139・王族はもう…
アンカ、アルファルド、アルメイサンは同じ学年だ。
つまり、国王、全く同じ時期に三人の女性に子供を産ませたってこと。最低である。
とはいえ、王子は二人だけど、姫はたくさん居たはずだ。子供多いのだ。国王には妾もたくさんいる。
「王族の血筋が一番ならなんで王族…聖女以外に精霊眼の本来の精霊に愛されし者が居ないの?」
「え?魂が駄目なんじゃないですか」
いや、ミラの言い方よ。即答だった。ちょっとだけ笑ってしまったじゃないか。まあ魂の親和性がないってことか。
「…聖女が王族に生まれたことは以前にもありますよ。ですから、今の姫に居ないだけで無かった訳ではないのではないでしょうか」
ユピテルの言葉にちょっと納得した。
「…そういえば、聖女はたびたび生まれるのに勇者は…?」
「ああ、勇者は…、最初も血筋が一番良かっただけですかね。勇者が精霊眼だったという記述はありませんし。……というか、どうやら魂の親和性というのは女性の魂が高いようなんですよね」
そういや、聖女の男版は聞かないし、今までいなかったっぽい。精霊眼の男性もハダルだけだ。
そのハダルだって前世は女性なのだから、魂は女性なのだろう。
「…それは何で?」
「分かりません。なんでですかね…」
うーん、と首を傾げてから精霊に聞いても多分わかんないです、とミラが言う。
まあ、そうなら仕方ない。分からないことを追求してもな…。
「ちなみに精霊にとっては血のつながりとか兄妹とか些末事のようです」
「人間には些末じゃないんだよぉ……」
精霊ってなんていうか、やっぱり倫理観が欠落している。
まあ人間じゃないから仕方ないんだろうか。
“精霊に愛されし者”を守ること、それが最重要で、それ以外の細かいことはどうでもいいってか。
まあ元の世界にあったのはゲームなので、ゲームでは問題ないとしても、あの未来がこの世界であった可能性があるってのは問題だ。
逆に主人公の中身が今の彼女で、彼女が逆ハーとか言ってシナリオを掻き乱して元のシナリオが潰れたことや、身体が逆に転生したことによってミラがギフトを手に入れ、精霊から情報を貰えたことは良かったかもしれない。
ミラが主人公に転生して王太子か第二王子と結ばれていたら何かちょっとアレだし…。
「人間に教えられないこともあるみたいで…、精霊も全てに答えてくれるわけではないんですよね…。それでも私の側にいる一番位の高い水の精霊は真面目な性格なほうのようで…、できる限りは色々教えてくれるんですが…」
「何で国王は平民と子供を……」
「どうやら今の王太子の様に自ら女性に取り入って情報収集したりしていたみたいです。そのために市井にも行っていたとか…?まあ平民のフリをして……行きずりの恋という…」
僕は頭を抱えた。もう、王族滅びたほうがよいのでは???
急に古の魔族を応援したくなってきた。いや、アイツらはアイツらでダメか。
てか、精霊何でも知っていて怖すぎる。
「では、国王も知らないし、アンカ様のお母様もまさか娘が国王の子だとは思って居なかった…ってことですわね……、確かにそれでは誰も知りようがありませんわ」
シャウラが真面目に分析する。魔法で見た目を変えることができるのでそうしていたなら聖女の母は本当に知らなかっただろう。貴族だったかもくらいは思っていたかもな。
ちなみにDNA鑑定とかはないが、魔法などでやりようによっては血のつながりを調べることはできる。
さらにめんどくさい事態になるのは必至なので、バレないようにしなければならない。
「まあ正直共有すべき情報でもないのですが…、これでアンカ様が精霊眼で聖女な理由は分かったでしょう?」
「…、うん、まあね…?」
血筋や魂の親和性がどうこうみたいなさっきの話を聞いて、アンカの血筋が分からなかったらモヤモヤしていただろう。
「でもまあ、父様の隠し子じゃなくて良かった」
「もっと公爵様を信頼してあげてください…、というか、そうだったら絶対言いません…」
ミラが呆れたように言った。そう、父様の隠し子だったらミラは気を遣って絶対言わないだろう。
だからこそ、知らなかったら絶対モヤモヤした。いや、本当に良かった。良くないけど。
「(ユレイナス家以外の)王族もう滅びたほうが良いのでは?」
「ユピテルしー!」
言っちゃったよ!
