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143・王太子についてと

アルファルド・サン・プラネテス。


ゲームのメインヒーローであり、プラネテス王国の第一王子、王太子。

可愛らしいルックスと可愛いらしい声、王子様そのものと言えるような性格(外面)、反して、本性は自己中で傲慢、目的のために手段を選ばないクズであり女関係にもだらしない(が、うまく処理しているようである)というキャラだ。

表と裏のギャップ、ヒロインに絆されていく様子、普段は可愛らしい声が裏モードではハスキーなイケボに……そういったところが人気のキャラだった。

まあこうして現実にいると、あっ、クズだ。近寄りたくねえ。なんだけど。


「聖女様がニセモノって噂話が回ってきて、王太子が本気でブチ切れているらしいです」


「うわっ、こわぁ…」


書類整理中、ユピテルに耳と口が暇だから世間話でもしてくれと言ってたわいのない話をしていた。

そしてだんだん話はシフトしていき、僕たち(というかユピテルたち)が流した『聖女が偽者』という噂話についての行き先になった。


「もちろん、王太子はまだ魅了されているので彼女が偽者なわけがないという怒りですが」


「うーん、やられてるねえ…」


王太子への魅了もアンカが夏休み前にはやめたはずなのだけど、一番一緒にいたともあって魅了による洗脳が相当らしい。

聖女の噂話について王太子が怒っている、という噂話も回っているのだとユピテルは言う。

アンカにはなるべく今まで通りに王太子と接することをお願いしたが、あのことを話すと、


「オエッ…最悪…、冗談じゃないわ…」


そう言って顔を歪めていたらしい。


実は王族だと知れば欲が出てしまうかもしれないと思って話すか悩んでいたのだけど、アンカの様子を見てシャウラが大丈夫だと思うと言ったので任せたのだ。

アンカは自分が姫だったことにびっくりしていたが、本来は兄(か弟)であるアルファルドに魅了をかけて誘惑していた事実にそれ以上の衝撃と嫌悪感を抱いたらしい。

ちなみに第二王子アルメイサンについてはまだ接触すら出来ていなかったらしく、嫌な気分が二倍になるから会えてなくて良かったと言っていたそうだ。


「このまま聖女様を庇い続けたら聖女様が逃げた後にミラ様が新聖女になった際に王太子も失脚するかもしれませんね」


ユピテルが愉快そうにそう言った。ハッピーエンドが好きと言いつつ王太子が失脚するかもしれないのを面白がるあたり、やっぱりユピテルはこっちに肩入れしてるんだな、と感じる。


「……、ユピテルってさあ、なんでウチにきたの?」


ユピテルの顔をじっとみて訪ねた。そういえば元々は王族の紹介なんて言ってはいたけど、細かい経緯を僕は知らない。

父様だからユピテルも断れないということはなく、打診された程度だっただろう。


「そうですね。王城に(趣味で)潜入していて…、たまたまユレイナス公爵様がなんでも出来る使用人を探しているとのことでお声がかかって、とりあえず会うだけと上から言われ、お会いしてみたのですが…」


「ですが?」


「ユレイナス公爵様の白銀の髪色が父のようで懐かしかったので」


ユピテルのそのセリフに僕は言葉を失った。つまり、ユピテルは死んだお父さんの面影を父様に見たってこと…?結構理由が重かった。

でもそれだけの理由でチートの竜を仲間に引き入れたのだからラッキーだったかもしれない。

いや、来た時はマジで終わったと思ったけどね?


「リギル様、マジで終わったって顔してましたよね」


ユピテルがそう言ってクスッと笑った。え?いま僕の心読んだりしました????


「思えばリギル様は私が竜だと知っていたのですから、まあ驚いて当然ですよね」


「…、いや、うん、まあ、ちょっと偏見もあったけど…」


ゲームでは絶対的な悪みたいな書かれ方をしていたユピテル。人間の感情も分からなければ他人を思いやるなんてもってのほか。

冷たい性格でヒロインすら突き放す。そんなキャラクターだった。

でも、ユピテルは意外と感情的だし、よく笑うし、身内にはめちゃくちゃ甘いし、実際ヴェラにも絆され気味だし、よく気を使ってくれる。

時々残忍な考え方がちらほらするけど、邪悪な竜、邪竜なんて言うほどではないんじゃないか、と最近は思っていた。


「やっぱりアレって結構商品としての脚色とか、そういうのがあったのかもなぁ…」


「例の予言書ですか」


「うん、まあ、そう」


「面白そうなので手元にあれば是非見てみたいですね」


「やめとけやめとけ……」


実際には僕の手元に記憶を頼りに僕が書いたものがあるのだが、まあ日本語だしじゃなくてもうろ覚えで僕の解釈が入っているからユピテルに見せるのは恥ずかしいし無理だ。

二次創作をキャラクター本人に読まれるみたいな。


「ユピテルのキャラクター全然違いすぎるし」


「ふむ、私は神の管轄外なので精霊も細かく見れなかったのかもしれませんね」


「あ…、そうか」


人とのハーフとはいえ、異世界からこぼれ落ちた唯一に竜の子供であるユピテルは神の管轄外らしい。

つまり、ギフトが魔族に効かないみたいな、ユピテルの千里眼でギフトの効果や有無が見れないみたいな、お互い干渉できない何がある。


ゲームが未来視による予言で、避けるべき未来を確かめるためである以上、ユピテルがゲームで攻略対象だったのは、ユピテルに関わるのは良くないという警鐘だったのかもしれない。

まあもうガッツリ関わっているんだけども。

神も精霊も分からないものを恐れているのかもしれないな。


「ちなみに私はどんな…?」


「人間を取るにたらない虫けらのように見下していて、領域に他人が踏み込んだら殺すし、裏切ったらイザールでも殺すし、なんなら世界を滅ぼそうとしたりしてた」


「世界を……、それはちょっともったいないですね」


「もったいない?」


「ええ、リギル様がいらっしゃる世界を滅ぼすなんて、勿体ないでしょう」


ユピテルがいい笑顔で僕を見た。ちょっとときめきかけたけど、僕がいなかったら滅ぼす可能性があるとかそういう???いや、自意識過剰か。


「おだててもなんも出ないからな」


「おや、事実ですのに」


ユピテルはリギル様にこの忠誠を分かって貰えず悲しゅうございます、なんて分かりやすくないたフリなんかをする。

まあとにかくこういうのを見てるとやっぱりなんかゲームとは違うんだよなぁ。


「…、……まあイザールやカフを殺すなんてこともあり得ないでしょうね。人間を虫けらなんて思ってもません。せいぜい子犬くらいです」


「こ、こいぬ……」


それはそれでどうなんだ?とユピテルを見るがユピテルはにこにこしている。

ユピテルの発言を全部真に受けると身がもたなそうだ。

僕は冗談もほどほどにして、とため息を吐くと、目の前の資料の整理に集中することにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初期のような2人の警戒と信頼の間の微妙な感じが好きでしたが、今の感じもまたお互いの変化が感じられていいですね。
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