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148・とある執事とお嬢様2 (ユピテルside)

「やっぱり、迷惑?」


ヴェラ様が悲し気な目で見つめてきて、私は少しだけたじろいだ。


「…そんなことは」


歳の差などなんだと言うのは正直言って大した問題ではない。

しかし、ヴェラ様は私を竜だと知らないし、ヴェラ様は“精霊眼”の“精霊に愛されし者”だ。


精霊が私とヴェラ様の接触を許していないことなど、リギル様のげぇむという予言書の話を聞いてすぐに分かった。

げぇむの私は気に入らない相手はすぐに殺すし、裏切れば眷属でも殺すらしい。

実際には別に何もしてない相手を気に入らないからとすぐに殺したりはしないし、イザールやカフが何か理由があって離反しても殺すつもりはない。

私が手を下すときはかなりのそれなりの理由が必要だ。


例えばリギル様が王族の破滅を願うとか。


あのげぇむには精霊が介入しているのは明らかだ。

げぇむの前知識に私が危険人物だと記載することで転生者から私への関わりを絶とうとしている。


というわけで精霊にとってこれは好ましい事態ではないだろうと思う。


しかし…


(ヴェラ様を守りたいという目的は同じですからね…)


その為の手段だ。これは。


「…まず、私である理由をお聞きしても良いでしょうか?」


「……リオお兄様は好きだけど…、…その、婚約者役、なら、ユピテルじゃないとやだなって…」


ヴェラ様は俯きながらぽつぽつとそう答える。

これは薄々気付いていたことであり、まさかと否定し続けてきたことでもあるのだが…


(ヴェラ様はやはり、私に好意を持っているのでしょうか……)


しかし、まだヴェラ様は幼い少女だ。憧れとごっちゃになっているのではないだろうか。


やたら私に菓子を食べさせたがったり、リギル様が学園に行っていていらっしゃらない時はわざわざ私に護衛を頼まれて一緒に出掛けたり、わざわざ構いに来る。

なんとなく、何かしら私へ思うところがあるのでは、と思っていたのだが。


身分や年齢はともかく、私はそもそも人間ではないし、ヴェラ様の想いに応えられるか分からない。

しかし、初恋は叶わないとも言うし、ヴェラ様ももう少し大人になればちゃんとした相手を好きになるかもしれない。

今回は偽造婚約ではあるし、ヴェラ様にとって私が災難の雨から身を守るための一時的な雨宿り場所になればそれで良い。


「……、分かりました。リギル様や公爵様に一緒に相談してみましょう」


「いいの?」


私の言葉にヴェラ様は表情を輝かせた。本当に表情豊かなお嬢様だ。


婚約者がいればハエを追い払う良い口実にもなる。

やはり家格も高く美しいヴェラ様は引く手数多で、さまざまな貴族家から婚約の申し込みが来ている。

まだ、早いのだが、他の家を出し抜こうとどこも考えているということだ。


中には頭の古い貴族もいて“加護がない娘を引き取ってやる”といった内容のものもあった。私のようにヴェラ様のひとまわり上どころか公爵様より年齢が上の貴族もいたりする。

公爵様は半ギレしながらその全てを火にくべていた。

ヴェラに仮婚約者が出来れば公爵様のその心労もなくなるだろう。


リオ様が了承してくれるのならそれで良いとは思っていたのだが、あの方は優しいぶん少々頼りないし、ヴェラ様を守るという気概よりもリギル様の役に立ちたい気持ちが大きいようだ。

そのあたりはフォローするつもりでいたが、私が婚約者になればそれも必要ない。彼の方には別の形でリギル様の役に立ってもらうことにする。


「ただ、お二方が了承するかはわかりませんよ」


「説得がんばるわ!」


ヴェラ様が気合いを入れて握りこぶしを作った。

リギル様に毒されているのか、家族のように思っているからなのか、本当に可愛いらしいと思ってしまい、思わず咳払いをした。

ヴェラ様は不思議そうに首を傾げるがその姿も愛らしい。小動物のようだ。

リギル様や公爵様があれだけ過保護なのも分かる気はする。


「…、私も手伝います」


そう言ってヴェラ様に笑いかけると、ぽぽぽとヴェラの頬に紅が差した。どうやら照れているらしい。


ヴェラ様がお願いすればリギル様も公爵様も無碍には出来ないだろう。

ヴェラ様は甘やかされて大切にされているが自らわがままを言ったり物をねだることなど全く無いのだからこれが初めてのおねだりになる。


そう思うとあまり悪いことでも無さそうだ。


(精霊の望み通りにするのもシャクですし、関わる事自体も今更ですからね)


「ヴェラ様、その代わり、婚約者を演じる上で条件があるのですが」


「条件?」


ヴェラ様がこてんと首を傾げた。大したことではない。

あまりヴェラ様が罪悪感を感じない為の軽い“お願い”だ。しかも私にも益がある。


「お菓子を、私に毎日下さいませんか」


ヴェラ様は最近ほぼいつもお菓子を作ってらっしゃるので別に今までと変わりはないのだが。


「…えへへ、もちろんよ」


顔を綻ばせた後、それだけ?他にはないの?と不思議そうにするヴェラ様に大丈夫です、と優しく返事をした。


ヴェラ様の浄化の篭った菓子の効果はてきめんで、魔力の毒素だけを綺麗に浄化する。

いつまで作っていただけるかは分からないが、ほんの少しの期間でも身体に痛みがないのは実は少しだけ助かる。

本当ならヴェラ様のおかげで助かっていると感謝を述べたいところだが、それはやめておこう。


純粋なこの方を様々な不安や苦しみから守りたいのだ。

それはもちろん、自分わたしからも。


ヴェラ様は他人の為に傷ついて、他人の為に涙を流せる方で、自分が出来ることを精一杯しようと努力する。

良いところなのだが、過剰にならないか些か心配で、だからこそ私の正体を明かしたりしてヴェラ様がどう思うか不安だし、他人にヴェラ様を任せて後悔したりとかも御免だ。


(リギル様が嫌がったら、必ず別れるという契約書でも書こう)


きっといつかヴェラ様に私が必要無くなる時は来るであろうし。そのときにヴェラ様の障害にならないように出来れば良い。


ヴェラ様の幸せにつながるなら目の前から消えることもありだろう。


どうせ一緒に一生を生きられず、死なない竜なのだから。






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