でもシャウラもミラも同じことを思っていたのかちょっとクスッと笑ってしまった。
ユピテルは冗談ですなんて言ってしらばっくれるが、多分半分くらいは本気だ。
「ところで、わざわざ魂を異世界から連れてくる理由というのは?」
ユピテルの問いかけにミラがユピテルの方を見た。それに関しては僕も気になる。
「魔力を長く使うと魂が疲弊するそうです。ですから、五百年に一度のたまに、魔法のない世界とこちらを魔力に多く触れた魂は行ったり来たりさせて魂が壊れないようにしている、と精霊は言っていました。特に精霊に愛されし者や貴族の人間は魔力を使う機会が多いですから、行ったり来たりさせられるのはその辺です」
「魂の疲弊…、魂を壊れないようにする為…。元々人間は魔力を使うように出来てませんからね。なるほど」
「…、それって、長い目で見ればみんな“異世界転生者”ってこと?」
「まあそうなんですが、鑑定で転生者と記載されるのは前世が異世界だった場合のみで、記憶も覚えてられても前世までみたいです」
つまり前前世が異世界でも“異世界転生者”にはならないし、異世界の記憶は残らないと、なるほどややこしい!
ちなみに魔族は精霊の管轄外なのでこの世界のみを循環するらしい。
まあそもそも人間の神と魔族の神は違うしね。
神話を初めて読んだときはどうせ乙女ゲームの世界だしな〜なんて思っていたが、乙女ゲームのほうが後付けなんで誰が思うか。僕のいた世界とこちらの世界、こんなに密接だなんて思わなかった。
「そもそも、前世の記憶があるのすら珍しいですから…。…前世までの記憶しか残らないのは精神を守る為でしょうね」
ユピテルの呟きに僕は同意し、頷いた。ヴェラなんかは実際に前世の記憶がないわけだし。
どういうワケかたまにポロッと前世でしか知らないような単語が出てくるけど。
前世で殺されたなんてマジで病むので、覚えてなくて良かった気もするんだよね、やっぱり。
「死に際の記憶すら鮮明ですからね、死に方によっては覚えていること自体辛いでしょう」
ミラもそう言いながら同意した。そうか、ミラも死んだ時のことを覚えてるんだ。
死に際の記憶くらいは消してくれればいいのに、精霊って気が利かないな。
「ちなみに転生者には共通点があります。死んだ日が同じことです。同じ日に死んだ人から魔力の親和性が高い人間が選ばれてこちらの世界に来ます」
「死んだ日が同じ……」
僕たちが通り魔に刺された日に何かが原因で聖女も死んで、ミラは寝たきりって言ってたし、病気か何かで死んだ。そういうこと。
僕も魔力の親和性が高かったんだろう。ヴェラのそばに居られるから、微妙にしぶとく次の日まで生き残ったりしなくて良かった。
「聖女様って何歳で何で死んだんでしょうね?」
ミラがうーんと首を傾げる。本人には直接聞いたりは出来ないけど、まあちょっとだけ気になる。
でも悲惨だったら思い出させるのも可哀想なので、やっぱり聞かないけど。
「多分小学生とかじゃない」
精神年齢的に。
「ええ、それは、うーん…どうなんでしょう…、いや、……否定は出来ませんね…」
ミラは唸りながらそう言った。まあ元が小学生でも思い出してから何年か経ってるはずなんだけどね。
ずっとゲームだと思ってたから、精神年齢成長しなかったのかな?




