっていてすみません…!ゆっくり頑張ります!


ちなみにとある使用人目線の〜などはカフsideなどでありながら神視点だったのはカフやイザールの見たもの聞いたものを共有するユピテルの目線だったりします。

これは正真正銘カフ視点です。

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