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153・エリス夫妻とお茶会

「ユレイナス公子、わざわざ来て頂いてすまないね」


出迎えてくれたエリス公爵はアトリアによく似ている。

雰囲気は全然違うのだが、顔立ちが。つまり、顔はイケメェンなのだ。アトリアを大人にして、短髪にしたらこんな感じだろう。

まあ顔が良いクズってことか。でもアトリアのほうがイケメンかも。


髪色は明るめの紫色で、やはりエリス公爵家の家系の髪色なのだろう。リオの家系は緑だし、この世界ってカラフルだよな。


瞳の色は濃い赤色で、エリス公爵は炎の加護持ちらしいので瞳に加護の影響を受けたのだろう。

アトリアも雷の加護の影響か夫人からの遺伝か、金色の瞳の色だ。


豪華な応接間に通されて、公爵夫妻と向かい合って座る。シャウラは僕の隣だ。

顔合わせ&簡素なお茶会なので使用人がお茶やらお菓子やらを運んできた。


公爵夫人は金色の瞳を伏せてシャウラの方を絶対に見ようとはしなかった。

夫人のほうも顔立ちだけはシャウラに似ていて、長い水色の髪を後ろに纏めていた。


「本日は突然の申し出に快く応えて下さり、お招きいただきありがとうございます」


僕は二人に全力の営業スマイルをする。夫人の表情はどこか浮かないが、公爵は機嫌が良さそうだ。


「婚約式の前には私もユレイナス公子にお会いしたいと思っていた。こちらこそ来て頂いて光栄だ」


「公爵、家族になるのですから、リギルで構いません」


「ああ、承知した。リギル殿」


とはいえ、エリス公爵と今後深く関わる事はそんなに無いだろうけど。

まあ親友の家だし、婚約者の実家だし、まだ険悪にはなりたくはない。


「しかし、リギル殿は随分と印象の良い好青年だ。君の隣に居ればうちの娘の陰気さも吹き飛ぶだろう」


ぶん殴ったろか?


瞬間的にイラッとした気持ちを僕は抑え込んだ。危ない、危ない。今日は我慢しないと。

後ろに立ってるユピテルを一瞬ちらっと見た。エリス公爵がおせんべいにされてしまう。


「シャウラは僕からすれば、とても素敵な女性ですよ。美しく見識が広く、思慮深い優しい方で、彼女以外に僕の婚約者は考えられないくらいです」


僕が笑顔でそう言うと隣でシャウラがちょっと照れて俯いた。めちゃくちゃ可愛い。

僕の言葉にエリス公爵は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔が戻った。


「リギル殿がそこまで私の娘を気に入ってくれているとは!仲が宜しいようで安心致しました」


「ええ。婚約式の後、なるべく早く彼女をユレイナス家に迎えたいと思っています」


慣例では婚約式から二ヶ月ほどで婚約者同士の同居が許される。つまりなるべく早くとは、二ヶ月経ったらすぐってことだ。

でも普通は二ヶ月より時間を空けてから同居する人が多いし、結婚して初めて一緒に暮らすって人も少なくはない。

だからこれは僕がそれだけシャウラを愛していて早く側に置きたいというアピールだ。


「…、まあ、それはとても良いと思いますわ」


さっきまで黙っていた公爵夫人が声を上げて笑顔を見せた。

夫人はシャウラを恐れて嫌っている、とシャウラ自身が言っていたけどこれは…。

シャウラに早く出て行って欲しいのだろう。なんか気分が悪い。


「愛し合う者同士は一緒にいた方が良い」


エリス公爵がすぐさまそう言ったのは、公爵夫人の態度がどう見てもあからさまだったからだろう。

エリス公爵の言葉にハッとした夫人は慌ててその通りですわ、と付け足した。


そのままお茶をしながら他愛のない話をする。

ちょくちょくシャウラsageをしてくるのが本当にムカついたので、その度にシャウラは素晴らしい、可愛いらしい、とシャウラを愛しているアピールをすると、だんだんシャウラに関する嫌味や悪口じみたことは言わなくなった。

