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146・ラケルタ邸にて

「それで結局どうしたらいいか分かんないからオレんとこに来たと」


急な訪問にため息を吐きつつ、リオは迎え入れてくれた。

ヴェラが焼いたお菓子を手土産に持ってきたので許して欲しい。


「ヴェラとユピテルも一緒だよ」


「見たらわかるよ」


リオにヴェラがにこーっと微笑むとリオは少し表情を崩した。恋愛感情はないとはいえ、兄妹同然に育ったヴェラにはリオも弱い。


「偽装婚約って…オレに好きな人できたらどうするわけ?ヴェラちゃんもだけど」


「ヴェラはともかく、リオには諦めてもらうしか」


「もしかしてオレの人権ない?」


あまり他人に話せないこと相談してくれたのは嬉しいけどさぁ、とリオはぶーたれる。すまん、リオに話してないこと他にめっちゃある。

とりあえずヴェラにどうする?と話したら、リオお兄様の意見も聞いてみますか?と言うので速攻来たのだ。休みだったし。


てか、リオにするかどうかはともかく、近々リオが恋愛するとしてもその相手リオのトラウマ源だし何かある前に諦めて貰ったほうがいいんだよな。

そんなことを考えていると、リオはちらっとユピテルの方を見た。


「ユピテルじゃだめなの?」


「えっ」


「え」


僕とユピテルの声が重なった。ユピテルは心底意外という顔をしている。

父様と僕の間では年齢的にも候補には上がらなかった。


「ユピテルはちょっと年上だけど適任じゃん?」


「え、ちょっとかなあ…?」


ユピテルは自称二十六歳でヴェラは十三歳になったばっかりだ。ひとまわり違う。

ユピテルがヴェラと婚約したらロリコン呼ばわりされそう。だって筋書き的には恋愛婚約ってことになるわけだし。

ユピテルは実際は竜で全人類歳下だからこうなると本来は誤差の範囲ではあるけどね。

そもそも王太子クソ野郎の話が無ければヴェラの婚約なんて三年以上早いのだ。


「歳上の男と結婚なんて貴族にはよくあることじゃん?」


僕はさすがにうーんと唸った。リオはそう言うが、それは政略結婚の話だ。恋愛婚約になるとまず聞かない。たまにあるけど。

ヴェラと僕がユピテルを振り返ると、ユピテルは困った顔をした。


「さすがに無いです」


ユピテルにそう言われて、ヴェラがちょっとしゅんとした。それを見たユピテルは少し慌てたように付け足す。


「ヴェラ様にはもっと素敵な方がいらっしゃるかと。私では色々な意味で釣り合いが取れません」


「そうかなあ…、ユピテルは見た目が良いのと能力が高いから誰も文句言わない気がする…」


リオが口を尖らせながらそう呟いた。まあ、リオの言う通り、顔面偏差値の高い僕の周りの人たちの中でもユピテルは飛び抜けて顔が良い。

人間じゃないから人間離れしている。能力においてもそうだ。


「ヴェラちゃんはどう思ってるの?」


リオに聞かれて、ヴェラは目をぱちくりさせた。


「私はよく分からなくて」


とりあえず、王太子の婚約者にされるのがマズいことは力説したのでヴェラも分かってはいるのだが、恋愛とかまずよく分からないヴェラからしたらどうしたらいいのかとか相手が誰がいいとかは分からないらしい。

リオお兄様なら嫌ではないです、と言っていた。


「リオお兄様なら本当のお兄様みたいに思ってるので嫌じゃないですよ」


「えっ?そう???」


リオが少しだけ破顔した。本当のお兄様みたいという単語が余程嬉しかったらしい。

まあ、オレも本当の妹みたいに思ってるけど〜なんて言いながら頭を掻いている。


「ユピテルも嫌じゃないです。ユピテルもヴェラのお兄様みたいなものなので…」


ヴェラにそう言われながらじっと見つめられたユピテルも少し照れ臭そうにしている。

ありがとうございますとか言いながら澄ましているけど僕には分かるぞ。


「あとはもう、ハダルくらいしか居ないけど、他国の貴族だからね」


ハダルに関しても年齢はユピテルとさほど変わらず離れているし、他国というのはちょっとハードルだ。

そもそもアンカの受け入れもしてくれる予定なのであまり負担を増やしたくはない。

でもリオは違う意味でハダルだと心配のようだった。


「えー?あの人そこまで信用できる?」


転生の話を知らないリオからしたら、最近出会った鑑定士で他人である。至極真っ当な意見だ。

友人になった話はしたのだけど、やっぱりヴェラを任せるには心許なくないかと言われた。

リオはリオでヴェラのことを真剣に心配してくれているみたいだ。


「そもそもリギル友達少なさすぎだよね」


「リオがそれ言う?」


とはいえ、リオの言う通りに僕に信頼できる友人が少ないのが悪いっちゃ悪い。

全く他と付き合いが無いわけではないが、僕の男友達と言えるのはリオとアトリア、ハダルくらいなものだし。

でもリオだって僕ら以外に友達いないの知ってるんだからな。


「アスピディスケ侯爵代理は?」


「アヴィはアヴィで読めないところあるからなぁ…」


ちょっとお世話にはなったけれど、アスピディスケ侯爵が父様の友人でもアヴィは違う。ハダルと違って転生者でも友達になったわけでもない。


「いっそ仕組んでどこか令息の一人を借金まみれにしてから助けて契約でガチガチに固めますか?」


「ユピテルの発言いちいち黒いんだよ」


まあいよいよヤバいってなったら父様はそこまでしそうではあるけれど。

あ、ちなみにユピテルからカフは隣国行くからダメだけどイザールとかどうです?と言われたのは丁重に断った。アレは駄目。


「…、まあどうしても駄目ってなったら協力はするよ。書類上だけでいんだよね?ヴェラちゃんの社交デビューはまだまだだし…」


社交界に出るとなればパートナーとして出席、とかもあるが、基本社交デビューはこの国では魔法学園卒業後なのでリオの言う通り、婚約者である事実と書類を交わせば問題はない。

リオは元々うちに通い詰めているので仲の良さも大して疑問視されないだろう。


「リオありがとう…」


「リオお兄様ありがとうございます」


ヴェラと共に感謝の意を述べるとリオが少し照れながらいいけどぉと呟いた。

なんだかんだリオって押しとか情に弱いよね。


あれほどヴェラに関わらせるまいとは思っていたけどこうした形でリオに頼ることになるなんて思ってもいなかった。

小さな頃から関わって(不可抗力だったけど)育てたかいがあるというものだ。

すっかりひねくれずに育ってくれてお母さん嬉しい。

とりあえず僕も出来るだけこれからもリオを守るからね…!


「まぁ、最近はアトリアばっかだから、リギルの頼る先がオレしかないってのも悪い気はしないし…」


リオが何かボソッと呟いたのは僕にはよく聞こえていなかった。


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