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150・父様、ショックを受ける

ヴェラから婚約者について相談したいことがあると報告を受けた父様が話し合いの席を設けるのは早かった。

割と急ぎの内容であることもあるが、ヴェラからの相談というのがなかなかないのもある。

僕の時は結構待ったりしたのになぁとか思いつつ、状況が状況だから仕方ないし、急ぎだと言えば父様は無理矢理時間を作ってくれたかもしれない。


「…、そうか、ユピテルが良いと…」


ユピテルから報告を受けた時の僕のようになった父様は表情からは読み取れないが、多分僕と同じ気持ちだろう。

ユピテルから先に報告を受けていなかったら僕と父様でダブル考える人になっていたに違いない。


「だめですか?」


父様を見てヴェラは困ったように眉尻を下げた。しゅんとした様子のヴェラに父様は慌てた様子で顔を上げた。


「ダメではない…!あ、いや、その、しかしだな、歳が離れすぎてはないか?」


父様はコホンと咳払いをしてそう言うとユピテルを横目で見た。


「それに…、ユピテル……、アルケブ子爵は恋人や好きな相手などは居ないのか?…その、結婚が遅れてしまうと思うが良いのか?」


ユピテルをアルケブ子爵と言い直した父様からはとりあえずこの場では使用人のユピテルではなく、ヴェラの婚約者候補(仮)の貴族のアルケブ子爵として扱うことにしたという意思が汲み取れた。


「私は恋人も想い人もおりませんし、婚姻する予定もしたいという気持ちもありません」


ユピテルがしっかりそう伝えると、そ、そうか、と父様は口籠る。

自分からヴェラに婚約者が必要とか言い出しておいて、実際のところやっぱりヴェラに婚約者は嫌らしい。


「…、ユピテルは気心も知れてますし、能力や容姿でもヴェラに釣り合います。両親も居ないので面倒事も事実を知らせる人間や協力者も少なく済みますし、…僕は適任だと思ってます」


「お兄様…!」


僕の言葉にヴェラがぱあっと笑顔になる。それを見て父様が少しだけムッとした。

自分だけヴェラの味方になって好かれようとしやがってという訴えが僕を見る父様の目から伝わってくる。


へへっ、抜け駆けさせてもらうぜ。


「…、リギルは妙に冷静だな?」


「えっ、いやぁ、はは」


ギクッとなって笑って誤魔化しながら僕は頭を掻いた。多分これは僕だけ事前に知っていたのがバレた。

でもそんな疑いの目を向けないで欲しい。発案者は別に僕じゃなくて、本当にヴェラが言い出したのです。


「ヴェラは…、私はユピテルじゃないと嫌なのです…、お兄様の次に好きなので…」


は????泣くが?????

待ってヴェラが健気すぎて泣くが?????


お兄ちゃんが一番ってことだよね?それ???は?好き


「え、お父様は……」


「?お父様とお母様はユピテルの次です」


ヴェラが首を傾げながら言った言葉で僕が一番だと確定して思わずガッツポーズしそうになった。

しかし、無邪気とは恐ろしい。「そうか…」と返事をした父様は確実にショックを受けている。

私だって…忙しくなければ…とか呟いている。


「ユピテルは第二のお兄様なのです。優しいし、背が高くて王子様みたいでカッコいいです。紳士的で頭が良くてお兄様に似てます」


ユピテルが僕に似てるのは全力で否定したいけどとりあえず堪えた。というかヴェラの中のユピテルは結構美化されている気がする。


「そうか…」


父様はショックのあまりにそうかしか喋れなくなってしまった。可哀想。

ユピテルを横目で見るとコホンと気まずそうに咳払いをした。僕でもわかる。これは照れてる。


「…、とにかく、ユピテルの名前が出た以上はユピテル以上の適任は居ないと僕は思っています」


父様は僕の言葉を黙って聞くとユピテルをちらっと見た。ショックから少し立ち直ったらしい。


「娘をしっかり守れるか?」


「…ええ、もちろん今まで通り…、いえ、今まで以上にリギル様もヴェラ様も御守りすると誓います」


ユピテルが真面目にそう答えるので、父様はため息を吐きつつも渋々承諾した。

確かに他に適任はいないしな、と最後には完全に納得してくれたようだ。


「……近々、リギルの婚約式があったな」


「え、あ、はい」


実はシャウラとの婚約式が近い。聖女追放のごたごたの前に済ませてしまおうと思って少し時期を早めた。


「と言っても…、二ヶ月後ですが…」


古の魔族の学園カチコミのストーリーは冬だった。冬休み前だったと思う。今は九月なので二ヶ月後だと11月の頭で、聖女を入れ替える予定が11月の末の予定だ。

なるべく古の魔族を混乱させるためや噂話が浸透するまでまだ時間がかかりそうなど理由は多々ある。


まあ婚約式は僕の誕生日になりそうなので、逆にちょうどいいのだ。


「とりあえず書類上の婚約は早めにして、リギルの婚約式の時にヴェラの婚約についても周知だけさせよう。アルケブ子爵は貴族として婚約式に出席するように」


「…かしこまりました」


ユピテルは使用人として出る予定だったけど、まじか。

ちょっと戸惑う僕に反してユピテルは割と冷静だ。


「周知させなければ婚約の意味が無いからな。リギルの婚約式なら充分知れ渡る。余計な虫が寄ってこなくなるだろう」


その余計な虫に王太子も入っているのだろうと思うと、ちょっと面白く感じてしまう。


「アルケブ子爵、最後の確認だが本当に良いのだな?婚約破棄となった時、年齢差やヴェラが公爵家であることから君が悪かったと噂が回ったりするだろう。君の結婚に今後影響が出るかもしれない」


「それは本当に問題ありませんよ」


ま、竜だもんね!全く問題ないのは僕も知ってる!


結婚する気なんて本当にないだろうし、今後にマジで影響しないと考えると、ユピテルって本当に今回の件には適任である。

父様の話を聞いたヴェラが心配そうにユピテルを見上げたが、「大丈夫ですよ」とユピテルが笑いかけて宥めた。


「分かった。娘のために協力感謝する」


父様が誠心誠意頭を下げるとユピテルは少し驚いた様子で「頭を上げてください」とあわあわしていた。


「ヴェラ様からはちゃんと対価を貰えますから」


「対価?」


不思議そうに父様がユピテルを見る。ユピテルはちらっとヴェラを見てから、クスッと笑った。


「ええ、私の大好きな、ヴェラ様のお菓子です」




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