僕がわざとやってると気付いたか、これ以上シャウラを貶めるのは得策ではないと判断したのだろう。


ちなみに僕の褒めの流れ弾を食らったシャウラはずっと恥ずかしそうにしていて可愛かった。


「リギル殿はウチの息子…、アトリアとも懇意にしてくれているそうだね」


「ええ、まあ、親友だと思っていますよ」


シャウラの話の代わりにアトリアの話にシフトしたらしい。

夫人は優雅にお茶を飲みつつ、あれから一言を話していない。


「今日はアトリアは居なくて残念です」


「息子は最近よく休日は婚約者のご令嬢と出かけたりしているようでな。今日もそうなのだろう」


「あの田舎伯爵家の娘ですわね。本当にアトリアが勿体ないですわ」


エリス公爵夫人は不機嫌そうに口を挟んだ。さっきからずっと不機嫌そうだ。

たぶん、シャウラと一緒にいるのが嫌なのだろうけど。

僕が居てもこの態度なんだからすごい。シャウラやアンカより悪役っぽい。


「滅多なことを言うな。ミラ嬢はリギル殿の友人でもあるんだぞ。それに彼女は…いや、とにかく、私はミラ嬢はアトリアにピッタリの娘さんだと思っている」


それに彼女は…と言いかけた先は聖女だろうか?


確定するまで誰にも話せないことだと言ってアトリアは父にだけ「ミラは聖女かもしれない」と話したとこの前言っていた。

最初に婚約の話を通したときは不満げにしていたらしいが、その話を聞いて態度が変わったらしい。

何も聞いていない夫人は相変わらず否定的なので、夫の言動に対して不審そうな目を向けている。


アトリアのほうもどうやらうまく計画を進めているみたいだ。


「僕もミラ嬢はアトリアにお似合いだと思ってます」


僕がそう言うとエリス公爵夫人は口を噤んだ。不機嫌さは隠せていない。

婚約式にも招待する予定だけど、婚約式でも同じ態度されたらやだなあ。体調が悪いとかで不参加してくれないだろうか。

公爵は外面を気にするから大丈夫だけど、夫人は多分他に人がいても態度を変えないだろう。

そう考えてユピテルに教えて貰った腹痛になる呪いを思い出した。

…けどすぐに頭の中から追い払う。うん、最終手段だこれは。


「リギル殿が言うなら間違いないな。我が家は安泰だ」


エリス公爵の言葉に僕はニコッと笑顔で返す。


「今日は夕食も是非我が屋敷で食べて行ってくれ」


「お気遣いありがとうございます」


晩餐を一緒に、というのは手紙に書いてあった。正直もう帰りたいけど、こういうのは数回しか無いだろうから我慢しよう。

厚意(と相手は思っている)を断って角が立つのは避けたい。シャウラの今後の為にも。


「では時間まではゆっくりしていて欲しい」


エリス公爵のその言葉がお茶会お開きの合図になった。ほっとした様子のエリス公爵夫人は挨拶だけするとそそくさと退散していく。


「…シャウラに屋敷を案内して貰いながら庭を散歩でもしようと思います」


エリス公爵邸の庭は広い。エリス公爵が拘って様々な花を植えさせたりしていて美しい庭だと有名だ。

僕が庭に興味があると知るとエリス公爵は上機嫌だった。

ああいう人間は機嫌を良くさせておけばいい。


エリス公爵も居なくなって、シャウラと二人きり(正確には後ろにユピテル)になると、僕はシャウラに手を差し伸べる。


「ご案内お願いできますか?シャウラお嬢様」


気取ってそう言ってみると、シャウラはクスッと笑った。

そして、笑顔で「はい」と答えながら、僕の手を取った。








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