144・父様と昼食
「リギル様、今日の昼食を一緒に摂りたいと公爵様から伝言がありました」
朝起きてすぐにユピテルにそう言われて嫌な予感がした。
というか、父様が僕を呼び出す事自体少ないので普通に胃が痛い案件だ。
しかも、昼食を一緒に、ってことは忙しいから昼食の時間を話し合いの場にしたいってことだし、昼食に話し合いをねじ込むぐらいだから急ぎの話しなのだろう。
今日は休みだし一日ゆっくりする予定だったけど、そういうわけにもいかなくなってしまった。
不安を抱えたまま昼休みになって、父様の執務室を尋ねる。
父様の執務室は中の扉から隣の部屋に食事などを摂れる休憩スペースがあって、昼食はそこにユピテルが持ってくると言っていた。
父様の執務室の近くまで来るといつもは使用人がよく通るのに人気が全くなくて、これは完全に人払いされているなと感じた。
多分、通行禁止令みたいなのが出てる。
ユピテルも食事を運んできたら控えると思うし、他人に聞かれたらマズイ話なのかもしれない。
執務室のドアをノックする。返事が返ってきたので、ゆっくりドアを開けた。
僕の姿を見つけると父様は手を止めて立ち上がった。
「リギル、よく来たな。こちらで食べよう」
父様はそう言いながら休憩スペースのドアを開けた。
父様が席に着いてから促されて僕も席に着くと、タイミングよくユピテルが昼食を持ってきて、テーブルに置くと礼をして去って行った。
小さなテーブルなので近くて余計に緊張してくる。
「あの、何かお話があるんですよね?」
「…純粋に息子と二人で食事がしたかったとは思わないのか?」
父様はそう言いながら眉尻を下げる。失礼だけど、全く全然思わない。
思わないので、思いませんとはっきり答えるとやれやれとため息を吐かれた。
しかし実際は一体どうなんだ?と僕は首を傾げて父様を見る。
「人払いもなされていたので」
「よく見ているな。まあ話があるのは確かだが…」
そう言いつつ父様は学園はどうだ?などの世間話から聞いてくる。
「エリス嬢とはどうだ?婚約式の準備はつつがなく進んでいるか?」
「ああ、はい」
シャウラとの婚約式は実はそろそろの予定だ。
これから色々バタバタしてしまいそうなので、聖女交代計画の前に行いたいと思っている。
準備はもう前からしていたが、近づいてきた最近は色々な書類やら招待状の作成で忙しい。雑務をこなしながらそっちも進めている。
「そうか、彼女がうちに来るのが楽しみだ」
「気が早いですよ…」
そういえば、父様はりきってシャウラの部屋を準備させていた。
家具など内装はシャウラや僕に任せるからとまだ何もない部屋だけど、僕の部屋の隣の部屋を綺麗に片付けさせてあとは家具を運ぶだけになっている。
シャウラが来るのを僕より楽しみにしてるかもしれない。
「婚約式の前に一度エリス嬢を交えて家族で食事をしたいのだが、予定を聞いておいてくれ」
「分かりました」
もしかして話ってこれか??婚約式の話なら確かに大切な話ではあるけれど。
でも後の父様の言葉であ、本題は違うな、と思った。
「…、エリス嬢といえば、王太子の元婚約者候補だったな」
「あ、はい…」
父様の顔つきが真剣になった気がする。ここで王太子の話が出るということは、父様まで現聖女と王太子の話…、つまり聖女が偽者かもという話に王太子が騒ぎ立てていることが父様の耳にも入ったのでは無かろうか。
「現在は王太子は聖女と恋仲らしいが、学園で何か聞いているか」
学園で何かどころかガッツリ関わっているのだけど、あんまり本当のことは言えない。
父様を信用していないわけではないのだけど転生や未来のことは逆に信じて貰える自信もないし。
「聖女が偽者だと噂が回っていて、王太子が憤慨しているみたいです。それ以上はあまり」
それ以上の噂はまだ何もない。学園では。
「…、別に聖女がいるかもしれないという噂がある。代々聖女は一人だから、本物がいるという話から今の聖女が偽者かも知れぬと話が回ったようだ」
父様はさすが詳しく把握しているらしい。確かに本当の聖女がいるという話から流したので全く正しい情報だ。
多分新聖女がミラだと分かれば関わってたの父様だけにはバレるだろうな。
「王族は王太子の評判が落ちることを懸念しているようだ」
今回の件があれば、偽の聖女を恋人にした王太子は見る目がないと言われるし、聖女が偽者じゃないと主張したことも過剰に騒ぎ立てたと言われるに違いない。
果たして王に相応しいのか、そんな疑念が多少は生まれるだろう。
「そうなると、王太子の次期婚約者は評判の良い好かれる人間になるだろう」
つまり、婚約者でバランスを取ると。
実際婚約者というのは王族には大切だ。未来の伴侶がしっかりしていれば大丈夫だろうと周りも判断する。
「ヴェラが候補に上がってくる可能性がある」
「え」
思わぬ言葉に思考が停止した。
ヴェラがナンダッテ????
「…、え、その、ヴェラは王妃教育を受けてないですよ…」
王妃教育は十歳頃から始まり、王族の婚約者候補みんなに適応される。
でもヴェラの歳では今からだと数年遅れている。
「取り戻せる範囲だろう。ヴェラは優秀だからな」
あ、親バカ出た。
「リギル・ユレイナスの方が王太子に相応しい、貴族の間でそんな意見が飛び交っているのだ」
「……、初耳です」
思わずマジですか?と言いそうになってなんとか言葉を変えた。
僕の王位継承順位は低いはずだけど、なぜそこで僕の名前が出てくるんだ。
「シャウラ嬢は王妃教育を受けているからリギルが王太子になっても問題ないだろうということや、孤児院での慰問で民の人気を集めていること、リギルの能力が“精霊に愛されし者”ではないのに非常に優れていることなどが挙げられている」
孤児院の慰問はシャウラが子供が好きだからという理由でずっとしたかったというので少し前から二人で始めたことだ。
色んな施設に行って子供と遊んだり、勉強を教えたり、寄付したりはしているけれど。
「そんなリギル・ユレイナスの妹との婚約なら王太子の評判も取り戻せるかもしれないだろう」
話はそれでここに着地するらしい。つまり僕のせいか、マジか。
「しかし、ヴェラをあの王太子の嫁にやるつもりは髪の毛の先ほどもない」
父様が冷たくそう言い放った。それは僕もマジで同意見だ。
ヴェラは嫁にやるのはもってのほかだし、相手が王太子ならもっとダメだ。
「…、ヴェラには婚約者が必要だろうな」
父様の呟きに一瞬構えたけど、言いたいことはすぐに分かった。
つまり、ヴェラを偽装婚約させるべきという話が今日の本題だったらしい。
更新遅れ気味で申し訳ないです…!ちょっと現実が忙しいやら体調やらで…!
涼しくなるので更新頻度戻していきたいです…




